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一章
5. ミルフォード
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そして案内した庭園は、ミルフォード様にとって予想よりも遥かに興味をそそるものだったらしい。あちこちの植物を指しては私に「これはなんの植物?」と物珍しそうに見て尋ねてきた。
お母様が草花に対して唯ならぬ関心を抱いているおかげか、我が家の庭園には珍しい種類の植物が植えられていたりするからね。あとは品種改良した薔薇とかもあるし。
何はともあれ退屈しのぎにはなったようでよかったです。
「そろそろ応接間に戻りましょうか」
一通り庭園に咲き誇っている花達の説明を終えた私は、ミルフォード様を振り返ってそう告げた。ミルフォード様は私の提案に頷く。
「そうだね。ありがとう、リリーローズ嬢」
「いいえ、楽しんでいただけたようでなによりです」
老若男女問わずに絆されてしまいそうな笑顔を浮かべて礼を述べるミルフォード様に、しかし私はふわりと笑って返す。きっと同年代の女の子なら絶対にそんなミルフォード様に顔を真っ赤にしそうなものだけれど、生憎なことに私の精神年齢は二倍以上。そんなことで表情が崩れる私ではないのである。
平然としていた私に、ミルフォード様は少しだけ目を細めた。
「珍しいな、そういう反応は」
「……はい?」
ぼそりと呟かれた言葉は、きちんと私の耳に届きました。え、珍しい?私何か変な反応したっけ?
思わず首を傾げた私に、ミルフォード様は真面目な表情できっぱりと言った。
「だってさっきみたいな表情で笑ってれば、大抵の令嬢は頬を赤く染めるんだけれど、君はそんなこと無かったから」
それに俺は公爵家の嫡男だから、あわよくば時期公爵夫人になりたいという思惑を持って自分の子供達を近付かせる人も多いからね……なんてことを続けて話すミルフォード様。
開いた口が塞がらないとは、まさしくこのことだと思います。
あぁ、自覚あっての猫被りだったのね。うん、流石は公爵家のご子息様ですねぇ。……あの、どこから突っ込めばいいですか?
普通五歳でそこまで見抜いている人っている?まだ頬を赤く染めるから~のところまでは目の前で反応されるんだもの、そりゃあ分かるだろうけどね?でも、そんな大人達の下心を早々に理解出来てるのってどうなの?
ちょっと……いや、かなりミルフォード様は早熟してる気がする。
それともここの世界ではミルフォード様が普通なのだろうか。貴族はみんな早熟だったりするのだろうか。
「ええっと、その、大変な思いをされていらっしゃるのですね……」
貴族社会って恐ろしいなんて感想を抱きながら、私はなんとか言葉を絞り出す。そして頬が引き攣ってしまうのはもう仕方があるまい。
ミルフォード様はそんな私の様子をどこか探るような眼差しでじっと見ていた。それからふっと表情を緩めた。
「リリーローズ嬢は他のご令嬢とは違うみたいだね。変に媚を売ってこないし、それに君の傍にいる時は心穏やかに過ごせそうだ」
「左様でございますか」
「リリーと呼んでも?あ、俺のことはミルで構わないから。それとそんなにかしこまった話し方じゃなくていいから」
疑問形で訊かれた筈なのに次々と言葉を続けられて、名前についてを否定することは叶わなかった。まあ、否定する気は元からないのだから、それは別に構わないのですけれど。
それにしても、かしこまった話し方じゃないとなると、私の場合は大惨事になりそうな予感がするよ?とてもではないけれど貴族の使うような言葉遣いじゃなくなりますもの。
でも当の本人がそれで良いと言ってるんだし、ここはお言葉に甘えてしまおう。
「それじゃあ、改めてよろしくお願いしますね、ミル」
「こちらこそよろしく、リリー」
ミルフォード様——もとい、ミルとならきっと良い友人関係を築けていけるかもしれないなんて思いながら私が笑顔で手をさし出すと、ミルも私の手を握り返してくれた。
その後、初めよりも幾分も打ち解けた様子で、更には愛称で名前を呼び合っている私達に気が付いたお母様方は、それはそれは嬉しそうにしていたのは余談です。
お母様が草花に対して唯ならぬ関心を抱いているおかげか、我が家の庭園には珍しい種類の植物が植えられていたりするからね。あとは品種改良した薔薇とかもあるし。
何はともあれ退屈しのぎにはなったようでよかったです。
「そろそろ応接間に戻りましょうか」
一通り庭園に咲き誇っている花達の説明を終えた私は、ミルフォード様を振り返ってそう告げた。ミルフォード様は私の提案に頷く。
「そうだね。ありがとう、リリーローズ嬢」
「いいえ、楽しんでいただけたようでなによりです」
老若男女問わずに絆されてしまいそうな笑顔を浮かべて礼を述べるミルフォード様に、しかし私はふわりと笑って返す。きっと同年代の女の子なら絶対にそんなミルフォード様に顔を真っ赤にしそうなものだけれど、生憎なことに私の精神年齢は二倍以上。そんなことで表情が崩れる私ではないのである。
平然としていた私に、ミルフォード様は少しだけ目を細めた。
「珍しいな、そういう反応は」
「……はい?」
ぼそりと呟かれた言葉は、きちんと私の耳に届きました。え、珍しい?私何か変な反応したっけ?
思わず首を傾げた私に、ミルフォード様は真面目な表情できっぱりと言った。
「だってさっきみたいな表情で笑ってれば、大抵の令嬢は頬を赤く染めるんだけれど、君はそんなこと無かったから」
それに俺は公爵家の嫡男だから、あわよくば時期公爵夫人になりたいという思惑を持って自分の子供達を近付かせる人も多いからね……なんてことを続けて話すミルフォード様。
開いた口が塞がらないとは、まさしくこのことだと思います。
あぁ、自覚あっての猫被りだったのね。うん、流石は公爵家のご子息様ですねぇ。……あの、どこから突っ込めばいいですか?
普通五歳でそこまで見抜いている人っている?まだ頬を赤く染めるから~のところまでは目の前で反応されるんだもの、そりゃあ分かるだろうけどね?でも、そんな大人達の下心を早々に理解出来てるのってどうなの?
ちょっと……いや、かなりミルフォード様は早熟してる気がする。
それともここの世界ではミルフォード様が普通なのだろうか。貴族はみんな早熟だったりするのだろうか。
「ええっと、その、大変な思いをされていらっしゃるのですね……」
貴族社会って恐ろしいなんて感想を抱きながら、私はなんとか言葉を絞り出す。そして頬が引き攣ってしまうのはもう仕方があるまい。
ミルフォード様はそんな私の様子をどこか探るような眼差しでじっと見ていた。それからふっと表情を緩めた。
「リリーローズ嬢は他のご令嬢とは違うみたいだね。変に媚を売ってこないし、それに君の傍にいる時は心穏やかに過ごせそうだ」
「左様でございますか」
「リリーと呼んでも?あ、俺のことはミルで構わないから。それとそんなにかしこまった話し方じゃなくていいから」
疑問形で訊かれた筈なのに次々と言葉を続けられて、名前についてを否定することは叶わなかった。まあ、否定する気は元からないのだから、それは別に構わないのですけれど。
それにしても、かしこまった話し方じゃないとなると、私の場合は大惨事になりそうな予感がするよ?とてもではないけれど貴族の使うような言葉遣いじゃなくなりますもの。
でも当の本人がそれで良いと言ってるんだし、ここはお言葉に甘えてしまおう。
「それじゃあ、改めてよろしくお願いしますね、ミル」
「こちらこそよろしく、リリー」
ミルフォード様——もとい、ミルとならきっと良い友人関係を築けていけるかもしれないなんて思いながら私が笑顔で手をさし出すと、ミルも私の手を握り返してくれた。
その後、初めよりも幾分も打ち解けた様子で、更には愛称で名前を呼び合っている私達に気が付いたお母様方は、それはそれは嬉しそうにしていたのは余談です。
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