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アンシェイラ王国の建国以来続く由緒正しい家柄であるローゼリア公爵家の末娘である私はその日、なんの前触れもなく思い出したのだ。
前の私が死んだ時のことを。
思えば小さい頃から私は少しだけおかしかった。私は、というより私の記憶は、と言った方が正しいのかもしれないが。
前世の私の記憶は、思いの他ストンと落ちてくれて、混乱状態になることが無かったのは幸いしたと思う。なにせその時私は、王妃様主催のお茶会に参加していたのだから。それもただのお茶会ではない。今回はリアン殿下の婚約者候補たちを集めたお茶会であったのだ。今思っても本当に混乱状態に陥らなくて良かったと思う。もしかしたら記憶が戻ったショックで倒れる~なんてことだって起きていた可能性は否定できないのだから。
けれども、いくら混乱状態に陥ることが無かったとはいえ、いきなり入ってきたもう一人分の記憶に驚かないわけがない。だから私は記憶の整理と心を落ち着かせる為に会場の端っこに移動したのである。まあ、端っこに移動したのはもう一つ理由があるのだが。
前世の記憶を思い出したことで、リアン殿下の婚約者に選ばれたくない、王妃とかにならなくていいから平穏に生きたいという前世からの思いが蘇った結果でもある。
途中私と同じ公爵家のご令嬢が牽制しに私の元を訪れたり訪れなかったりしていたのだが、それは私が返り討ちにしたのでなんら問題は無かったのである。
会場の端っこでの出来事だったし木っ端微塵に叩きのめしても大丈夫だろうと大人げない考えでその令嬢と取り巻き達を締めたのだが、どうやらそれで墓穴を掘ってしまったようだ。
誰にも見られていないと思っていたのに。見られていないと思っていたのに、私が一番見ていて欲しくなかった人物、即ちリアン殿下に一部始終を観察されていた模様。その事が原因なのかは分からないけれど、(そうでなくとも少しはあると思う)気が付いたらリアン殿下にご指名されていたというのであるのだから驚きだ。
……それと同時にほんの少しだけ殿下に向けて悪態をついてしまったのは秘密の話である。
ここまでが今私がリアン殿下にお目通りしていることの全てである。
* * *
そこそこ長い長い回想を終了させがてら、私はいつの間にか用意されていた紅茶を啜った。
別に喉が乾いているわけではない。ただ挨拶以来一言も言葉を発さないこの空間にほんの少しだけ居心地の悪さを感じただけなのだ。
あの、呼んだのはリアン殿下なのだから何かしら話してくれません?居心地悪いしそもそもさっさと帰りたい。用事がないのなら呼び出さないで欲しいんですけれど……
「どうして自分が選ばれたのか気になる?」
不意に声をかけられた。恐らくはちらちらと様子を窺っていたのがばれていたのだろう。まあ、思っていたことは全く別物なのだけれどまだリアン殿下のしている勘違いの方がましだと思うから否定することはやめておいた。その代わりに曖昧に笑っておく。
それに、気になっていたのは嘘ではないのだから、教えてもらえるのなら教えて欲しい。
そう思って頷くと、リアン殿下はふっと笑いながら告げた。
「一目でフレイティア嬢に恋に落ちたからだよ」
その瞬間、私の体は硬直した。
はい?
……何を言ってるのでしょうか、この王子様は。
前の私が死んだ時のことを。
思えば小さい頃から私は少しだけおかしかった。私は、というより私の記憶は、と言った方が正しいのかもしれないが。
前世の私の記憶は、思いの他ストンと落ちてくれて、混乱状態になることが無かったのは幸いしたと思う。なにせその時私は、王妃様主催のお茶会に参加していたのだから。それもただのお茶会ではない。今回はリアン殿下の婚約者候補たちを集めたお茶会であったのだ。今思っても本当に混乱状態に陥らなくて良かったと思う。もしかしたら記憶が戻ったショックで倒れる~なんてことだって起きていた可能性は否定できないのだから。
けれども、いくら混乱状態に陥ることが無かったとはいえ、いきなり入ってきたもう一人分の記憶に驚かないわけがない。だから私は記憶の整理と心を落ち着かせる為に会場の端っこに移動したのである。まあ、端っこに移動したのはもう一つ理由があるのだが。
前世の記憶を思い出したことで、リアン殿下の婚約者に選ばれたくない、王妃とかにならなくていいから平穏に生きたいという前世からの思いが蘇った結果でもある。
途中私と同じ公爵家のご令嬢が牽制しに私の元を訪れたり訪れなかったりしていたのだが、それは私が返り討ちにしたのでなんら問題は無かったのである。
会場の端っこでの出来事だったし木っ端微塵に叩きのめしても大丈夫だろうと大人げない考えでその令嬢と取り巻き達を締めたのだが、どうやらそれで墓穴を掘ってしまったようだ。
誰にも見られていないと思っていたのに。見られていないと思っていたのに、私が一番見ていて欲しくなかった人物、即ちリアン殿下に一部始終を観察されていた模様。その事が原因なのかは分からないけれど、(そうでなくとも少しはあると思う)気が付いたらリアン殿下にご指名されていたというのであるのだから驚きだ。
……それと同時にほんの少しだけ殿下に向けて悪態をついてしまったのは秘密の話である。
ここまでが今私がリアン殿下にお目通りしていることの全てである。
* * *
そこそこ長い長い回想を終了させがてら、私はいつの間にか用意されていた紅茶を啜った。
別に喉が乾いているわけではない。ただ挨拶以来一言も言葉を発さないこの空間にほんの少しだけ居心地の悪さを感じただけなのだ。
あの、呼んだのはリアン殿下なのだから何かしら話してくれません?居心地悪いしそもそもさっさと帰りたい。用事がないのなら呼び出さないで欲しいんですけれど……
「どうして自分が選ばれたのか気になる?」
不意に声をかけられた。恐らくはちらちらと様子を窺っていたのがばれていたのだろう。まあ、思っていたことは全く別物なのだけれどまだリアン殿下のしている勘違いの方がましだと思うから否定することはやめておいた。その代わりに曖昧に笑っておく。
それに、気になっていたのは嘘ではないのだから、教えてもらえるのなら教えて欲しい。
そう思って頷くと、リアン殿下はふっと笑いながら告げた。
「一目でフレイティア嬢に恋に落ちたからだよ」
その瞬間、私の体は硬直した。
はい?
……何を言ってるのでしょうか、この王子様は。
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