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第1章 働かなくてもいい世界 〜 it's a small fairy world 〜

暇潰しとハウスブリーダー

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 セミルの端末に地図を表示してもらい確認する。縮尺からすると、確かに10日くらいかかりそうだということが分かった。

(10日かー。かなり長い道のりだな。みんな何して過ごしてるんだ?)
「それは人それぞれだね。私がひとりで回ってたときは、景色見たり、アーカイブを読み漁ったり、写生したり、いろいろしてたなぁ。移動中は結構退屈で、音楽流して大声で歌ってたっけ。今回は人数も多いからそこまで苦にならないと思うよ」

 なるほど。まあ、セミルやヒメちゃんの睡眠後に訪れる退屈な時間も、今では瞑想することで時間を潰せているし、問題ないだろう。

 そして、暇潰しのカードゲームが始まった。始まったが、俺はカードに触れないので何をすることもできない。ルールを教えて貰っても自分ではプレイできないため意味がない。三人がカードで盛り上がる様をただ横で見ることしかできない。これはこれで苦痛というか、なんだか寂しい。休み時間に会話に混ざれず机に突っ伏すことしかできないくらい寂しい。瞑想するにしても周りが騒がしいし、ジープから降りたら置いてけぼりになる。ノーコちゃんとは意思疎通できないし、どうしよう。屋根の上にでも避難しようか。

 そう思ってたらカードゲームのルールが変更された。声が漏れていたのか俺の窮状を察してくれたのか、カードに触れられない俺も参加できるようにしてくれたのだ。追加ルールは、前のゲームで負けた人間は1ゲームに3回だけ相手プレイヤーの手を覗き見る「悪霊権」を行使できるというもの。俺がそっと手札を覗き見て、行使者に囁くだけだが、俺もゲームに参戦することができた。あまり仲の良くないクラスメイトから声をかけられた気分である。

 途中で運転がセミルに交代。ノーコちゃんは「悪霊権」を行使できないため、そのときは普通のゲームに戻る。俺はセミルと会話して時間を潰す。運転に疲れたり、景色の良い場所に出たら一旦休憩。外で羽を伸ばし、取寄せたお茶や料理、お菓子を楽しむ。辺りが暗くなって来たら近場の放置家屋にお泊りするか適当にテントを設営して休み、翌朝再び出発する。

 そんなこんなで、コロシアムのムラを出発してから8日が過ぎた。旅程は順調で、次のムラには明後日に着くかなといったところ。そんな折、俺達は道端にパラソルと椅子とテーブルを置き、テーブルの上で熱心に何かの作業をしている老人に出逢った。

 交友関係の広いセミルもマッドも見知らぬ老人。白髪と短く剃られた髭に、褐色の膚。日差しが出ているわけでもないのにサングラスをかけている。サンダル、短パン、アロハシャツといった南国風の出で立ちだが、ここには海も砂浜もない。果て無く広がる緑の大地だけである。近くにはテントも設置されており、しばらくここで暮らしていたようだ。

「あのー、何をしてらっしゃるんですか?」

 彼の様子が気になったセミルは、老人の近くにジープを停車し声をかける。

「……んー?」

 老人は手を休めてセミルを見る。

「……見て、分からんかあ?」
「……絵を描いてる?」
「違うのう」
「はいっ! キャンプ!」

 窓から身を乗り出してヒメちゃんが答える。

「それも違うのう。なんじゃ、分からんのか……。あー、そこからだと見えないかのう」

 ほれ、こっちじゃ。と老人は手招きしてテントの裏へ向かう。俺達は車を出て、導かれるまま老人のほうへと近づく。

「ほう」
「あら」
(これは……)
「家……?」
「の、なりそこないみたいな……」

 各自が思い思いの感想を述べる。テントの裏にはぺしゃんこに潰れた家があった。瓦礫が散乱し、柱が千切れるように折れている。素材や屋根の様子から、潰れる前の建物は木造のログハウスだったのだろうと推察できる。多分、2階建。ただ、奇妙なことにこの家は真新しい。崩れたのもごく最近のようだが、建てられたのもつい最近のような印象だ。あたかも、新築した家を即座に倒壊させたような、そんな感じ。

「これは、あなたが……?」
「阿呆、わしがこんなことするかいな。サリの奴じゃよ。まだまだ下手くそなんじゃ。おーい! サリ! そろそろ起きんか!」

 老人はテントに大声で呼びかける。ややあって返事があり、出てきたのは寝癖のついた赤毛の女性だ。

「……ふぁーい、ジジ様。起きましたよー……って。どちら様です、この方々は?」
「儂も知らん」
「どうも。通りすがりのものです。興味本位で声を掛けました。最初は何をしてるか分からなかったんですけど……」

 そう言ってセミルはちらっと倒壊した家屋を見る。

「家を建ててるんですよね?」
「あー、そうです、ねー」
「ということはーー」
「なんじゃお主ら。ハウスブリーダーに会うのは初めてか?」

 サングラスを外し、ギョロリとした眼を覗かせながら老人は尋ねた。
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