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告白
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俺は柱だ。
古家の隅のちんまりとした和室を、隅の方で支えているしがない柱だ。
俺は、向かいの柱ちゃんに恋をしている。
彼女は木目がとても色っぽい。それが興味を持ったキッカケだ。話し方も可愛らしいし、見た目とは真逆の真面目な性格にも魅力を感じる。いわゆるギャップ萌えというやつである。
そんな彼女に俺はいつの間にか夢中になっていた。
彼女を好きだと自覚してから、俺はふと思った。俺の他にも彼女を好きなやつが居るのではないだろうか、と。
ありえない話ではない。彼女は美柱で気立てもいい。そんな柱は滅多にいないだろう。むしろ今フリーであることすら奇跡である。
ある夜の深夜。彼女が寝静まった和室で、俺は思い切って右にいる柱に話を聞いてみた。
「なあ、右柱。お前は柱ちゃんのこと、どう思っているんだ?」
「どうって、何が?」
右柱は気だるそうにそう答えた。
「率直に聞こう。お前は柱ちゃんが好きか?」
「……普通に好きだけど?」
あ、さては右柱、質問の意図が分かってないな。こいつ恋話に興味ないからな。
「普通にではなくてだな。こう、あれだ。かけがえのない存在として――」
「あー、そういうこと? そういう意味ならそうでもないかな。特になんとも思ってないよ」
よし。右柱はセーフだ。
「……そう聞くってことは、やっぱり君は柱ちゃんのことが好きなんだね」
「そうだ。秘密にしてくれよ。……やっぱりって?」
「前からそうじゃないかって思ってたんだよ。君は暇さえあればいつも柱ちゃんを見てるから」
「なんだよ、言ってくれよ……」
どうやら知らず知らずのうち柱ちゃんへの恋心が右柱に漏れていたらしい。
「ごめんごめん。僕も確信があったわけじゃなかったからさ」
「ん? 待てよ。右柱に漏れていたということは、実は柱ちゃんも俺の想いに気づいているのでは?」
だとしたら、どうしよう。俺が彼女の興味を惹くためにしてきたあんなことやこんなことを、彼女は心のなかで「うわぁ」とか思いながら見ていたんじゃなかろうか。そう考えるとだんだん恥ずかしくなってきた。折れ曲がって屋根の重みに負けてしまいそうだ。
「いや、どうやらそんなことは無さそうだぜ」
俺が身悶えしていると左から声をかけてくる柱がいた。
「お前は……左柱!」
「もう寝たのかと思ってたよ」
「俺は側柱だからな。隣の部屋のやつらとだべってたんだ」
側柱とは柱の分類の一種だ。建物の外側にあれば側柱。隅っこにあれば隅柱。それ以外なら中柱と分類できる。隅柱はひとつの部屋しか見ることができないが、側柱であれば2つの部屋に接しているため両方の部屋を見ることができるのだ。
「そうだったんだ」
「そんなことより、柱ちゃんは俺の気持ちを知らないのか?」
右柱を押しのけて俺は左柱に問い詰める。
「ああ。俺の見る限り、柱ちゃんはお前の気持ちに気づいてなさそうだ。彼女は真面目だし、気づいてたら何かしら変化があるってもんだろう」
確かに左柱の言う通りだ。俺が彼女への恋心を自覚する前後で彼女の様子はまるで変わっていない。
で、あるならば安心だ。よかったよかった。
……ん? 待てよ。こんなに柱ちゃんのことを見てるってことは、実は左柱も柱ちゃんのことが好きなのでは!?
「バーカ、そんなわけないだろ。俺は隣の梁ちゃん一筋なんだから。もちろん、両想いだぜ」
「え、そうだったの!?」
「へー、おめでとう」
初めて知った。左柱に好きな相手が、しかも両想いの相手がいただなんて。
「やるな、左柱。おめでとう」
「ありがとよ。それより、隅柱。お前、このままでいいのか?」
「このままって、どういうことだ?」
「お前は隅柱だけど、柱ちゃんは中柱だ。当然、お前より柱の知り合いは多い。お前だけじゃないんだぜ。柱ちゃんのことを狙っているのは」
「なん……だと……?」
くそ、不安は的中か。やはり、彼女の魅力を知っているのは俺だけじゃなかったか!
「もしや、そっちの部屋でも……?」
「ああ、彼女は人気だ。大黒柱とも仲がいいみたいだし、早くしないと他の奴に先を越されるかもな。……おっと梁ちゃんが呼んでるぜ。またな」
そう言うと左柱は黙ってしまった。隣の部屋で彼女と楽しんでいるのだろう。右柱も話が一段落ついたと思ったのか「それじゃ、おやすみ」と眠ってしまった。右柱に返事をして俺も眠ろうとするが、さっきの話が気になってなかなか寝付くことができない。
今、柱ちゃんは眠っているけど、明日には誰かから告白されるかもしれない。
そう思うと、どうしても目が冴えてしまうのだ。
――よし、明日、柱ちゃんに告白しよう。彼女に付き合ってくださいとお願いするんだ。
そう決意を固めると、俺はようやく眠ることができた。
翌日。俺は努めていつもと同じように過ごした。俺の気持ちを知っている右柱と左柱には気取られてもいいが、柱ちゃんには告白するときまで悟られたくはない。だから彼女と話すときは特に挙動が変にならないよう注意した。何回か声が上ずってしまったが、「ふふっ。相変わらず柱くんは面白いね。怪鳥みたい」と彼女は言っていたし、おそらく大丈夫だと思う。
それに告白はやはり二人きりがベストだろう。左柱と梁ちゃんみたいに体が接しているなら内緒で告白もできるだろうが、俺と柱ちゃんの位置取りは残念ながら部屋の対角。どうしても周りに聞かれてしまう恐れがある。
だから俺は皆が寝静まるのを待った。他の皆が寝てしまい、俺と柱ちゃんの二人だけが起きている状態こそが告白のベストタイミングだ。
一刻一刻と、静かに俺はその時を待つ。
そして、ついにその時はやってきた。
「あ、あの柱ちゃん、ちょっと話があるんだけど、いいかな」
俺は意を決して彼女に声をかける。
やばい、どうしよう。緊張しすぎて樹液が滲みでそうだ。
「あら、まだお話があるの? いいわよ。私、柱くんのお話、いつも面白くで大好きだもの。でも、他の皆さんはもう眠ってしまっているようだけど……いいの?」
「いいんだ。柱ちゃんとふたりきりで話したかったから」
「えっ。柱くんそれって……」
そう言って柱ちゃんは黙った。
俺も黙って彼女を見つめていた。
体からは樹液が滲み出ていた。
意を決して、俺は彼女に告白した。
「柱ちゃん! お、俺は、き、君のことが――ぎゃいしゅきデす! 俺と、ちゅちゅきあってくだしぇーぃ!!」
緊張のあまり声が上擦り、後半は自分でも何言ってるんだかよく分かんなかった。
もうダメだ。お終いだ。緊張で告白を失敗した情けない柱として、俺は部屋の隅で余生を過ごすんだ。
そう思っていたのに――。
「はいっ。よろこんで!」
彼女はそう言って、微笑んでくれた。
告白は成功した。
樹液が溢れ出た。
こうして、俺たちはめでたく付き合うことになった。
古家の隅のちんまりとした和室を、隅の方で支えているしがない柱だ。
俺は、向かいの柱ちゃんに恋をしている。
彼女は木目がとても色っぽい。それが興味を持ったキッカケだ。話し方も可愛らしいし、見た目とは真逆の真面目な性格にも魅力を感じる。いわゆるギャップ萌えというやつである。
そんな彼女に俺はいつの間にか夢中になっていた。
彼女を好きだと自覚してから、俺はふと思った。俺の他にも彼女を好きなやつが居るのではないだろうか、と。
ありえない話ではない。彼女は美柱で気立てもいい。そんな柱は滅多にいないだろう。むしろ今フリーであることすら奇跡である。
ある夜の深夜。彼女が寝静まった和室で、俺は思い切って右にいる柱に話を聞いてみた。
「なあ、右柱。お前は柱ちゃんのこと、どう思っているんだ?」
「どうって、何が?」
右柱は気だるそうにそう答えた。
「率直に聞こう。お前は柱ちゃんが好きか?」
「……普通に好きだけど?」
あ、さては右柱、質問の意図が分かってないな。こいつ恋話に興味ないからな。
「普通にではなくてだな。こう、あれだ。かけがえのない存在として――」
「あー、そういうこと? そういう意味ならそうでもないかな。特になんとも思ってないよ」
よし。右柱はセーフだ。
「……そう聞くってことは、やっぱり君は柱ちゃんのことが好きなんだね」
「そうだ。秘密にしてくれよ。……やっぱりって?」
「前からそうじゃないかって思ってたんだよ。君は暇さえあればいつも柱ちゃんを見てるから」
「なんだよ、言ってくれよ……」
どうやら知らず知らずのうち柱ちゃんへの恋心が右柱に漏れていたらしい。
「ごめんごめん。僕も確信があったわけじゃなかったからさ」
「ん? 待てよ。右柱に漏れていたということは、実は柱ちゃんも俺の想いに気づいているのでは?」
だとしたら、どうしよう。俺が彼女の興味を惹くためにしてきたあんなことやこんなことを、彼女は心のなかで「うわぁ」とか思いながら見ていたんじゃなかろうか。そう考えるとだんだん恥ずかしくなってきた。折れ曲がって屋根の重みに負けてしまいそうだ。
「いや、どうやらそんなことは無さそうだぜ」
俺が身悶えしていると左から声をかけてくる柱がいた。
「お前は……左柱!」
「もう寝たのかと思ってたよ」
「俺は側柱だからな。隣の部屋のやつらとだべってたんだ」
側柱とは柱の分類の一種だ。建物の外側にあれば側柱。隅っこにあれば隅柱。それ以外なら中柱と分類できる。隅柱はひとつの部屋しか見ることができないが、側柱であれば2つの部屋に接しているため両方の部屋を見ることができるのだ。
「そうだったんだ」
「そんなことより、柱ちゃんは俺の気持ちを知らないのか?」
右柱を押しのけて俺は左柱に問い詰める。
「ああ。俺の見る限り、柱ちゃんはお前の気持ちに気づいてなさそうだ。彼女は真面目だし、気づいてたら何かしら変化があるってもんだろう」
確かに左柱の言う通りだ。俺が彼女への恋心を自覚する前後で彼女の様子はまるで変わっていない。
で、あるならば安心だ。よかったよかった。
……ん? 待てよ。こんなに柱ちゃんのことを見てるってことは、実は左柱も柱ちゃんのことが好きなのでは!?
「バーカ、そんなわけないだろ。俺は隣の梁ちゃん一筋なんだから。もちろん、両想いだぜ」
「え、そうだったの!?」
「へー、おめでとう」
初めて知った。左柱に好きな相手が、しかも両想いの相手がいただなんて。
「やるな、左柱。おめでとう」
「ありがとよ。それより、隅柱。お前、このままでいいのか?」
「このままって、どういうことだ?」
「お前は隅柱だけど、柱ちゃんは中柱だ。当然、お前より柱の知り合いは多い。お前だけじゃないんだぜ。柱ちゃんのことを狙っているのは」
「なん……だと……?」
くそ、不安は的中か。やはり、彼女の魅力を知っているのは俺だけじゃなかったか!
「もしや、そっちの部屋でも……?」
「ああ、彼女は人気だ。大黒柱とも仲がいいみたいだし、早くしないと他の奴に先を越されるかもな。……おっと梁ちゃんが呼んでるぜ。またな」
そう言うと左柱は黙ってしまった。隣の部屋で彼女と楽しんでいるのだろう。右柱も話が一段落ついたと思ったのか「それじゃ、おやすみ」と眠ってしまった。右柱に返事をして俺も眠ろうとするが、さっきの話が気になってなかなか寝付くことができない。
今、柱ちゃんは眠っているけど、明日には誰かから告白されるかもしれない。
そう思うと、どうしても目が冴えてしまうのだ。
――よし、明日、柱ちゃんに告白しよう。彼女に付き合ってくださいとお願いするんだ。
そう決意を固めると、俺はようやく眠ることができた。
翌日。俺は努めていつもと同じように過ごした。俺の気持ちを知っている右柱と左柱には気取られてもいいが、柱ちゃんには告白するときまで悟られたくはない。だから彼女と話すときは特に挙動が変にならないよう注意した。何回か声が上ずってしまったが、「ふふっ。相変わらず柱くんは面白いね。怪鳥みたい」と彼女は言っていたし、おそらく大丈夫だと思う。
それに告白はやはり二人きりがベストだろう。左柱と梁ちゃんみたいに体が接しているなら内緒で告白もできるだろうが、俺と柱ちゃんの位置取りは残念ながら部屋の対角。どうしても周りに聞かれてしまう恐れがある。
だから俺は皆が寝静まるのを待った。他の皆が寝てしまい、俺と柱ちゃんの二人だけが起きている状態こそが告白のベストタイミングだ。
一刻一刻と、静かに俺はその時を待つ。
そして、ついにその時はやってきた。
「あ、あの柱ちゃん、ちょっと話があるんだけど、いいかな」
俺は意を決して彼女に声をかける。
やばい、どうしよう。緊張しすぎて樹液が滲みでそうだ。
「あら、まだお話があるの? いいわよ。私、柱くんのお話、いつも面白くで大好きだもの。でも、他の皆さんはもう眠ってしまっているようだけど……いいの?」
「いいんだ。柱ちゃんとふたりきりで話したかったから」
「えっ。柱くんそれって……」
そう言って柱ちゃんは黙った。
俺も黙って彼女を見つめていた。
体からは樹液が滲み出ていた。
意を決して、俺は彼女に告白した。
「柱ちゃん! お、俺は、き、君のことが――ぎゃいしゅきデす! 俺と、ちゅちゅきあってくだしぇーぃ!!」
緊張のあまり声が上擦り、後半は自分でも何言ってるんだかよく分かんなかった。
もうダメだ。お終いだ。緊張で告白を失敗した情けない柱として、俺は部屋の隅で余生を過ごすんだ。
そう思っていたのに――。
「はいっ。よろこんで!」
彼女はそう言って、微笑んでくれた。
告白は成功した。
樹液が溢れ出た。
こうして、俺たちはめでたく付き合うことになった。
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