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一章

3. 早々に不安が……

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それから五日後の朝。
諸々の記憶と事情の整理を納得のいくまで延々と頭の中で巡らせていたのだが、五日掛かって漸く今置かれている現状を呑み込むことが出来た私は、晴れてベッドから抜け出すことが出来るようになった。
整理する時間が長いとかいう感想は受け付けません。
だってしょうがないじゃん、まさか小説みたいに自分が二次元に、しかもそれが前世の私が全力でプレーしていた乙女ゲームの世界に生まれ変わるとか思ってなかったし。
夢じゃないよねとか、こんなこと本当にあっていいのかよとかって混乱したんだから!!
なんてことを考えていると、不意にお父様とお母様から心配そうな声をかけられてしまった。
そういえば今朝食とるために食堂に来てたんだったっけなぁ。

「リリー、やっぱりまだ体調が優れないんじゃないか?」
「そうねぇ、あんまり食事に手をつけていないみたいだし、ぼーっとしてるし……。リリーちゃん、無理は禁物よ?」
「少し考え事をしていただけだから心配しないで、お父様、お母様」
「そう?それならいいのだけれど……」

それでも尚心配そうな眼差しを向けてくるお父様とお母様に、私は笑顔を浮かべて大丈夫と頷いてみせた。
ごめんなさい、お父様お母様。本当はこの五日間体調悪かった訳では無いの。ただ考えごとを整理するために仮病を使って部屋に引きこもっていただけなの。
それにしても、明らかに外人さんな見た目をしている人達が日本語で話してるのって違和感があるなぁ。
なんて感想を抱きつつ両手でパンを千切ながら、私はなんとなく目の前に座っているセシルお兄様に視線を向けた。
優雅な仕草でナイフとフォークを使うセシルお兄様はとても絵になります。流石攻略対象なだけあって顔立ち以外も全て一々様になってやがる。

「……どうかした?僕の顔になにかついてる?」

あ、見てたのバレた?
私は慌てて笑って誤魔化しに入った。まだ私は五歳児だから無邪気に笑えばなんとでもなるでしょう!
セシルお兄様は少しだけ怪訝そうな顔をしたけれど、それ以上何かを追求してくることは無かった。
きっと私が五歳児だから深く何かを考えていたなんて思ってないんでしょう。見た目はまだ五歳児だからね!(大事なことなので二回言う)
というよりもセシルお兄様って幼少期は『僕』なんだ。ゲーム時だと『私』ってなっていたからなんだか不思議な感じがします。

「そういえば、リリーちゃんもそろそろでお友達欲しいかしら?」
「おともだち?」

ふとお母様から振られた話題に、私は首を傾げる。
なんだろうその不穏そうな言葉。
リリーローズのお友達っていうとなんだか取り巻きしか思い浮かばないんだけれど。

「そうよ。丁度私の親友の子供がリリーちゃんと同い年でね、この間お茶会に行った時に今度お互いの子供を会わせましょうって話をしていたのよ!」
「そうなんだ……」
「リリーちゃんは嫌?」
「え、いえ、そんなことは……」
「それなら決まりね!!」

きらきら瞳を輝けせて語るお母様の勢いに押されて思わず頷いてしまったけれど、ほんわかしているお母様が可愛いからまあいっか。
それにしても、同い年の子供かぁ。
流石にこのくらいの歳から我儘で高飛車なお嬢さま、いや女王様キャラな子なんていない……よね?
ちょっとそれだけが不安かもしれない。まあ見た目年齢五歳だけれど、精神年齢は二倍以上上なのだから多分どうってことは無いと思うけれど。どちらかというと微笑ましく映るかもしれない!!たぶん!!

「一週間後にお家にお呼びましょうか。旦那様、先方に伝えておいて下るかしら?」
「分かった、今日中に伝えておくよ」

うん?お母様が伝えるんじゃなくてお父様が伝えるの?お母様のお友達なのに?

「旦那様とお友達の結婚相手は同じ仕事仲間なのよ。だからお手紙を出すよりも同じ場所に務めている旦那様から伝えてもらった方が手間もかからないでしょう?」

私の疑問を正確に汲み取ってくれたお母様がそう説明してくれた。
なるほど、そういうことなのね。
因みにお父様は国王陛下の側近だ。そんなお父様と同じ場所に務めるということは、つまりそのお友達も相当高位に値する貴族なのだろう。
……大丈夫かな。高位貴族になればなるほど性格悪そうなご令嬢がいるイメージしか持てないのだけれど。
というかその子供ってゲーム時に出てくるキャラクターだったりするのかな?
まあ、実際に会ってみないとわからないか。
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