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第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
秘密2
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ベティさんは、しばらく呆けたように黙ったあと、
「嘘」
と言った。
「そんなの嘘だ。隊長が死ぬもんか。クリスが何を見たか知らないけど、クリスが何を知ったか知らないけど、あの砲弾で撃たれても平気で立ち上がる隊長が、たかが宇宙船の不時着くらいで死ぬもんか!」
ベティさんは、早口でまくしたてる。いつになく、彼女は真剣な顔をしていた。
「……父さん、砲弾で撃たれても平気だったんですか?」
「うん。平気な顔して立ち上がって、笑ってた」
「……それは、知りませんでした。やっぱり、とんでもない人ですね、あの人は」
彼はクスリと笑う。
「だから、絶対、オスカー隊長は生きてーー」
「僕が見たのは、部屋の端っこにガラクタのように積まれたテラ・マーテル号の残骸と、いくつかの記録でした」
ベティさんの台詞を遮ってクリスくんは言う。
「記録には、音信不通、観測不能となったテラ・マーテル号が、突然テラ近くの宙域で発見されたこと。そのままテラへと突入したこと。衝撃に耐えられなかったのか空中で分解し、炎を上げながら不時着したこと。そして、残骸の中に燃え残った端切れや安全靴が発見されたことが記載されていました」
「端切れや、靴……?」
「ええ。調査の結果、それらは乗組員三人の軍服であることが判明したそうです。その結果を受けて、三人を死亡としたことが、地下のファイルには記録されていました」
「死亡としたって……」
「ええ。状況的に、そう判断したということでしょう。そして、死体が発見されたという記録はありませんでした」
クリスくんはいったん口を閉じる。
「……ということは、まだ隊長が生きている可能性はある、ってことでいい?」
「ええ。ですがーー」
「あーもう、良かったー! びっくりさせないでよー、もう! もう少しで、クリスが忍び込んだ、その地下室とやらに突撃するところだったじゃない!」
力が抜けたように、ベティさんはその場にぺたんと座り込む。
「……話、聞いてました? 確かに死体は見つかってませんが、父さんが生きている可能性もかなり低いんですよ? それこそ、二進八疑どころじゃありません。宇宙船から空に投げ出された可能性だって十分にありますしーー」
「え? 聞いてた聞いてた。大丈夫。生きてる可能性がゼロで無ければ無問題! もともと隊長達は、ガイアで行方不明だったわけだし、それこそ生きている保証なんて全く無かった。だから、望みがあるなら希望は持てる。信じるだけだよ、私は」
そう言ってベティさんは、にししと笑う。
「……ベティ姉さんはすごいですね」
「すごい? どこが?」
「その前向きさが、ですよ。僕はとても、そんな風には思えませんでした。少し、羨ましいです」
「そう? まあ、私も生まれつき前向きだったわけじゃないんだけどね」
「え、そうなんですか?」
「うん。むしろ隊長が居た頃はネガティブだったかな。けっこう弱音吐いてたし……って、この話は今はどうでもいいや。それで? クリスの話はこれで終わりじゃないんでしょ? レイジーとソフィ様はどこで関わって来るの?」
ベティさんはクリスくんに続きを促す。
「ええ。話にはまだ続きがあります。宇宙船の残骸から死体は発見されませんでした。記録装置も壊れてしまっていて、父さんたちの動向の手がかりになるようなものは、発見されませんでした。ーーただひとつを除いて」
「ひとつを除いて?」
「ええ。正確にはひとりを除いてと言ったほうがいいでしょうか。分解し、焼け焦げた宇宙船には、非正規の乗組員が居たことが確認されています。その乗組員は、落下の衝撃にも関わらず、命を失わずにテラへと来ることができました」
「非正規の乗組員って……? オスカーさん達以外にも、ガイアへ向かった人が居たの?」
アンナが尋ねる。
「いえ、そうではありません。その非正規乗組員は、テラの人間ではありませんでした」
「テラの人間ではなかった……?」
「それって……」
「まさか……」
護衛の二人も思わず声を漏らす。
「ええ。その人物はガイアからの来訪者です。父さん達は、ガイアの人類と交流することはできていたようです」
「おお。さすが、オスカー隊長! それじゃあ、その人に聞けば隊長たちのことが分かるかも!」
「いえ。残念ながらそれはできませんでした。なぜなら、その人物はガイア着陸の衝撃で記憶喪失になってしまったからです」
「えー、そんなー」
「……待て、それっておかしくないか? どうして記憶喪失の人間がガイア出身って分かったんだ? 宇宙船着陸に巻き込まれたテラの人間の可能性だってあるだろ?」
ラインハルトが疑問を呈す。
「それは、宇宙船の近くに倒れていたその人物が、人と同じ形をしていたにも関わらず、中身は全く異なる生命体だったからです」
「異なる生命体?」
「……人間じゃ、なかったの?」
「端的に言うと、その通りです」
クリスくんは静かに肯定した。
「その生命体は人と同じ形をしつつも、その質量は人と比べるべくもなく重く、半身が削がれても生存できる驚異的な回復力を持っていました」
クリスくんの言葉を聞いたミヤナギさんとラインハルトが反応する。
「記憶のないその人物は、十代後半の女性のような姿をしていました」
女性三人が、はっとしたように彼女へと視線を向ける。
「その女性の存在は帰還した宇宙船とともに秘匿され、表向きは人造人間としてエイビス研究所で研究対象となっていました」
そして、俺も彼女を見る。彼女は、黙ったままクリスくんの話を聞いていた。
「その女性こそが、レイジーです。彼女は、人造人間ではありません。惑星ガイアで生まれ、あの環境で育った、僕たちとは異なる生命体です」
「嘘」
と言った。
「そんなの嘘だ。隊長が死ぬもんか。クリスが何を見たか知らないけど、クリスが何を知ったか知らないけど、あの砲弾で撃たれても平気で立ち上がる隊長が、たかが宇宙船の不時着くらいで死ぬもんか!」
ベティさんは、早口でまくしたてる。いつになく、彼女は真剣な顔をしていた。
「……父さん、砲弾で撃たれても平気だったんですか?」
「うん。平気な顔して立ち上がって、笑ってた」
「……それは、知りませんでした。やっぱり、とんでもない人ですね、あの人は」
彼はクスリと笑う。
「だから、絶対、オスカー隊長は生きてーー」
「僕が見たのは、部屋の端っこにガラクタのように積まれたテラ・マーテル号の残骸と、いくつかの記録でした」
ベティさんの台詞を遮ってクリスくんは言う。
「記録には、音信不通、観測不能となったテラ・マーテル号が、突然テラ近くの宙域で発見されたこと。そのままテラへと突入したこと。衝撃に耐えられなかったのか空中で分解し、炎を上げながら不時着したこと。そして、残骸の中に燃え残った端切れや安全靴が発見されたことが記載されていました」
「端切れや、靴……?」
「ええ。調査の結果、それらは乗組員三人の軍服であることが判明したそうです。その結果を受けて、三人を死亡としたことが、地下のファイルには記録されていました」
「死亡としたって……」
「ええ。状況的に、そう判断したということでしょう。そして、死体が発見されたという記録はありませんでした」
クリスくんはいったん口を閉じる。
「……ということは、まだ隊長が生きている可能性はある、ってことでいい?」
「ええ。ですがーー」
「あーもう、良かったー! びっくりさせないでよー、もう! もう少しで、クリスが忍び込んだ、その地下室とやらに突撃するところだったじゃない!」
力が抜けたように、ベティさんはその場にぺたんと座り込む。
「……話、聞いてました? 確かに死体は見つかってませんが、父さんが生きている可能性もかなり低いんですよ? それこそ、二進八疑どころじゃありません。宇宙船から空に投げ出された可能性だって十分にありますしーー」
「え? 聞いてた聞いてた。大丈夫。生きてる可能性がゼロで無ければ無問題! もともと隊長達は、ガイアで行方不明だったわけだし、それこそ生きている保証なんて全く無かった。だから、望みがあるなら希望は持てる。信じるだけだよ、私は」
そう言ってベティさんは、にししと笑う。
「……ベティ姉さんはすごいですね」
「すごい? どこが?」
「その前向きさが、ですよ。僕はとても、そんな風には思えませんでした。少し、羨ましいです」
「そう? まあ、私も生まれつき前向きだったわけじゃないんだけどね」
「え、そうなんですか?」
「うん。むしろ隊長が居た頃はネガティブだったかな。けっこう弱音吐いてたし……って、この話は今はどうでもいいや。それで? クリスの話はこれで終わりじゃないんでしょ? レイジーとソフィ様はどこで関わって来るの?」
ベティさんはクリスくんに続きを促す。
「ええ。話にはまだ続きがあります。宇宙船の残骸から死体は発見されませんでした。記録装置も壊れてしまっていて、父さんたちの動向の手がかりになるようなものは、発見されませんでした。ーーただひとつを除いて」
「ひとつを除いて?」
「ええ。正確にはひとりを除いてと言ったほうがいいでしょうか。分解し、焼け焦げた宇宙船には、非正規の乗組員が居たことが確認されています。その乗組員は、落下の衝撃にも関わらず、命を失わずにテラへと来ることができました」
「非正規の乗組員って……? オスカーさん達以外にも、ガイアへ向かった人が居たの?」
アンナが尋ねる。
「いえ、そうではありません。その非正規乗組員は、テラの人間ではありませんでした」
「テラの人間ではなかった……?」
「それって……」
「まさか……」
護衛の二人も思わず声を漏らす。
「ええ。その人物はガイアからの来訪者です。父さん達は、ガイアの人類と交流することはできていたようです」
「おお。さすが、オスカー隊長! それじゃあ、その人に聞けば隊長たちのことが分かるかも!」
「いえ。残念ながらそれはできませんでした。なぜなら、その人物はガイア着陸の衝撃で記憶喪失になってしまったからです」
「えー、そんなー」
「……待て、それっておかしくないか? どうして記憶喪失の人間がガイア出身って分かったんだ? 宇宙船着陸に巻き込まれたテラの人間の可能性だってあるだろ?」
ラインハルトが疑問を呈す。
「それは、宇宙船の近くに倒れていたその人物が、人と同じ形をしていたにも関わらず、中身は全く異なる生命体だったからです」
「異なる生命体?」
「……人間じゃ、なかったの?」
「端的に言うと、その通りです」
クリスくんは静かに肯定した。
「その生命体は人と同じ形をしつつも、その質量は人と比べるべくもなく重く、半身が削がれても生存できる驚異的な回復力を持っていました」
クリスくんの言葉を聞いたミヤナギさんとラインハルトが反応する。
「記憶のないその人物は、十代後半の女性のような姿をしていました」
女性三人が、はっとしたように彼女へと視線を向ける。
「その女性の存在は帰還した宇宙船とともに秘匿され、表向きは人造人間としてエイビス研究所で研究対象となっていました」
そして、俺も彼女を見る。彼女は、黙ったままクリスくんの話を聞いていた。
「その女性こそが、レイジーです。彼女は、人造人間ではありません。惑星ガイアで生まれ、あの環境で育った、僕たちとは異なる生命体です」
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