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第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜

コンちゃん vs 剣神と闘神と創造神と課長

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 空と大地ごと斜めにズレる・・・バラクラードの街。

(なんだこれ……)

 驚愕と困惑。それ以外にどう表現したらいいか分からないが、とにかく世界が壊れていた。

「剣神さんの得意スキル『次元斬』ですね。空間ごと何でも切り裂くスキルです。神器のパワーですごいことになっちゃってますが……」

 死神さんが目の前の光景を解説してくれる。次元斬とはまたゲームとかでありがちなスキルだな。固体でない空も綺麗に切り裂かれているし、理屈はわからないけど空間ごと切り裂くというのは誇張でも何でもないらしい。

 そんなことを考えていると、斜めに切り裂かれた世界が徐々に元の状態に戻り始めた。

(おろ、世界が戻り始めたぞ)
「とりあえず斬ってから斬りたい対象以外を元に戻すスキルですからね。発動が早いぶん攻撃を躱すのが大変なんですよ。当たると痛いですし」

 なにそのとりあえず殴ってから考える的な脳筋スキル。あと、当たっても痛いで済むのか。死神さんの口ぶりから察するに、この攻撃受けたことがあるように聞こえたけれど。

「ええ。何回か喰らったことあります。全装備フルカスタム状態でもだいたい5回くらい受けると死にますねー」
(痛いで済んでないじゃん!)
「まあ、死んでもすぐに復活できますから大丈夫ですよ。っと、危ない!」

 死神さんが身を屈めると、甲高い音が一瞬だけ空間に響く。次の瞬間、さっきまで彼女の頭があったところが綺麗に切断されていた。俺達の背にあった大岩が斜めにズレて止まる。

 こんなところまで攻撃が届くのか。見えなくなるまで離れたけど、全然安全な場所じゃないぞ!

「大丈夫です。次元斬は斬りたいと思ったものだけを斬るので。巻き込まれてもすぐに元に戻ります」
(あ、そうか。でも、だったら避けなくても大丈夫じゃないのかな)
「大丈夫ですけど、自分の切断面見たいんですか? 悪霊さん」

 嫌そうな顔をして死神さんは言う。ふむ、確かにそれは嫌だな。
 新たな攻撃を察知したのか「危ない!」と言って再び身をかがめる死神さん。
 でもまあ、身体のない俺は喰らって問題ないから躱す必要はないな。死神さんと違って躱せるとも思えないけど。

 そんなことを考えていると、俺の視界に映るものすべてが左右で斜めにズレはじめ、やがて止まった。おいおい、更に攻撃の規模が膨らんでるじゃないか。

「あー! 悪霊さん、次元斬喰らってるじゃないですか! 斜めにズレてますよ!」
(え、まじで!?)

 慌てて死神さんを見ると、彼女も斜めにズレていた。視線を変えるとそれに伴い斜めのズレも移動する。そうか、攻撃の規模が膨らんだのではなく、俺が真っ二つになってたんだな。だから世界全体が切れたように見えたのか。

(痛みがないから気付かなかった)
「次元斬で良かったですね。他の攻撃を喰らってたらやばかったんじゃないですかね」

 まじか。九死に一生である。次元斬の効果が切れたのか、徐々に俺の視界は元に戻り始めた。

(さっきから次元斬が飛んでくるけど、まだ決着はついてないのかな)

 コンちゃんは大丈夫だろうか。

「えっと、……そうみたいですね。剣神さんの攻撃をコンちゃんが躱しまくってますね」

 まるで見てきたように言う死神さん。どうして分かるんだろう?

「スキル千里眼を発動していますので」

 そう言ってピースする死神さん。ずるいずるい! 俺もみたい!

「駄々っ子ですか。うーん、スキルを渡すのはさすがに駄目なので、視界を共有しましょう。悪霊さん、ちょっと失礼しますね……」

 死神さんは俺の頭のあたりをもぞもぞと弄る。ふふふ、くすぐったい。やがて、俺の視界が白く染まったかと思うと、先程まで見ていた光景とは別の光景が見え始めた。

 ここは、さっきまで俺と死神さんが居たバラクラードの街だな。あちこち斜めにズレていたり、何かの攻撃の余波か黒くベタ塗りされていたりするが。あ、創造神さんと上司さんの二人がいるぞ。コンちゃんと他二名の神様は……、あれ、いないな。どこに行ったのだろう。

「どうです? 見えてます?」
(見えてます。いやー、すごいですね死神さん。まるで神様みたいです)
「えへへー。照れますね」

 照れてる場合か。二つの意味で。

(それにしても、コンちゃんと剣神さん、闘神さんはどこに行ったんだろう。全然見えないんだけど)
「え? さっきから三人で戦ってますけど……。あ、そうか、悪霊さんの処理能力がついていかないんだ。ちょっと負荷かかりますけど、見たいですか?」
(もちろんだ)
「了解です。ちょっと情報量増えますから、注意してください」

 死神さんがそう忠告し、俺の頭を触る。途端に集中力が増したときのように視界の隅々まで見えるようになり、すべての動作が緩慢となる。まるで、スロー再生された動画を眺めているようだ。瞑想と少し似ているが、リソースを思考ではなく視力に全部費やしたような気分である。精神力がガリガリと削られていくが、耐えられないほどではない。

 やがて、スローで再生する景色の中に、動く二……いや、三人の人影が見えてきた。人影は徐々に正確な人の形を成していく。コンちゃんと剣神さん、それに闘神さんだ。

「どうです? 大丈夫ですか? 見えますか?」
(はい、なんとか見えてます。この光景が当たり前に見えるなんて、死神さん達はすごいですね)
「いえいえ、そんなことは。それにしても、コンちゃんすごいですね。剣神さんと闘神さんの攻撃をすべて避けきってますよ」

 死神さんが驚嘆する。
 剣神さんの次元斬と闘神さんの猛攻がコンちゃんを襲うが、彼女は二人の猛攻を見事に躱しきっていた。攻撃の余波を受けて歪な音とともにバラクラードの街はざっくばらんに切り裂かれ、黒い穴が空間に穿たれていく。次元斬の攻撃は元に戻るが、それ以外の攻撃はこの世界に爪痕を残したままだ。これは大丈夫なのだろうか。

「大丈夫です。時間停止中なので修復も容易ですから」

 死神さんが俺の疑問に答えてくれる。なるほど、封絶とか特撮ワープみたいなご都合主義だな。

「さて、視界だけじゃ状況がよく分かりませんね。音も拾いますけど、悪霊さんも聞きたいですか?」
(もちろんだ)

 再び頭をふにふにと触られると、一瞬だけ音が消えた後、イヤホンをつけたように向こう側の音が聞こえ始めた。


「……っち、ちょこまかと躱すなあ。攻撃が当たりゃしねえ」
「……」

 舌打ちする剣神さんと無言の闘神さん。闘神さんは対戦中でもしゃべらないのか。

「ほっほっほ。なかなかスリルがあって楽しいの。遊園地のアトラクションみたいじゃて」
 
 そう言って、ころころとコンちゃんは笑う。身体どころかワイシャツにすら傷一つついていない。ふわふわ尻尾も健在である。

「仕方ない。いつものやるぞ、闘神」

 剣神さんの言葉に闘神さんは頷くと、身を屈み、次の瞬間には高く高く跳躍していた。コンちゃんの注意が一瞬だけ上空に逸れる。それを見越して剣神さんは彼女に迫り剣を振るうが、紙一重のところでコンちゃんに裂けられてしまう。

「単純な揺動に引っかかるほど間抜けじゃないぞ」
「っは。揺動じゃねえよ。今だ! 俺ごとやれ、闘神!」

 上空の闘神さんが、その巨大な拳を地面へと思い切り振るう。ただ空から真下に向かって拳を突き出しただけだが、スキルは物理法則を無視して適用される。

 歪な音が重なり、コンちゃんと剣神さんを中心として、彼らを乗せたあたり一体の地面が深々と陥没する。

「ぬ、身体が重い……?」
「広範囲攻撃だ。読みどおり、これなら当たるな」
「むう。じゃが、動きづらいだけじゃぞ。それにお主も喰らっとるではないか」
「それで十分だ。俺の速度は倍加する」

 次の瞬間、剣神さんの姿が消える。
 再び彼の姿を捉えたときにはコンちゃんの身体はコマ切れに切断されていた。

「スキル『アクセルブースト』。遅すぎなんだよ、お嬢さん」

 崩れ落ちるコンちゃんを尻目に、剣神さんはそう呟いた。
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