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第1章 働かなくてもいい世界 〜 it's a small fairy world 〜
ライゼとの再会
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科学のムラに行く数日前に、セミルはライゼとメッセージを交わしていた。世界旅行の目的と、科学のムラへの来訪を伝えていたのだ。それで彼はわざわざ出迎えてくれたようだ。
ライゼは以前会ったときから全然変わっていない。中肉中背のイケメンであるが、目立たない地味な服装に身を包んでいる。そして、ユリカの遺産である小さな肩掛けバッグを携えていた。どうやら普段から使用しているようだ。
「よっす」
(久しぶりだな)
「……セミル。悪霊さんは居る?」
「居るよー」
俺の声が聞こえないのも相変わらずだ。
「ライゼよ。久しぶりだな」
「初めまして」
「こんにちは」
ライゼはマッドと顔見知りで、ヒメちゃんとノーコちゃんとは初対面らしい。三人は軽く挨拶を交わす。ヒメちゃんは持ち前の無邪気さで早くもライゼと打ち解け始めており、ノーコちゃんも彼が俺と意思疎通できないことを察するや「仲間ですー」と息巻いていた。
「わざわざ出迎えるなんて、何かあったの?」
「ん? 妖精さんを探してるんだろ? この辺にもよく出現するからね。先に案内しようと思って」
「話が早くて助かるね」
「それじゃ、ついてきて」
彼はそう言ってジープを走らせる。ジープは轍から外れ、より緑の深い方へと進んでいった。荒れ道を二台の車が進む。「ガタガタするー」とヒメちゃんは無邪気に喜んでおり、一方で身長の高いマッドは天井に頭を打ち付けていた。
しばらくして、ライゼの車は停まった。彼が降りたので俺達も降車する。目的地に着いたのだろう。
「ここの妖精さんは『ヒキカエセ』という警句を出すね。僕も聞いたことがある」
「ふーん。この辺りに何かあるのかな」
「それが、調査しても何も出てこなかったんだ。数人がかりで虱潰しに探索しても何もなし」
ライゼはそう言って肩を竦める。
「妖精さんの声を無視すると不幸な出来事が起こると聞いたが……」
「そうだね。けれど、調査したヒトに特に不幸は降りかからなかった。だから、ここには何かあるとは思うけど、何もないかもしれない」
(何もないかもしれない、ねぇ……)
やや起伏に富んだ緑の大地。マダムのムラと違い、岩肌が多く露出している。そして、目の前に聳え立つ巨大な崖。崖下には落石したと思しき割れた岩が幾つか転がっていた。
(何かが落ちてきたら危ないから『ヒキカエセ』って言ってるのかもよ?)
「ははは。悪霊氏、巨大な岩がぶつかっても我々は死にはせんぞ?」
あ、そうか。元の世界基準で考えるとこの場所は絶対に危ない。立入禁止、落石注意の看板が到るところにあるはずだ。けれど、この世界の住人は不死。譬え岩に頭が押し潰されようと、5分もすれば再生する。危ないことなど何もない。
「あとはそっちに周って登ると海が見えるな」
ライゼが指で崖際を示す。ぐるっと周れば比較的緩やかな傾斜になるので登れるが、崖上も見晴らしのいい景色があるだけで、特に何かあるわけではないという。
「海! 見たい!」
「ここよりももっといい場所があるから、そこで見ようか。ここから登るのは面倒なんだ」
ヒメちゃんの提案をやんわりとライゼが断る。そういえばヒメちゃんはまだ海を見たこと無かったか。まだ生まれて日が浅いもんな。
(それはそうとして、みんな、妖精さんの声は聞こえるか?)
「いや……」
「聞こえなーい」
「私にも聞こえんな。ライゼよ。本当にここに妖精さんが居るのか?」
「まあ、彼らも気分屋だからね。聞こえるときと聞こえないときがあるんだ。けれど、ここの妖精さんは来るたびにほぼ毎回誰かに警句を発していたし、誰も聞こえないことのほうが珍しいな……」
頭を掻いて、周囲を見回すライゼ。いつもと違う様子に戸惑っているようだ。
「……あれ? みなさん、ちょっと静かにして下さい」
ノーコちゃんはそう言って、耳を澄ますして眼を閉じる。
「ーー聞こえた。」
彼女はそう言って、眼を見開いた。
「確かか?」
「ええ、博士。ライゼさんの言う通り『ヒキカエセ』という声が」
「声色は?」
「明るい、子供のような声です。抑揚は一定。一定の間隔を開けて繰り返して……いえ、声が途切れました」
「方向は?」
「こちらです。崖下のあの辺りから」
ノーコちゃんはその場所を指さして近寄る。その方向には崖しかない。岩石も無く、身を隠せるような場所も見当たらない。
「他に聞いたものはいるか?」
「いや」
「聞こえない」
(俺もだ)
ノーコちゃん以外には聞こえなかったようだ。本当に不思議だ。ここの妖精さんの声はライゼも聞いたことがあるらしいが、今回は聞こえていない。ヒメちゃんも今回は聞こえなかった。相性云々の他に、聞こえる条件と聞こえない条件があるんじゃないだろうか。
「ここです。この辺りから声がーー」
振り返ってそう言った彼女の姿が、地面に吸い込まれるようにして消えた。
崩れるような音とともに砂埃が噴出する。
「ノーコちゃん?」
「ノーコ!」
「縦穴か! みんな、近づくな! 崩れるかもしれん」
ライゼの一喝で近付こうとした俺達は動きを止める。
「しかしノーコが!」
「慌てるな。俺達まで落ちたら面倒なことになる。悪霊さん、中の様子を見てきてくれ! 俺は車からロープを取ってくる! 他のみんなは待機だ!」
(分かった!)
「けれど!」
「マッド。ライゼの言う通りだよ。一緒に落ちて生き埋めになったらそっちのほうが一苦労だ。大丈夫。マッドも言ってたけど、その程度じゃ死なない」
「……そうか。そうだな。悪い、取り乱した」
「気にしない気にしない。さてと、妖精さんの警句も侮れないことが分かったし、気を抜かずにさっさとノーコちゃんを助けるよ」
ライゼは以前会ったときから全然変わっていない。中肉中背のイケメンであるが、目立たない地味な服装に身を包んでいる。そして、ユリカの遺産である小さな肩掛けバッグを携えていた。どうやら普段から使用しているようだ。
「よっす」
(久しぶりだな)
「……セミル。悪霊さんは居る?」
「居るよー」
俺の声が聞こえないのも相変わらずだ。
「ライゼよ。久しぶりだな」
「初めまして」
「こんにちは」
ライゼはマッドと顔見知りで、ヒメちゃんとノーコちゃんとは初対面らしい。三人は軽く挨拶を交わす。ヒメちゃんは持ち前の無邪気さで早くもライゼと打ち解け始めており、ノーコちゃんも彼が俺と意思疎通できないことを察するや「仲間ですー」と息巻いていた。
「わざわざ出迎えるなんて、何かあったの?」
「ん? 妖精さんを探してるんだろ? この辺にもよく出現するからね。先に案内しようと思って」
「話が早くて助かるね」
「それじゃ、ついてきて」
彼はそう言ってジープを走らせる。ジープは轍から外れ、より緑の深い方へと進んでいった。荒れ道を二台の車が進む。「ガタガタするー」とヒメちゃんは無邪気に喜んでおり、一方で身長の高いマッドは天井に頭を打ち付けていた。
しばらくして、ライゼの車は停まった。彼が降りたので俺達も降車する。目的地に着いたのだろう。
「ここの妖精さんは『ヒキカエセ』という警句を出すね。僕も聞いたことがある」
「ふーん。この辺りに何かあるのかな」
「それが、調査しても何も出てこなかったんだ。数人がかりで虱潰しに探索しても何もなし」
ライゼはそう言って肩を竦める。
「妖精さんの声を無視すると不幸な出来事が起こると聞いたが……」
「そうだね。けれど、調査したヒトに特に不幸は降りかからなかった。だから、ここには何かあるとは思うけど、何もないかもしれない」
(何もないかもしれない、ねぇ……)
やや起伏に富んだ緑の大地。マダムのムラと違い、岩肌が多く露出している。そして、目の前に聳え立つ巨大な崖。崖下には落石したと思しき割れた岩が幾つか転がっていた。
(何かが落ちてきたら危ないから『ヒキカエセ』って言ってるのかもよ?)
「ははは。悪霊氏、巨大な岩がぶつかっても我々は死にはせんぞ?」
あ、そうか。元の世界基準で考えるとこの場所は絶対に危ない。立入禁止、落石注意の看板が到るところにあるはずだ。けれど、この世界の住人は不死。譬え岩に頭が押し潰されようと、5分もすれば再生する。危ないことなど何もない。
「あとはそっちに周って登ると海が見えるな」
ライゼが指で崖際を示す。ぐるっと周れば比較的緩やかな傾斜になるので登れるが、崖上も見晴らしのいい景色があるだけで、特に何かあるわけではないという。
「海! 見たい!」
「ここよりももっといい場所があるから、そこで見ようか。ここから登るのは面倒なんだ」
ヒメちゃんの提案をやんわりとライゼが断る。そういえばヒメちゃんはまだ海を見たこと無かったか。まだ生まれて日が浅いもんな。
(それはそうとして、みんな、妖精さんの声は聞こえるか?)
「いや……」
「聞こえなーい」
「私にも聞こえんな。ライゼよ。本当にここに妖精さんが居るのか?」
「まあ、彼らも気分屋だからね。聞こえるときと聞こえないときがあるんだ。けれど、ここの妖精さんは来るたびにほぼ毎回誰かに警句を発していたし、誰も聞こえないことのほうが珍しいな……」
頭を掻いて、周囲を見回すライゼ。いつもと違う様子に戸惑っているようだ。
「……あれ? みなさん、ちょっと静かにして下さい」
ノーコちゃんはそう言って、耳を澄ますして眼を閉じる。
「ーー聞こえた。」
彼女はそう言って、眼を見開いた。
「確かか?」
「ええ、博士。ライゼさんの言う通り『ヒキカエセ』という声が」
「声色は?」
「明るい、子供のような声です。抑揚は一定。一定の間隔を開けて繰り返して……いえ、声が途切れました」
「方向は?」
「こちらです。崖下のあの辺りから」
ノーコちゃんはその場所を指さして近寄る。その方向には崖しかない。岩石も無く、身を隠せるような場所も見当たらない。
「他に聞いたものはいるか?」
「いや」
「聞こえない」
(俺もだ)
ノーコちゃん以外には聞こえなかったようだ。本当に不思議だ。ここの妖精さんの声はライゼも聞いたことがあるらしいが、今回は聞こえていない。ヒメちゃんも今回は聞こえなかった。相性云々の他に、聞こえる条件と聞こえない条件があるんじゃないだろうか。
「ここです。この辺りから声がーー」
振り返ってそう言った彼女の姿が、地面に吸い込まれるようにして消えた。
崩れるような音とともに砂埃が噴出する。
「ノーコちゃん?」
「ノーコ!」
「縦穴か! みんな、近づくな! 崩れるかもしれん」
ライゼの一喝で近付こうとした俺達は動きを止める。
「しかしノーコが!」
「慌てるな。俺達まで落ちたら面倒なことになる。悪霊さん、中の様子を見てきてくれ! 俺は車からロープを取ってくる! 他のみんなは待機だ!」
(分かった!)
「けれど!」
「マッド。ライゼの言う通りだよ。一緒に落ちて生き埋めになったらそっちのほうが一苦労だ。大丈夫。マッドも言ってたけど、その程度じゃ死なない」
「……そうか。そうだな。悪い、取り乱した」
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