14 / 28
一章
13. 色々と弁解させてください
しおりを挟む
ドレスの裾を両手で捲し上げながら、私はサロンからお母様の部屋まで全力で駆けていった。階段は正直きつかったけれど、そんなことよりもお母様の方が余程心配だ。
こんな、ドレスを捲し上げて膝上まで足を惜しげも無く晒すなんていう状態を来客者の誰かに見られでもしたら、公爵家の令嬢にあるまじき行為だ。淑女としてはしたないと眉を顰められるだろうし嘲笑ものだろう。
日本では膝上どころか、太腿まで惜しげも無く晒してる人なんて数多くいるから私としてははしたないなんて感覚はそんなにないのだけれど。まあ、ここは日本じゃないから仕方が無いのだけれど。ていうか、日本で作った乙女ゲームの世界なら膝上でもはしたなくなんてないっていう設定にしていても良かったのにね。
だがしかし、私はきちんと誰もいないことを確認してから走ったし、そもそもサロンから出て屋敷の中をぶらぶらしている人なんていないと思うからなんの問題も無いです!!……多分。
「うん、いるわけないから。大丈夫よ、そもそもここは私の家だもの。人様の家を勝手に出歩こうなんて思う輩がいる筈ないもの!!」
「リリー、声が大きいから」
「ふぇ?……ふぁんへほほひ?」
お母様の部屋の前で立ち止まりながらそんなことを口走った私の口元を、右隣から伸びてきた手が覆った。
突然の出来事で一瞬目を白黒させる。
それから右隣を確認してから、私は目を丸くした。
「ふぃふふぁふぁほほひ?」
いつからそこに?と言ったつもりなのだけれど、未だに口元から手をどけてもらえないのでうまく発音出来ず、なんとも気の抜けた言語が私の口から飛び出す。
しかし、そんな摩訶不思議な言語をしっかりと理解したらしいミルは、そっと私の口元から手を離すと
「公爵に『リリー 一人は心配だから、付き添って』って言われたんだよ」
と答えてくれた。
「心配?なんで?」
「……その答えは別にリリーが知らなくていいことだと思う」
何故かわからないけれど、ミルが苦虫を噛み潰したような表情をするので、私はお父様の行き過ぎた過保護だということにしておくことにする。
「別に家にいて危険なことなんて何も無いとは思うけれど、つくづくお父様は親馬鹿なのね」
「……要はそういうことだな」
しみじみと呟いた私に、ミルが神妙そうに頷いた。
「でも私、ミルが付いてきていたなんて全く気が付かなかった」
「まあ、そうだろうな。そうじゃなきゃあんなにドレスを捲し上げて全速力で走ろうなんて思わないよな」
「……あ」
そこで私は思い出す。先程までどんな格好でいたのかを。
やばい。やばいよ私。他に人がいないと思って平気で淑女にあるまじき行動を取ってたよ!?
流石にミルでも非常識だって思うよね?思っちゃうよね!?
さぁーっと顔を青ざめさせる私。
そんな私の様子を横からミルが覗き込んでくる。
「リリー?」
「ち、違うんだよ!?」
何が違うのか全く分からないけれど、取り敢えず弁解の言葉を述べる。
「べ、別にさっきの私の行動が非常識なことくらいいくらなんでも私でも分かることだけれど、でも今回はお母様の体調が心配だったからで、いつもあんなふうにドレスを持って駆け回ったりなんてことはしてないし今回だけのことだしほかの人が見たら眉をひそめられる行為だってことはちゃんと自覚してるしそんなじゃじゃ馬なわけじゃ……なくもないけどでも流石に普段はここまでではないし———」
「そんな必死にならなくても俺は気にしてないし、リリーの行動を非難するつもりもないから。だから取り敢えず落ち着いて」
それにここはフォリア様の部屋の前だろう?と宥めるミルに、私はハッと口を押さえた。
そうだった、ここはお母様の部屋の前だ。
流石にこんなに騒いでいたらお母様にはもうとっくに聞こえているだろう。
それでも部屋から出てこないのは、余程体調が悪いのか、それとも私とミルの話が一通り終わるのを待っているのか……
いずれにせよ、お母様に迷惑をかけていることには変わりはないだろう。
ミルの言葉に我に返った私は、しかしその事を考えてまた慌てだしてしまう。
「リリー、落ち着いて。大丈夫だから」
私の様子に気が付いたミルは、私がなにか行動を起こす前にすかさず声を掛けてきた。
「兎に角、俺はリリーが懸念しているような感想を抱くつもりは無いし誰にも言わないから。リリーはフォリア様が心配だからここに来たんだろう?」
「……うん、そうだね。取り敢えず今はお母様の様子を見ないと」
ミルの言葉になんとか落ち着きを取り戻した私は、意を決して扉へと向き直ると、ゆっくりと三度ノックをした。
こんな、ドレスを捲し上げて膝上まで足を惜しげも無く晒すなんていう状態を来客者の誰かに見られでもしたら、公爵家の令嬢にあるまじき行為だ。淑女としてはしたないと眉を顰められるだろうし嘲笑ものだろう。
日本では膝上どころか、太腿まで惜しげも無く晒してる人なんて数多くいるから私としてははしたないなんて感覚はそんなにないのだけれど。まあ、ここは日本じゃないから仕方が無いのだけれど。ていうか、日本で作った乙女ゲームの世界なら膝上でもはしたなくなんてないっていう設定にしていても良かったのにね。
だがしかし、私はきちんと誰もいないことを確認してから走ったし、そもそもサロンから出て屋敷の中をぶらぶらしている人なんていないと思うからなんの問題も無いです!!……多分。
「うん、いるわけないから。大丈夫よ、そもそもここは私の家だもの。人様の家を勝手に出歩こうなんて思う輩がいる筈ないもの!!」
「リリー、声が大きいから」
「ふぇ?……ふぁんへほほひ?」
お母様の部屋の前で立ち止まりながらそんなことを口走った私の口元を、右隣から伸びてきた手が覆った。
突然の出来事で一瞬目を白黒させる。
それから右隣を確認してから、私は目を丸くした。
「ふぃふふぁふぁほほひ?」
いつからそこに?と言ったつもりなのだけれど、未だに口元から手をどけてもらえないのでうまく発音出来ず、なんとも気の抜けた言語が私の口から飛び出す。
しかし、そんな摩訶不思議な言語をしっかりと理解したらしいミルは、そっと私の口元から手を離すと
「公爵に『リリー 一人は心配だから、付き添って』って言われたんだよ」
と答えてくれた。
「心配?なんで?」
「……その答えは別にリリーが知らなくていいことだと思う」
何故かわからないけれど、ミルが苦虫を噛み潰したような表情をするので、私はお父様の行き過ぎた過保護だということにしておくことにする。
「別に家にいて危険なことなんて何も無いとは思うけれど、つくづくお父様は親馬鹿なのね」
「……要はそういうことだな」
しみじみと呟いた私に、ミルが神妙そうに頷いた。
「でも私、ミルが付いてきていたなんて全く気が付かなかった」
「まあ、そうだろうな。そうじゃなきゃあんなにドレスを捲し上げて全速力で走ろうなんて思わないよな」
「……あ」
そこで私は思い出す。先程までどんな格好でいたのかを。
やばい。やばいよ私。他に人がいないと思って平気で淑女にあるまじき行動を取ってたよ!?
流石にミルでも非常識だって思うよね?思っちゃうよね!?
さぁーっと顔を青ざめさせる私。
そんな私の様子を横からミルが覗き込んでくる。
「リリー?」
「ち、違うんだよ!?」
何が違うのか全く分からないけれど、取り敢えず弁解の言葉を述べる。
「べ、別にさっきの私の行動が非常識なことくらいいくらなんでも私でも分かることだけれど、でも今回はお母様の体調が心配だったからで、いつもあんなふうにドレスを持って駆け回ったりなんてことはしてないし今回だけのことだしほかの人が見たら眉をひそめられる行為だってことはちゃんと自覚してるしそんなじゃじゃ馬なわけじゃ……なくもないけどでも流石に普段はここまでではないし———」
「そんな必死にならなくても俺は気にしてないし、リリーの行動を非難するつもりもないから。だから取り敢えず落ち着いて」
それにここはフォリア様の部屋の前だろう?と宥めるミルに、私はハッと口を押さえた。
そうだった、ここはお母様の部屋の前だ。
流石にこんなに騒いでいたらお母様にはもうとっくに聞こえているだろう。
それでも部屋から出てこないのは、余程体調が悪いのか、それとも私とミルの話が一通り終わるのを待っているのか……
いずれにせよ、お母様に迷惑をかけていることには変わりはないだろう。
ミルの言葉に我に返った私は、しかしその事を考えてまた慌てだしてしまう。
「リリー、落ち着いて。大丈夫だから」
私の様子に気が付いたミルは、私がなにか行動を起こす前にすかさず声を掛けてきた。
「兎に角、俺はリリーが懸念しているような感想を抱くつもりは無いし誰にも言わないから。リリーはフォリア様が心配だからここに来たんだろう?」
「……うん、そうだね。取り敢えず今はお母様の様子を見ないと」
ミルの言葉になんとか落ち着きを取り戻した私は、意を決して扉へと向き直ると、ゆっくりと三度ノックをした。
0
お気に入りに追加
2,487
あなたにおすすめの小説
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。
曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」
きっかけは幼い頃の出来事だった。
ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。
その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。
あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。
そしてローズという自分の名前。
よりにもよって悪役令嬢に転生していた。
攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。
婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。
するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?
見ず知らずの(たぶん)乙女ゲーに(おそらく)悪役令嬢として転生したので(とりあえず)破滅回避をめざします!
すな子
恋愛
ステラフィッサ王国公爵家令嬢ルクレツィア・ガラッシアが、前世の記憶を思い出したのは5歳のとき。
現代ニホンの枯れ果てたアラサーOLから、異世界の高位貴族の令嬢として天使の容貌を持って生まれ変わった自分は、昨今流行りの(?)「乙女ゲーム」の「悪役令嬢」に「転生」したのだと確信したものの、前世であれほどプレイした乙女ゲームのどんな設定にも、今の自分もその環境も、思い当たるものがなにひとつない!
それでもいつか訪れるはずの「破滅」を「回避」するために、前世の記憶を総動員、乙女ゲームや転生悪役令嬢がざまぁする物語からあらゆる事態を想定し、今世は幸せに生きようと奮闘するお話。
───エンディミオン様、あなたいったい、どこのどなたなんですの?
********
できるだけストレスフリーに読めるようご都合展開を陽気に突き進んでおりますので予めご了承くださいませ。
また、【閑話】には死ネタが含まれますので、苦手な方はご注意ください。
☆「小説家になろう」様にも常羽名義で投稿しております。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる