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一章

13. 色々と弁解させてください

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 ドレスの裾を両手で捲し上げながら、私はサロンからお母様の部屋まで全力で駆けていった。階段は正直きつかったけれど、そんなことよりもお母様の方が余程心配だ。
 こんな、ドレスを捲し上げて膝上まで足を惜しげも無く晒すなんていう状態を来客者の誰かに見られでもしたら、公爵家の令嬢にあるまじき行為だ。淑女としてはしたないと眉を顰められるだろうし嘲笑ものだろう。
 日本では膝上どころか、太腿まで惜しげも無く晒してる人なんて数多くいるから私としてははしたないなんて感覚はそんなにないのだけれど。まあ、ここは日本じゃないから仕方が無いのだけれど。ていうか、日本で作った乙女ゲームの世界なら膝上でもはしたなくなんてないっていう設定にしていても良かったのにね。
 だがしかし、私はきちんと誰もいないことを確認してから走ったし、そもそもサロンから出て屋敷の中をぶらぶらしている人なんていないと思うからなんの問題も無いです!!……多分。

「うん、いるわけないから。大丈夫よ、そもそもここは私の家だもの。人様の家を勝手に出歩こうなんて思う輩がいる筈ないもの!!」
「リリー、声が大きいから」
「ふぇ?……ふぁんへほほひ?」

 お母様の部屋の前で立ち止まりながらそんなことを口走った私の口元を、右隣から伸びてきた手が覆った。
 突然の出来事で一瞬目を白黒させる。
 それから右隣を確認してから、私は目を丸くした。

「ふぃふふぁふぁほほひ?」

 いつからそこに?と言ったつもりなのだけれど、未だに口元から手をどけてもらえないのでうまく発音出来ず、なんとも気の抜けた言語が私の口から飛び出す。
 しかし、そんな摩訶不思議な言語をしっかりと理解したらしいミルは、そっと私の口元から手を離すと

「公爵に『リリー 一人は心配だから、付き添って』って言われたんだよ」

 と答えてくれた。

「心配?なんで?」
「……その答えは別にリリーが知らなくていいことだと思う」

 何故かわからないけれど、ミルが苦虫を噛み潰したような表情をするので、私はお父様の行き過ぎた過保護だということにしておくことにする。

「別に家にいて危険なことなんて何も無いとは思うけれど、つくづくお父様は親馬鹿なのね」
「……要はそういうことだな」

 しみじみと呟いた私に、ミルが神妙そうに頷いた。

「でも私、ミルが付いてきていたなんて全く気が付かなかった」
「まあ、そうだろうな。そうじゃなきゃあんなにドレスを捲し上げて全速力で走ろうなんて思わないよな」
「……あ」

 そこで私は思い出す。先程までどんな格好でいたのかを。
 やばい。やばいよ私。他に人がいないと思って平気で淑女にあるまじき行動を取ってたよ!?
 流石にミルでも非常識だって思うよね?思っちゃうよね!?
 さぁーっと顔を青ざめさせる私。
 そんな私の様子を横からミルが覗き込んでくる。

「リリー?」
「ち、違うんだよ!?」

 何が違うのか全く分からないけれど、取り敢えず弁解の言葉を述べる。

「べ、別にさっきの私の行動が非常識なことくらいいくらなんでも私でも分かることだけれど、でも今回はお母様の体調が心配だったからで、いつもあんなふうにドレスを持って駆け回ったりなんてことはしてないし今回だけのことだしほかの人が見たら眉をひそめられる行為だってことはちゃんと自覚してるしそんなじゃじゃ馬なわけじゃ……なくもないけどでも流石に普段はここまでではないし———」
「そんな必死にならなくても俺は気にしてないし、リリーの行動を非難するつもりもないから。だから取り敢えず落ち着いて」

 それにここはフォリア様の部屋の前だろう?と宥めるミルに、私はハッと口を押さえた。
 そうだった、ここはお母様の部屋の前だ。
 流石にこんなに騒いでいたらお母様にはもうとっくに聞こえているだろう。
 それでも部屋から出てこないのは、余程体調が悪いのか、それとも私とミルの話が一通り終わるのを待っているのか……
 いずれにせよ、お母様に迷惑をかけていることには変わりはないだろう。
 ミルの言葉に我に返った私は、しかしその事を考えてまた慌てだしてしまう。

「リリー、落ち着いて。大丈夫だから」

 私の様子に気が付いたミルは、私がなにか行動を起こす前にすかさず声を掛けてきた。

「兎に角、俺はリリーが懸念しているような感想を抱くつもりは無いし誰にも言わないから。リリーはフォリア様が心配だからここに来たんだろう?」
「……うん、そうだね。取り敢えず今はお母様の様子を見ないと」

 ミルの言葉になんとか落ち着きを取り戻した私は、意を決して扉へと向き直ると、ゆっくりと三度ノックをした。
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