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第二幕
11.悪の吼える夜①
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「あと、猫耳つけたら終わりだよ。ね、早坂さん」
ヒカリは、いかにも機嫌の良さそうな笑みを浮かべた。
猫耳と聞いて、庄助はとっさに頭を庇った。寒気がした。これだけ恥ずかしい格好にまだ上があるとは思っていなかった。
「似合ってるじゃねえか、可愛い可愛い」
向田は馬鹿にしたように言うと庄助の傍にしゃがみ、顎を掴んで自分の方を向かせた。
「や……っめ」
「ははっ。金髪だしギャルかな? いいね~バカっぽいけど尻のあたりの肉付きいいし、好きな奴は好きそう」
肩を抱かれ生の尻を揉まれたので、庄助は身体を捻って避けようとした。その隙にヒカリが、エクステのクリップの隙間に黒い猫耳を差し込んでゆく。黒いボアでできた耳の縁にもピンクのリボンが結われていて、下着とセットなのだということがわかった。
おい、と向田が声をかけると、後ろで控えていた男が、何やらガタガタと機材をセットし始めた。三脚の足を伸ばして、デジタル一眼レフを取り付けている。Tシャツの下にロンTを重ね着していて、おっさんのくせに小学生みたいな着こなしだなと、庄助は男を見つめた。
「ネットと店頭用に写真撮ろうか、庄助……あー、源氏名も決めないとな。なんか希望ある?」
立ち上がった向田が、胸ポケットの加熱式タバコに手を伸ばすと、すっかり用の済んだヒカリがその懐に隠れるように擦り寄っていった。
「イヤです……っ! できません!」
布の少ない服を着ると、心まで弱気になってしまうのだろうか。胸元と股間を手足で隠しながら、庄助は子犬のようにぷるぷると震えた。
向田に何度か殴られたことによって、姿を見るだけで身体が拒否反応を示すようになってしまった。
「できない? なんでぇ? 身体が売り物になるなんざ、いいことじゃねえか。資本もいらねえし、金だってその場でもらえる。こォ~んなに若いんだから、今のうちやらなきゃ損だぜ」
「でも、でもこんなんっ……! せや、いっかい国枝さんに、連絡さしてください」
「……あ?」
向田はタバコのカートリッジを咥えたまま、庄助の二の腕を掴んで立たせると、頬を拳骨で殴った。
「っご……」
「何が国枝だ、下っ端が調子に乗りやがってよ!」
容赦なく、二撃目、三撃目が飛んでくる。顔を庇えば裸の腹に膝蹴りが飛んできて、庄助はよろめきベッドに尻餅をついた。国枝の名前を出したのは、間違いだったようだ。
「おい店長、撮影より先に研修してやれや」
脳が揺れて、目の裏にチカチカと星が瞬いている。
ベッドの上に仰向けに倒れて逆さになった視界に、窓の外の風景が飛び込んでくる。分厚い雲が、高層ビルの青いライトに照らされている。暗い空から滴った透明の雫が、ぱたぱたと窓を叩いている。
先程より、雨足は弱まっていた。
景虎と初めて会った日も雨だったことを、こんなときに何故か思い出した。
ヒカリは、いかにも機嫌の良さそうな笑みを浮かべた。
猫耳と聞いて、庄助はとっさに頭を庇った。寒気がした。これだけ恥ずかしい格好にまだ上があるとは思っていなかった。
「似合ってるじゃねえか、可愛い可愛い」
向田は馬鹿にしたように言うと庄助の傍にしゃがみ、顎を掴んで自分の方を向かせた。
「や……っめ」
「ははっ。金髪だしギャルかな? いいね~バカっぽいけど尻のあたりの肉付きいいし、好きな奴は好きそう」
肩を抱かれ生の尻を揉まれたので、庄助は身体を捻って避けようとした。その隙にヒカリが、エクステのクリップの隙間に黒い猫耳を差し込んでゆく。黒いボアでできた耳の縁にもピンクのリボンが結われていて、下着とセットなのだということがわかった。
おい、と向田が声をかけると、後ろで控えていた男が、何やらガタガタと機材をセットし始めた。三脚の足を伸ばして、デジタル一眼レフを取り付けている。Tシャツの下にロンTを重ね着していて、おっさんのくせに小学生みたいな着こなしだなと、庄助は男を見つめた。
「ネットと店頭用に写真撮ろうか、庄助……あー、源氏名も決めないとな。なんか希望ある?」
立ち上がった向田が、胸ポケットの加熱式タバコに手を伸ばすと、すっかり用の済んだヒカリがその懐に隠れるように擦り寄っていった。
「イヤです……っ! できません!」
布の少ない服を着ると、心まで弱気になってしまうのだろうか。胸元と股間を手足で隠しながら、庄助は子犬のようにぷるぷると震えた。
向田に何度か殴られたことによって、姿を見るだけで身体が拒否反応を示すようになってしまった。
「できない? なんでぇ? 身体が売り物になるなんざ、いいことじゃねえか。資本もいらねえし、金だってその場でもらえる。こォ~んなに若いんだから、今のうちやらなきゃ損だぜ」
「でも、でもこんなんっ……! せや、いっかい国枝さんに、連絡さしてください」
「……あ?」
向田はタバコのカートリッジを咥えたまま、庄助の二の腕を掴んで立たせると、頬を拳骨で殴った。
「っご……」
「何が国枝だ、下っ端が調子に乗りやがってよ!」
容赦なく、二撃目、三撃目が飛んでくる。顔を庇えば裸の腹に膝蹴りが飛んできて、庄助はよろめきベッドに尻餅をついた。国枝の名前を出したのは、間違いだったようだ。
「おい店長、撮影より先に研修してやれや」
脳が揺れて、目の裏にチカチカと星が瞬いている。
ベッドの上に仰向けに倒れて逆さになった視界に、窓の外の風景が飛び込んでくる。分厚い雲が、高層ビルの青いライトに照らされている。暗い空から滴った透明の雫が、ぱたぱたと窓を叩いている。
先程より、雨足は弱まっていた。
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