ぬきさしならへんっ!

夢野咲コ

文字の大きさ
上 下
98 / 187
第二幕

11.悪の吼える夜④*

しおりを挟む
 首も、腕も、腹も、男二人で押さえられて歯が立たない。
「そうそういい子だね。噛んだら殺すからね~」
「ン゙っ……むぅ~~!」
 亀頭ごと先走りを顎や唇に塗りつけられて、とうとう涙が流れた。楽しむようにゆっくりと、それが口の中に押し入ってこようとする。
 景虎以外の人間に、身体の中に侵入されたくないと、庄助は強く思った。
 それは、倫理や貞操観念などの理性の及ぶ範囲の話ではなく、もっと極めて生理的で、原始的な領域のものだった。

 伝った悔し涙が耳介に入り込んでくる、と同時に、先程聞いた小さな電子音が聞こえた。
 ルームキーによって、施錠が解かれる音だ。
「おい、ヒカリ! チェーンかけろ」
 焦ったように向田が言った。
「……え、はいっ」
 ヒカリは反射的に立ち上がったが、押さえつけられる庄助と目が合って、ほんの一瞬だけ逡巡した。
 その瞬きほどの間に、古くさく重たいばかりの扉が、壁面に当たって跳ね返るほどの勢いで開かれた。地震のように、部屋全体がガタンと揺れた気がした。
 扉の前に立っていたら、ただでは済まなかったであろう。ヒカリはその場にヘナヘナと腰を抜かして崩れ落ちた。
 ドアはまた錆びた音を立ててゆっくりと閉まり、何者かが部屋の中に入ってきた足音とともに、勝手に施錠された。レバー型のドアノブが取れて、壁にめりこんでいた。

「どぉも~。ユニバーサルインテリアです」
 間延びした男の声が聞こえた。庄助は必死で首を伸ばしそちらに目を遣ったが、腹に乗り上げた向田の身体が邪魔で何も見えなかった。
 ……見えはしないが、肌がひりつくような殺気を入口の方から感じる。抜き身の刀のような、暗くて鋭くて静かで、なおかつ明確な気配だ。
「カ……っ」
 庄助は、その殺気の持ち主を誰よりも近くで知っている。新たな、しかし別の種類の涙が溢れた。

「許可をください、国枝さん」
 地を這うような低い虎の唸り声が、我慢できないとばかりに震えて響いた。
「こいつら全員、殺していいと言ってください」

 ひ、と誰かの息を呑む音が聞こえた。庄助を陵辱せんと鎌首をもたげていた男のペニスは、一瞬にして縮み上がって、ズボンの布の中に隠れてしまった。
「国枝ァ! 何しにきやがった! どうやってここが……」
 向田が叫んで、ベッドから飛び降りた。バスルームの前によく見知った男二人が立っているのを見つけると、まだ何も終わっていないのに、庄助の胸に急速に安堵が広がった。

「駄目に決まってんでしょ。人ひとり消すのに、どれだけコストかかると思ってんの」
 向田の言葉を無視して、国枝は困った顔を作った。二人とも作業員のようなツナギを着ているし、国枝は片手に工具箱まで持っている。何かの仕事のついでに来たのだろうか、と庄助は思った。
「おい、無視してんじゃねえぞ!」
 国枝に掴みかかろうとした向田の顔面を、景虎の長い腕が薙いだ。目に見えないような速さの裏拳が、音も立てず急所を捉えようとする。
 向田は咄嗟に顔を引いたが、景虎の手背がサングラスを掠め、ノーズパッドが鼻の根にめり込んだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...