上 下
7 / 172
第1章 働かなくてもいい世界 〜 it's a small fairy world 〜

友達100人

しおりを挟む
「私は、死神です」

 目の前の女性はニコニコしながらそう言った。

(……しにがみ?)
「そうです。死神です」
(死神っていうと、あの、死の間際に現れたり、生き物を死に追いやったりするあの……)
「そうですね。それも仕事のひとつです」
(ドクロの姿で鎌を持ってて……)
「ああ、そういう姿もたまにしますね。コスプレみたいなものでしょうか」
(りんごしか食べない……)
「? 好物はお肉ですよ?」
(……お、お、お)
「お、お、お?」
(俺を食べる気だな!?)
「! 心外ですね! 食べませんよ! てか、今の貴方、お肉持ってないじゃないですか!」
(! そうだった。訂正する! 魂を食べる気だな!)
「へ? 魂って食べられるんですか?」
(そんなもん、俺が知るかァ!)

 くそう! 永遠とも錯覚する孤独を乗り越え、ようやく話し相手が見つかったと思ったらなんとびっくり神様で、よっしゃーこれで俺もチート能力ゲットだぜー! 異世界転生謳歌できるぜー! うっひょーと思った束の間その神様がよりにもよって死神だとーう! こんなもん、デスルートまっしぐらじゃねえか! 

 ああ、終わった。異世界転生(仮)が始まったのにも関わらず体がなかったのは、そもそも俺が転生することすら何かの間違いで、きっとどういうわけだか魂だけがこの世界に迷い込んでしまったのだろう。だから、死神さんは俺を迎えに来るのが遅れてしまい、ロスタイムのような最後の人生をセミルたちと過ごしたのだ。そして、その魂もこの死神に狩られて終わる。ああ、あっけない異世界人生だったぜ。これが本当のエンディングだ。恨むぜ、魂の管理を間違えちゃったおっちょこちょいの神様。

 しかし、あれだな。最後にかわいい女性と話ができただけでもラッキーってもんだ。うん、そうだな。これ以上、かわいい死神さんを困らせるなんて、男のすることじゃない。潔くお縄につこう。
 
「ズズーッ。あ、正気に戻りました?」
 
 かわいい死神さんはイスに座ってお茶を飲んでいた。

「ふふ、かわいいなんて言われると、照れちゃいますね」
(いやぁ、お恥ずかしい姿をお見せしました。もう大丈夫です。俺をあの世へ連れて行って下さい)
「いえ、そんなことはしませんよ」
(へ? 俺を迎えに来たんじゃないんですか?)
「違います。私はメッセンジャーです。メッセージをお伝えに来ました」
(メッセージ? 誰から)
「私の上司からですね」
(上司? というと、偉い神様ですかね)
「そうですね。偉くて、起こると怖い人です。メッセージを読み上げますので聞いていて下さいね」

 ごそごそと死神さんは折り畳まれた神を広げた。

「えー、こほん。

 『背景 新緑の候、風薫るさわやかな好季節、悪霊様におきましてはますますご活躍のことと存じます。初めてお手紙を差し上げますが、私は■■■■と申します。
 実はこのたび、悪霊様には異世界転生をしていただきたく思います。もしも賛同いただけるのであれば、少々お願いしたいことがございます。詳細については、死神■■■■■にお聞きくださるようよろしくお願いします。
 それでは、悪霊様の今後のご活躍とご発展を心からお祈り申し上げます 敬具
 ■■■■』

 メッセージは以上となります」
(……)
 
 なんというか、お祈りメールみたいなメッセージだったな……。あと、名前とか聞き取れなかった部分があったけど……。

「申し訳ありません。ヒトには聞き取れない名前となっております」
(ふぅん、そうなのか。可聴域超えてるのかな)
「それでですね、悪霊さん。メッセージにもありましたが、もし異世界転生に賛同いただけるのであれば、幾つかお願いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 そう言って、両手を胸の前で合わせてギュッとする死神さん。これはかわいい。 が、かわいい姿に騙されはいけない。うーん。ちょっと考える時間がほしい。今のメッセージを聞く前だったら、『はい』と答えていたかもしれないけど、なんか一気に胡散臭くなったな。ちょっと怪しい。

「あ、怪しくなんかありませんよ! 異世界転生なんて滅多にないチャンスですよ! い、一生に一度、一億円の宝くじに当たるか当たらないかぐらいのチャンスですよ!」

 死神さんはちょっとシドロモドロしなが言う。ますます怪しい。試しに賛同しなかったらどうなるんだろう。

「え、賛同していただけないんですか? それは、ちょっと困りますぅ」

 お、オロオロし始めた。なんか後ろめたいことがありそうだ。

「どうしても、駄目ですかぁ。駄目ならせっかくかわいいと言っていただきましたが、これでお別れですぅ」

 へ?

「残念です。悪霊さんは、一生その体で、この世界を彷徨うことになります。よほど運が良くないと、これから一生、誰とも出会えませんが、私は悪霊さんの意思を尊重するです。それではサヨナラです……」

 そう言って、死神さんの体はスゥーと透けていった。

(ちょ、ちょちょちょ、ちょ待てよ! ちょ、待って下さい、お願いします! 疑ってごめんなさい。異世界転生でも何でもしますから、行かないで下さい! お願いしますだー!)

 俺は慌てて消えゆく死神さんにすがりつく。もし体があったとしたら、にべもなく土下座していたことだろう。

「へ、本当ですか! 嬉しいですぅ」

 再び色がハッキリとした死神さんは、とても素敵な笑顔だった。くそう、可愛いな。べ、別に騙されたなんて思ってないんだからね。単にひとりは寂しいだけなんだからね!

「それでは、詳細を説明します。まず、先程も言ったように、悪霊さんの今の状態は異世界転生(仮)となります。そして、幾つかのお願いを悪霊さんが達成したとき、初めて異世界転生をすることが可能となります」

(幾つかのお願い?)
「はい。これから悪霊さんには6つか7つの異世界を巡っていただき、その異世界でとあるミッションを達成していただきます」
(ミッションって、俺いまこんな状態なんだけど……)
「ええ。ですので、ミッションは別に悪霊さんが実行しなくても構いません。他のニンゲンに実行してもらっても
okです」
(なるほど。でも、難易度高かったりするとやだなぁ。RPGお馴染みの魔王を倒せとかだったら、下手すると詰む可能性があるぞ)
「あ、魔王は3番目のミッションですね」
(あんのかよ! 魔王! というか、3番目で魔王って、4番目以降のミッションどんだけ難易度高いんだ……?)
「別に順番と難易度を関係ないですよ。たまたま魔王が3番目というだけです。そして、それらのミッションを達成した暁には、異世界転生することが可能となります! おめでとうございます!」

 パチパチ~と死神さんはひとりで拍手する。

「転生先は、今まで巡った世界の中から選択することが可能です。ミッションは下見も兼ねているんですね。それと、転生先の肉体を自由に設計することが可能です。イケメンでも美少女でもなりたい放題ですよー!」

 ほうほう、それはいいな。

「さ、さらになんと。異世界転生時にはお好きなチート能力をゲットすることができます!」

 お、ついにキタ! チート能力! これがないと異世界転生って気がしねぇぜ!

「しかもその数は3つ! 3つも! チート能力がゲットできるのです! 組み合わせによっては、世界の創生も破壊もあなたの思うがまま! これは今からどんな能力にするか考えるっきゃねえぜー!」

 な、なんだってー! 3つもゲットできるのかい! ちょっと待て待て、これは慎重に選ぶっきゃねえぜ!

「というわけで、こんな感じなんですが、ミッションお願いできますでしょうか」
(おう! もちろんだ!)
「ありがとうございます! これはサービスです♡」

 そう言って死神さんは俺をギュッと抱きしめた。
 ふぉおおお! 体がないのに、柔らかいなにかに包まれてるって感じがするぜー!!

「それでは、ミッション1。『友達100人達成』、頑張ってくださいね。もちろん、意思疎通が可能の相手でないと、友達と認められないので。それでは~」

 そう言って、死神さんはスーと消えてしまった。

 ひとり取り残された俺は、小一時間くらいチート能力の組み合わせを考えていた。そして、いくつか能力の候補が絞れてきた段階で、ようやく死神さんが最後に言ったミッションの意味に気がついた。


 『友達100人達成』。


 無理じゃね? これ。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

ダンジョンが義務教育になった世界で《クラス替え》スキルで最強パーティ作って救世主になる

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  2256年近未来、突如として《ダンジョン災害》と呼ばれる事件が発生した。重力を無視する鉄道〈東京スカイライン〉の全30駅にダンジョンが生成されたのだ。このダンジョン災害により、鉄道の円内にいた200万人もの人々が時空の狭間に囚われてしまう。  主人公の咲守陸人(さきもりりくと)は、ダンジョンに囚われた家族を助けるために立ち上がる。ダンジョン災害から5年後、ダンジョン攻略がすっかり義務教育となった世界で、彼は史上最年少のスキルホルダーとなった。  ダンジョンに忍び込んでいた陸人は、ユニークモンスターを撃破し、《クラス替え》というチートスキルを取得したのだ。このクラス替えスキルというのは、仲間を増やしクラスに加入させると、その好感度の数値によって自分のステータスを強化できる、というものだった。まず、幼馴染にクラスに加入してもらうと、腕力がとんでもなく上昇し、サンドバックに穴を開けるほどであった。  凄まじいスキルではあるが問題もある。好感度を見られた仲間たちは、頬を染めモジモジしてしまうのだ。しかし、恋に疎い陸人は何故恥ずかしそうにしているのか理解できないのであった。  訓練を続け、高校1年生となった陸人と仲間たちは、ついに本格的なダンジョン攻略に乗り出す。2261年、東京スカイライン全30駅のうち、踏破されたダンジョンは、たったの1駅だけであった。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

世界樹を巡る旅

ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった カクヨムでも投稿してます

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...