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一章

6. 崖の上に立たされました

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「お披露目、ですか?」

ミルと出会ってから早数週間が過ぎたその日の朝。
スープを飲もうとしていた私は、スプーンを空に浮かせたままその言葉に目を瞬かせた。

「ああ。リリーは再来月には六歳になるだろう?だから誕生日パーティーを兼ねて他の貴族達にお披露目するんだよ」

お父様曰く、この国ではデビュタントと呼ばれる十六歳になってから社交界デビューをする前に、六歳になると自身の誕生パーティーを兼ねての貴族社会へお披露目の場が設けられることになるのだという。
そう云えば『恋きら』の中でもそんな話が出てきたっけ。ええっと、何処に出てきたんだったっけなぁ……と呑気に記憶を遡っていき、そこで私は固まった。
あ、れ?これってもしかしなくてもやばいやつじゃない?
身体をふるりと震わせると、私の異変に気が付いたらしいセシルお兄様が訝しげに私を見た。

「どうかしたかい?」
「リリーちゃん、もしかして今から緊張しているの?」

お母様は私の様子に緊張していると勘違いしたらしい。心配そうで、それでいてどこか微笑ましいものを見るような眼差しを向けられる。
実際は全然違うのだけれど、この際お母様の勘違いに乗ってしまった方が誤魔化せると踏んだ私は、お母様の言葉に頷いた。

「少しだけ」

そう言うと、お母様がうんうんと同意してくる。

「そうよねぇ。私も初めての時は緊張したわ。沢山の大人達に見られるんだもの、デビュタントでも思ったのだけれど、お披露目の時でも品定めされているかのように感じたわ」
「フォリア、そんなにあけすけとリリーに言ったら余計に不安がるんじゃ……」
「あら、そう?」

お父様の言葉に頬に手を当てて首を傾げるお母様。
いや、それくらいで不安になるようなか弱い神経はしてないから平気だよ。
それに私はそれどころじゃないし。それどころじゃなくてお腹が痛くなってくる……



なんとか無事に朝食を終えて部屋へと戻ってきた私は、とりあえず心を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。それから部屋に配置されているソファーに座り込むと、改めて掘り返した記憶をもう一度丁寧になぞっていった。

「えっと、リリーローズのお披露目パーティーのことはリリーローズの断罪イベントの時……ノアルートの時に回想として出てきたんだっけ」

ノアはリリーローズの義弟だった。つまり、リリーローズである私の義弟になるということ。

さて、ここでノアについておさらいしよう。
ノアの正式名称はノア・アラザン・スターライト。赤髪に橄欖ペリドット色の瞳という鮮やかな色彩を持ち合わせた彼は、一言で述べるならばヤンデレさんだ。いや、見た目は天使みたいなのよ?それに表面上の性格は優しくて良い子なのよ?
けれどもヒロインがノアルートに入ると、ノアのヤンデレが進んでいくというシステムなんですよ……
そして、ノアがヤンデレとなった最初の原因はリリーローズだ。
そもそもノアが義弟になると、お母様がお父様の不貞を疑うことになって、最終的に両親の仲は壊滅的な状態にまで陥ってしまうんだよね。そして最後お母様はあまりのショックで精神がやられて自殺してしまうし。
で、その事が原因でリリーローズはノアを虐め出すんだよ。ノアも自分の所為で両親の仲が拗れてしまったことを知っていて、更にそこへ追い打ちをかけるかのようにリリーローズがノアを虐めるから、どんどんノアの中で罪悪感が募る一方なのだ。
それに、うちにはセシルお兄様がいるから将来家を継がせるためにお父様が連れてきた訳じゃないのは明白で、それにお父様もお母様のことで相当ショックを受けてしまい子供を省みることがなくなってしまうのだ。その為ノアは誰も助けてくれる人がいなくて、最終的にノアは自分の殻に閉じこもるようになってしまうのである。
そんな中ヒロインと出会うことで、ノアは徐々に自分を守るための分厚い殻を自ら壊していくようになるんだけれど、その段階の途中で面倒なことになるのだ。
ここまではまだ良い話だね~でおわれる範囲だと思う。いや、私が私だった頃の話ではだけれどね?
だけれどその段階の途中で、ヒロインがノアルートへと入ると、愛に飢えていたノアは次第にヒロインに対して重い愛を持つことになり、ちょっと詳しいところは省くけれど、最終的には立派なヤンデレさんへと成長するのである。
そしてそんなヤンデレノアのルートに入れば、ハッピーエンドの場合は普通に処刑され、バットエンドの場合だとノア自らにナイフでグサリ。つまりどちらにせよ訪れる私の未来には死しかないのだ。

「これは、回避しないと命がないよなぁ」

だが今回のこれは回避不可だろう。私のお披露目パーティーなのに私が出なければ意味が無いのだから。
というかここって補正効くシステムとかではないよね?ゲーム通りに進めようという変な補正システムなんて存在してないよね!?もしあるなら確実に私は死亡フラグへ一直線なんだけれど!!
ああ、どうしよう……死亡フラグ消せないままだったら後々面倒なことになるよね。
そうなったら私はユーリ様との幸せハッピーライフをゆっくりと築き上げていけなくなっちゃうじゃない!!
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