鉄血のブルートアイゼン+

どるき

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魔王の娘と大会当日

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 スポーツ大会の当日。
 学校のレクリエーション行事のためこの日は授業を休んで大会は開かれており、代表選手以外の生徒は雑用に駆り出されたりサボったり試合観戦をしていたりした。
 朋子らが一回戦で戦う相手は一年一組の堤翔と川澄朱乃のペアだった。朋子にも勇にも面識がない生徒だったが、ある上級生の生徒はその戦いに注目していた。

「負けるな翔、あのバカップルをコテンパンにしちゃえ」

 恥ずかしくて叫べないが心の中で彼女はそう思っていた。
 馬院兄弟の一件で朋子らと一方的に関わった、探偵見習いの新藤美鈴は二階席から試合を見ていた。
 堤翔は美鈴の幼馴染にして相棒である。それに美鈴は朋子のバカップルぶりに一方的な怒りを持っているので、風邪を治した彼に倒してもらいたいと願う。

「それでは十五ポイント三セット、一組からのサーブで試合開始です」

 そんな美鈴の願いをコートの四人は知らないままに試合は始まる。
 サーブを放つ朱乃のフォームは思いのほかダイナミックで朋子より一回り小さい乳房をぷるんと揺らす。スナップを効かせたサーブは朋子の手前で失速しそれを朋子は軽く弾いて返す。

「せい!」

 脇を突かれたのだが翔は身軽なフットワークを見せてシャトルに追いつき叩きつけた。
 開始早々とは言えスタミナ配分など度外視のハッスルは見事に先制点を奪っていった。
 第二サーブでは同じ手を喰わぬようにと朋子はコート奥を狙って山なりに返す。流石にそれには追いつこうとしないが、朱乃が力いっぱいにラケットを振るいシャトルが返される。

「(速攻で決めるつもりね)」

 朋子はこうなれば我慢比べだと執拗に奥を狙う。後衛同士の打ち合いは先にミスした方が負ける。
 パンパンとシャトルが往復すること五回、朋子は先にミスをしてしまう。

「もらった!」

 ラリーの間にジワジワと後ろに下がっていた翔はついにギリギリで届く高さのサーブに飛びついたのだ。
 前衛の位置からなら失速するよりも先に届くとバトミントン部員顔負けのスマッシュが放たれた。
 勇も抵抗してみたが防ぎきれずシャトルは明後日の方向に跳ねて二点目を取られた。
 流石に翔もバトミントンの上級者ではないので全てを狙い通りと迄はいかないが、昨日の練習でコツを掴んで以降の谷川に匹敵する翔の動きに為す術もなく破れてしまった。
 第一セットが終わってしばしの休憩を使い、朋子は対抗策を練ることにした。

「相手は一組のエースなのかな? こんなに強いなんて」
「今度は私が前に出るわ。勇は後ろをお願い」
「どうするつもり? まさかインチキするとは思わないけれど」
「少し目立つかもしれないけれど本気を出すわ」

 朋子は魔族としての身体能力をフルスロットルにして挑むことにした。
 勇にとっては石使いとして身体能力を強化するのはインチキという気持ちがあって控えていたが、朋子の身体能力は生来のモノである。
 ルビーで強化した状態の勇ほどではないが、見た目から考えられるよりも身軽だし力も強い。バトミントンという競技の特性を考えれば身軽さだけ見せるぶんには凄いとは思われても異様と思う人間はいないだろうと朋子は思っている。

「別にテレキネシスでズルするわけじゃないし大丈夫よ」
「僕はインチキになると思ったから石を持ってきていないけれど、確かにいきなり負けるのは悔しい。よし、任せたよ朋子」

 第二セットは朋子のサーブで開始されたのだがその鋭さは会場を驚かせた。身体能力任せながらラケットのスイングが鋭すぎて力技で速いサーブが打たれたからだ。
 受け手の朱乃は返すのに精一杯でイージーボールとなる。そこに再び渾身のスマッシュを重ねることで朋子はポイントを奪った。
 面食らった翔と朱乃は持ち直す事が出来ないままに攻められ続けて、第二セットは朋子の一人舞台と言っていいほどの試合となる。
 勢いそのままに捲し立てて第二セットを取った朋子は噴き出す汗をタオルで拭う。流石に本気を出しすぎたようで吐く息も荒くそれはまるで行為中の喘ぎ声に似ていた。

「大丈夫? 疲れたのなら僕がカバーするよ」
「平気よ。それよりあと一セット、頑張ろうね」

 全身汗まみれの朋子は気合いで第三セットに挑んだ。
 流石に第二セットのような一方的な運びは疲れによって出来ないが、互いに総力戦となり一進一退の攻防が続く。

「ピー!」

 サーブを前に審判が笛を鳴らす。
 得点は十四対十四の互角でこれが最後のゲームとなる。
 サーブを打つのは勇で、翔はそれを睨むように待っていた。

「あと少しなんだから決めなさいよ」

 観戦する美玲も応援に熱が入る。

「ツァ!」

 最後だからと気合いを入れて掛け声と共に勇はサーブを打った。
 サーブはまっすぐ翔に向かい、回り込んでフォアハンドに翔は打ち返す。
 ネットすれすれを鋭い打球が超えていき、ネットを超えたところでストンと落ちる。試合中に何度か試していた変化球がここぞという場で決まって翔は左手を強く握った。

「えい!」

 だが負けていられないと朋子は飛びつきラケットはシャトルに届いた。勢いそのままに返されたシャトルは山なりのイージーボールとなって朱乃に向かう。
 朱乃は今度こそと打ち返すが勇の守備範囲内だった。
 勇はスマッシュで返して逆王手を狙う。

「負けるな!」

 美玲の想いが届いたのか翔がスマッシュに伸ばした手は偶然にも倒れる朋子の元にシャトルを返した。
 起き上がったばかりの朋子の胸にシャトルが飛び込み、汗で濡れた胸元にシャトルは刺さる。

「え?」
「ピー!」

 試合終了の笛が鳴り、観戦する美玲はガッツポーズをした。
 思いがけないあっけない最後だが全力を出し切った朋子に悔いは無い。
 息絶えてへたり込んだ朋子を勇が抱えてコートをあとにした。

「お疲れ様」
「負けちゃったね」
「でも相手も強かったし仕方ないよ」
「せっかくだから勝ちたかったのに―――」
「負けたのは悔しいけれど、普段とは違う朋子の姿も見れたし楽しかったよ」

 汗だらけの朋子は艶やかに濡れていた。
 負けたのは悔しいがこのまま食べてしまいたい程のいやらしさに勇はムラムラと彼女を見つめた。

 更衣室のシャワーで汗を流した朋子は濡れていた。髪の毛は湿り気を帯びて肌も心なしか潤ってしっとりしている。
 シャンプーによる石鹸のさわやかな香りは鼻腔をくすぐり出迎えた勇をムラムラさせる。

「どうしたの?」
「な、なんでもないよ」

 必死に我慢したが少し股間が出張っていた。他の生徒は見ていないが朋子だけは気付いている。だから当たり障りのない言葉をかけるが心の中では彼のイチモツに目を奪われる。

「負けちゃってこれ以上の出番もないし、サボっちゃおうか?」
「ダメだよ」
「いいじゃない」

 サボって勇としっぽりしたい朋子とまじめに学校行事に参加するべきだと考える勇は言い争う。そうしているうちに校内放送で二人は呼び出された。

「───ってことで、頼んだよ神代さん」

 呼び出したのは高天原で、彼女が言うに負けた選手も大会運営に協力しなければいけないと言うことだった。だからダメだと言ったんだと言いたげな勇と勇が反対しなかったから逃げられなかったとむくれる朋子は対照的になる。
 それから高天原の優勝で一年生の部が締めくくられるまで二人は雑用に駆り出された。
 放課後下校の時間になっても朋子は依然としてむくれ顔になっていた。

「そんなに怒ることはないじゃないか」
「だって面倒くさい手伝いをやらされたんだよ」
「そう言われてもなあ―――」

 勇は朋子の機嫌を治すにはどうすればいいか頭を悩ます。そして彼女の怒りの根本を思い返して一つのことに気がつく。彼女はサボってしまおうと言ったがその理由は何だろう。それさえ判れば答えは得たも同然である。

「カラオケでも寄っていこうか?」
「いいけれど……一昨日も行ったばかりよ」
「少し叫びたい気分になったんだ。ムシャクシャしたら叫ぶとスッキリするんだよ」

 勇はやや強引ながら朋子をカラオケボックスに連れ込んだ。一昨日と同じ部屋なのであのときの続きがしたいなとムラムラとした気が立ち込める。
 おもむろに勇はガイライバーのテーマソングを熱唱して音程も気にせず声を荒げる。三曲続けて叫び終えたところで勇は朋子に抱きついた。

「ちょっと勇……」
「今日はゴメン。僕が真面目ぶったから面倒なことを押しつけちゃって」
「もういいよ。許してあげる」

 勇の方から力強く抱きつかれるのは朋子には新鮮だった。昨日の時も感じたがこれまではえっちの時でもそれ以外でも抱きつくのは自分からなのだからさもありなん。
 朋子は唇を軽く重ねてから勇に囁く。

「どうする? このままここで最後までしちゃおうか?」
「昨日叱られたばかりだしマズいよ」
「でもお預けはもっと嫌よ。勇の方から誘っておいて酷いよ」
「だからキスまでにしておこう。それ以上は薬局に行ってから」
「そう言う事ね。でも生の方が気持ちいいって聞いたけど」
「ゴムの一つくらいあっても気持ちいいはずさ」

 二人は抱き合い、唇を重ねて、胸を高鳴らせた。
 スポーツ大会が終わりそろそろ朋子がこの町に来て一カ月が経とうとしていた。
 生まれて一カ月にも満たない青いつがいは交尾であろうとなかろうと今日も愛を囁き抱き合っていた。
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