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第二幕 番外編
誰よりもハロウィンを楽しむ男①
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「渋ハロっちゅーのに行ってみたいねん!」
庄助のたっての希望は、景虎のやめとけ、という一言であっけなく一蹴された。
渋谷のハロウィンは、スクランブル交差点だけでも何万人もが集まるという。地方者にとってはありえない規模の若者のお祭りだ。
大阪で言うたら阪神タイガースが優勝して、道頓堀がミチミチになるみたいな感じやろ? 楽しそうやから行ってみたい。庄助は説得したが、野球に興味がない景虎はまったくピンときていないようだった。
庄助が青春時代を過ごした大阪ミナミと、渋谷の雰囲気は少し似ている。気取った東京の街の中でも比較的砕けている渋谷の、その猥雑さが庄助は好きだった。たまにふらっと遊びに行ったりはしているが、こんなに大きなイベントは東京に来て初めてだ。
その場に行って衣装を着るだけで、特にチケットなどがなくても参加していることになるのはハードルが低い。お祭り騒ぎが好きな若者としては、行かない手がなかった。
「あんな人混みに何しに行くんだ。着たい衣装でもあるのか?」
ローテーブルに乗せたノートパソコンに向かっていた景虎が振り返った。最近彼は毎日、家で何らかの持ち帰りの仕事をしている。
パソコン作業の時の景虎はメガネをかけている。視力自体は良いそうだが、荒事の際に顔を殴られるせいで角膜が剥がれているため、少し乱視が入っているらしい。
メガネをかけて机に向かっている景虎はかっこいい。黙っていれば知的ともとれる顔だ。
非常にムカつくことに、上下スウェット姿でもモデルのようで様になる。そんなイケメンの景虎に、庄助は一緒に渋谷のハロウィンに行ってほしいのだ。
「そうやないけど……えーと、カゲと一緒にコスプレして、思い出作りたいっていうかぁ~」
ソファベッドに寝転んで、ダラダラとスマホでリール動画を見ていた庄助は、甘えた声を出してみせた。暑がりな庄助はまだ部屋着に半袖にハーフパンツのままで、まるで夏に取り残されている人のようだった。
「却下だ」
「は? なんで! 愛しの庄助くんのお願い、聞いてくれへんのかよ」
景虎は眼鏡のレンズ越しに、口を尖らせる庄助を見つめた。きっと、出会って間もない頃の景虎ならば、庄助のこの言葉にコロッと騙されていただろう。だが、今ならわかる。こうやってわかりやすく甘えたり媚びたりしてくる時の庄助は、たいていロクなことを考えていない。裏があるに違いなかった。
「俺を連れていきたいというのはおかしな話だな。お前のことだから、止めたとしても勝手に一人で行くと思ってたが……何を考えてる?」
庄助はイタズラがバレた子供のような、妙な顔をした。
露出を嫌がる女の子は多いけれど、ハロウィンは違う。普段着られない服を着るというテンションで、せっかくならと大胆になる子は少数だが確実にいる。
庄助は大阪にいる頃から、SNSで渋谷のハロウィンの様子を何年か見ていた。極端にスカート丈が短いゾンビギャルナース、胸元が大きく開いたギャルキョンシー、水着のような面積の布に、申し訳程度に尻尾と羽が生えたサキュバスギャル……などの衣装を着た女性たちが闊歩する姿を見ては羨ましがっていた。
「おおかた、俺をダシに露出の多い女を間近で見たいとか、そんな動機じゃないのか」
「ぐ……!?」
八割がた当たっている。庄助は思わず唸った。
そう、大胆になってテンションの上がっている女の子たちと話すためには、自分もコスプレをしたほうがやりやすい。
ナンパではなく、理想としては向こうから「お兄さんたち超かっこいい、何のコスプレですか?」と話しかけられて、会話してるうちに意気投合……みたいなのがいい。
そのためには人柱がいる。人混みに埋もれない程度に背が高くて、注目を集めることができる程の顔面偏差値の人物といえば、景虎しかいない。
しかも庄助にしか興味がないので、女の子と間違いを犯す心配もない。これほどの適任はないだろう。
女子の視線が景虎に集まってしまうことが予想されて、もちろんムカつきはするものの、ハロウィンギャルナースたちの前では些細なことだ。勝てば官軍。
なにも本気で女の子と出会ってお付き合いしたいわけじゃない。ギャルナースの胸の谷間や脚をチラチラ見ながら、ちょっとだけお話をして盛り上がりたいだけなのだ。お祭りを楽しみたいだけなのだ。
庄助のたっての希望は、景虎のやめとけ、という一言であっけなく一蹴された。
渋谷のハロウィンは、スクランブル交差点だけでも何万人もが集まるという。地方者にとってはありえない規模の若者のお祭りだ。
大阪で言うたら阪神タイガースが優勝して、道頓堀がミチミチになるみたいな感じやろ? 楽しそうやから行ってみたい。庄助は説得したが、野球に興味がない景虎はまったくピンときていないようだった。
庄助が青春時代を過ごした大阪ミナミと、渋谷の雰囲気は少し似ている。気取った東京の街の中でも比較的砕けている渋谷の、その猥雑さが庄助は好きだった。たまにふらっと遊びに行ったりはしているが、こんなに大きなイベントは東京に来て初めてだ。
その場に行って衣装を着るだけで、特にチケットなどがなくても参加していることになるのはハードルが低い。お祭り騒ぎが好きな若者としては、行かない手がなかった。
「あんな人混みに何しに行くんだ。着たい衣装でもあるのか?」
ローテーブルに乗せたノートパソコンに向かっていた景虎が振り返った。最近彼は毎日、家で何らかの持ち帰りの仕事をしている。
パソコン作業の時の景虎はメガネをかけている。視力自体は良いそうだが、荒事の際に顔を殴られるせいで角膜が剥がれているため、少し乱視が入っているらしい。
メガネをかけて机に向かっている景虎はかっこいい。黙っていれば知的ともとれる顔だ。
非常にムカつくことに、上下スウェット姿でもモデルのようで様になる。そんなイケメンの景虎に、庄助は一緒に渋谷のハロウィンに行ってほしいのだ。
「そうやないけど……えーと、カゲと一緒にコスプレして、思い出作りたいっていうかぁ~」
ソファベッドに寝転んで、ダラダラとスマホでリール動画を見ていた庄助は、甘えた声を出してみせた。暑がりな庄助はまだ部屋着に半袖にハーフパンツのままで、まるで夏に取り残されている人のようだった。
「却下だ」
「は? なんで! 愛しの庄助くんのお願い、聞いてくれへんのかよ」
景虎は眼鏡のレンズ越しに、口を尖らせる庄助を見つめた。きっと、出会って間もない頃の景虎ならば、庄助のこの言葉にコロッと騙されていただろう。だが、今ならわかる。こうやってわかりやすく甘えたり媚びたりしてくる時の庄助は、たいていロクなことを考えていない。裏があるに違いなかった。
「俺を連れていきたいというのはおかしな話だな。お前のことだから、止めたとしても勝手に一人で行くと思ってたが……何を考えてる?」
庄助はイタズラがバレた子供のような、妙な顔をした。
露出を嫌がる女の子は多いけれど、ハロウィンは違う。普段着られない服を着るというテンションで、せっかくならと大胆になる子は少数だが確実にいる。
庄助は大阪にいる頃から、SNSで渋谷のハロウィンの様子を何年か見ていた。極端にスカート丈が短いゾンビギャルナース、胸元が大きく開いたギャルキョンシー、水着のような面積の布に、申し訳程度に尻尾と羽が生えたサキュバスギャル……などの衣装を着た女性たちが闊歩する姿を見ては羨ましがっていた。
「おおかた、俺をダシに露出の多い女を間近で見たいとか、そんな動機じゃないのか」
「ぐ……!?」
八割がた当たっている。庄助は思わず唸った。
そう、大胆になってテンションの上がっている女の子たちと話すためには、自分もコスプレをしたほうがやりやすい。
ナンパではなく、理想としては向こうから「お兄さんたち超かっこいい、何のコスプレですか?」と話しかけられて、会話してるうちに意気投合……みたいなのがいい。
そのためには人柱がいる。人混みに埋もれない程度に背が高くて、注目を集めることができる程の顔面偏差値の人物といえば、景虎しかいない。
しかも庄助にしか興味がないので、女の子と間違いを犯す心配もない。これほどの適任はないだろう。
女子の視線が景虎に集まってしまうことが予想されて、もちろんムカつきはするものの、ハロウィンギャルナースたちの前では些細なことだ。勝てば官軍。
なにも本気で女の子と出会ってお付き合いしたいわけじゃない。ギャルナースの胸の谷間や脚をチラチラ見ながら、ちょっとだけお話をして盛り上がりたいだけなのだ。お祭りを楽しみたいだけなのだ。
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