上 下
150 / 172
第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜

イヴの欠片2

しおりを挟む
 《イヴの欠片》とそのパートナーは、先祖返り並みのパワーと驚異的な回復能力を持ち合わせている。また、自身の身体と引き換えに他者を癒やしたり、常識では考えられない力を発揮する。

少数派の最大派閥マイノリティ・マジョリティ》、ユグド&レジスタンス。
言霊セイレーネス》、セイ&リーシャ・バーデンベルグ。
岩乗構造ロバスト・ロック》、リズ。《代替生成オルト・ジェネレーター》、リラ。二人合わせて《小さな王国リトル・マインクラフト》。
《翼(仮)》、グレイジー&クリストファー・レイネット。

「これが《イヴの欠片》と各パートナーの能力名だ」
「……これ、アスカが命名したんですか?」 

 ふふんと唇の端を吊り上げてアスカは得意げに笑い、一方でクリスくんは苦々しげに眉根を寄せる。

「そうだが、それがどうした?」
「……いえ、なんでもありません」

 クリスくんの返答は尻すぼみになって消えてしまった。
 無理もない。こんな厨ニ病全開の能力名をつけられては、恥ずかしくて外も歩けないだろう。うかうかしていたらアスカは勝手に翼の能力名を付けてしまうだろうし、早急に自身で命名しておくのが良いだろう。
 と、そんなことを俺は思っていたのだが、実はそうでもないようだ。

「……くそう、予想以上に良いネーミングだ。僕も真面目に考えないと……」

 アスカに聞こえない程度の声量で、彼はぼそりと呟いていた。どうやら対抗意識を燃やしていたらしい。

(……クリスくん、厨ニ病って知ってる?)
「? 知りません。 新しい病気ですか?」

 知らないようだった。この世界に厨ニ病は存在しないらしい。そういえばクリスくん、以前にヤンキーの格好でポーズ決めまくってたな。きっと、腕に包帯巻いたりするのが好きなんだろうな。

(んーん。なんでもないよ)
「なんです? 急に優しげな声色になって……。何か企んでたりしないですよね」

 そんなことしないよ。予想以上に子供らしい一面を見せてくれたクリスくんを微笑ましく思っているだけだよ。君の中で俺はどういう風にプロファイルされているんだ、まったくもう。

 セドリックさんの墓参りを終えた俺達はアスカの部屋に来ていた。自室への戻り際、ちょうど医師のガンマさんとアスカの部屋の前で遭遇したので、そのまま診察をすることになったのだ。クリスくんたちはレジスタンスに来てから(昨日を除いて)毎日欠かすこと無く診察を受けている。《イヴの欠片》とそのパートナーについては未解明なことが多く、日々観察を続けているのだそうだ。

「《言霊セイレーネス》ってことは、セイとリーシャは《声》か《音楽》に関する能力ですかね。あ、もしかして《歌姫》って、能力ありきですか?」
「んー? んー。まあ、半々だな。」

 クリスくんは上裸になりガンマさんの診察を受けつつ、ベッドにあぐらをかくアスカと会話している。

「あいつは地声がいいからな。仕事のときは能力なし。地声しか使ってないって言われても、まあ、信じられないことはない」
(ということは、《声》に関する能力ってのは当たりってことか)

 まーなーとアスカは肯定する。
 へー、どんな能力なんだろう。気になる。

「そうだな。まあ《声》でできることは基本何だってできると思っていいな。あいつの能力はおっもしれーぞ? 見てみての、いや、聞いてみての、いやいや、見て聞いてみてのお楽しみだ」

 しっしっしと悪戯っ子のような笑みを浮かべ、アスカは言う。

「はい、後ろ周ってー」

 ガンマさんの掛け声とともに、くるりとクリスくんの座る回転椅子が反転する。
 ガンマさんは、今年で御年70歳となるお爺さん。ふさふさの白髪をピシリと整え、銀縁メガネの似合う矍鑠とした御方である。言葉遣いも丁寧だし、前の世界のディエス爺とは同じ爺にしても雲泥の差である。

「アスカ達の《少数派の最大派閥マイノリティ・マジョリティ》はいいとして、リズリラの能力はちょっとやばそうな名前してますね……。どういう能力なんですか?」

 触診するガンマさんを気に留めず、クリスくんが尋ねる。

 ふむ、二人の能力は《岩乗構造ロバスト・ロック》と《代替生成オルト・ジェネレーター》。二人合わせて《小さな王国リトル・マインクラフト》か……。ん?

(そういえば、なんでリズとリラは能力が二つあるんだろ。それぞれが《イヴの欠片》だから一つずつ能力があるのは分かるんだけど、二人合わせて《小さな王国リトル・マインクラフト》っていうのは……?)
「ああ、最後のやつは別段《能力》ってわけじゃないんだけどな。なんていうか、その組み合わせがヤバくてな。クリス、補修手伝ったんならリラの《代替生成オルト・ジェネレーター》は想像がつくだろ? リラは簡単な物体なら生成・加工して自在に変形できる。床の穴埋めや天上の補修用の素材を容易く用意できるってわけだ」

 ふーん。物体の加工・生成か。ちょっとした職業系スキルみたいな能力だな。

「リズの《岩乗構造ロバスト・ロック》は、ちょいと特殊でな。物体の硬度や建築物の強度が目に見えて分かるらしい」

 と、そう言ったきりアスカは口を閉じる。え、それで説明は終わりなんだろうか。

「……レイジーのガードを突き抜けたパンチ。アレもそれですかね?」
「だろうな。地下施設もトンネルも、《岩乗構造ロバスト・ロック》が無ければ無理だったな。正直、あれはヤバイ」

 剣呑な顔つきになる二人。え、そんなにヤバイ能力なんだろうか。

「ヤバイもヤバイですね。というか、その能力単品ならまだ良かったんですが、リラの《代替生成オルト・ジェネレーター》とのコンボがヤバイです。……なるほど、それで《小さな王国リトル・マインクラフト》ですか。言い得て妙ですね」
「だろ?」

 俺を放置して分かり合う二人。ちょいちょい君たち。若い二人で分かり合わないで。説明を求む。

「えーと、そうですね。悪霊さんにも分かりやすく説明しますと……」

 とそこでクリスくんは言葉を切る。もったいぶっているわけではなく、ガンマさんの診察が終わったのだ。お礼を言って、クリスくんは服を着始める。

(分かりやすく説明すると……?)

 続きが気になるので答えを促してみた。クリスくんは上着を着つつ、ちらとこちらに目を向ける。

「……容易に国家転覆できる能力です」
 
 何でも無さそうな口調と表情から、とんでもねえ答えが返ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したらついてましたァァァァァ!!!

夢追子
ファンタジー
「女子力なんてくそ喰らえ・・・・・。」 あざと女に恋人を奪われた沢崎直は、交通事故に遭い異世界へと転生を果たす。 だけど、ちょっと待って⁉何か、変なんですけど・・・・・。何かついてるんですけど⁉ 消息不明となっていた辺境伯の三男坊として転生した会社員(♀)二十五歳。モブ女。 イケメンになって人生イージーモードかと思いきや苦難の連続にあっぷあっぷの日々。 そんな中、訪れる運命の出会い。 あれ?女性に食指が動かないって、これって最終的にBL!? 予測不能な異世界転生逆転ファンタジーラブコメディ。 「とりあえずがんばってはみます」

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

召喚されたけど不要だと殺され、神様が転生さしてくれたのに女神様に呪われました

桜月雪兎
ファンタジー
召喚に巻き込まれてしまった沢口香織は不要な存在として殺されてしまった。 召喚された先で殺された為、元の世界にも戻れなく、さ迷う魂になってしまったのを不憫に思った神様によって召喚された世界に転生することになった。 転生するために必要な手続きをしていたら、偶然やって来て神様と楽しそうに話している香織を見て嫉妬した女神様に呪いをかけられてしまった。 それでも前向きに頑張り、楽しむ香織のお話。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

処理中です...