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第二幕
9.庄助を救え〜GPS職人・涙の追走劇〜①
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スマホの画面を見ながら青くなったり、かと思えば目を白黒させたり、あまり見たことのない表情を覗かせる景虎を見て、周りの組員たちは何事かと顔を見合わせている。
「く……っ」
机の上のスマホを睨みつけ、景虎は苦い嘆息を漏らした。
夕刻前の、株式会社ユニバーサルインテリアの社内。
休みのはずの景虎が出社してきたかと思うと、奥のデスクに陣取っては、物々しいオーラを放ちながらスマホをずっと眺めている。
組員たちはみんな、出会い系アプリのサクラの仕事や、野球賭博のハンデの設定など、思い思いの作業に精を出しているというのに、ただならぬ雰囲気で周りを威圧しているのは作業妨害に近い。
「ねえ、景虎。なにしに来たの」
国枝は退屈そうに自分の爪にヤスリをかけながら、時折スマホをタップしている。アプリの麻雀ゲームをやっているようだ。
手首全体を覆っていた仰々しいギプスは外れて、その代わりに黒いサポーターで手の甲を固定している。
国枝が声をかけると、景虎は憔悴したように見上げてきた。大きな身体が心なしか小さく見える。
「庄助を理由あってGPSで見張っているのですが……何かあったときに事務所のほうが動きやすいと思ったので」
「え、監視してるのきも……」
呆れた声を出すと、首を伸ばして景虎のスマホの画面を見る。そこには地図が表示されており、庄助の位置情報と思しき黄色い通学帽のようなアイコンが、その上を移動をしていた。
「仕事についてくるなと言われまして、仕方なく」
「ついてくるなとGPSで監視するなってのは、同義語だと思うよ」
国枝は立ち上がり景虎の隣に行くと、机に手をついて画面を覗き込んだ。
景虎の見ているアプリは本来、小さい子供の学校の行き帰りを見守る用途で作られたもののようだ。仮にもヤクザなのに、小学生用のアプリで見守られる庄助のことを思うと、国枝は愉快でたまらなくなった。
「ふふ、もしかして、向田さんのとこの仕事?」
「おそらく……」
「確かにあのおじさん、ろくなことしないけど……庄助がついていくのは、景虎が許可したんでしょ」
「目論見が外れました。もっと早く音を上げると思ってた」
「というと?」
「向田の姑息な仕事ぶりを見て、ヤクザなんてもう嫌だやりたくない、って言って泣きついてくると思ってたんです。そのためにわざわざ許可してやったし、家では優しくしてやったのに」
「ぶっはは!」
国枝は吹き出した。天然なのかと思えば、腹の中ではしっかり卑怯なことを考えている。景虎は冗談の一つも言わない男だが、そういうところは面白い。
小さい頃からヤクザとして、色々と教えてきた甲斐があるというものだ。
さすが、卑劣だねえ! と、頭をガシガシ撫でてやると、景虎はムスッとした顔で国枝の手を振り払った。
「手ェ焼いてるわけだ~」
「庄助が、俺の考えを上回るバカなだけです」
青春してんね。ムカつくなあ。
若い二人を微笑ましく思う気持ちと、イチャつくんじゃねえ殺すぞという気持ちは両立する。
だから、国枝はオフィスの中ではわざとらしく、庄助に身体をくっつけたり頭や尻を撫で回したりして、景虎の反応を楽しんでいる。
内心ブチ切れながらも国枝には逆らえない景虎が、怒りを溜めに溜めている様が非常に面白いが、多分その鬱憤の矛先は全て庄助に向いているのだろうと思うと、少しだけ申し訳なくなる。
「国枝さァん。ちょっと今日、お先に失礼していいでしょうか?」
本棚周りの備品整理を終えたナカバヤシが挙手した。
国枝と会話することで、景虎が相好を崩したのがわかったのか、少し緩んだ空気に乗じて話しかけてきた。
「く……っ」
机の上のスマホを睨みつけ、景虎は苦い嘆息を漏らした。
夕刻前の、株式会社ユニバーサルインテリアの社内。
休みのはずの景虎が出社してきたかと思うと、奥のデスクに陣取っては、物々しいオーラを放ちながらスマホをずっと眺めている。
組員たちはみんな、出会い系アプリのサクラの仕事や、野球賭博のハンデの設定など、思い思いの作業に精を出しているというのに、ただならぬ雰囲気で周りを威圧しているのは作業妨害に近い。
「ねえ、景虎。なにしに来たの」
国枝は退屈そうに自分の爪にヤスリをかけながら、時折スマホをタップしている。アプリの麻雀ゲームをやっているようだ。
手首全体を覆っていた仰々しいギプスは外れて、その代わりに黒いサポーターで手の甲を固定している。
国枝が声をかけると、景虎は憔悴したように見上げてきた。大きな身体が心なしか小さく見える。
「庄助を理由あってGPSで見張っているのですが……何かあったときに事務所のほうが動きやすいと思ったので」
「え、監視してるのきも……」
呆れた声を出すと、首を伸ばして景虎のスマホの画面を見る。そこには地図が表示されており、庄助の位置情報と思しき黄色い通学帽のようなアイコンが、その上を移動をしていた。
「仕事についてくるなと言われまして、仕方なく」
「ついてくるなとGPSで監視するなってのは、同義語だと思うよ」
国枝は立ち上がり景虎の隣に行くと、机に手をついて画面を覗き込んだ。
景虎の見ているアプリは本来、小さい子供の学校の行き帰りを見守る用途で作られたもののようだ。仮にもヤクザなのに、小学生用のアプリで見守られる庄助のことを思うと、国枝は愉快でたまらなくなった。
「ふふ、もしかして、向田さんのとこの仕事?」
「おそらく……」
「確かにあのおじさん、ろくなことしないけど……庄助がついていくのは、景虎が許可したんでしょ」
「目論見が外れました。もっと早く音を上げると思ってた」
「というと?」
「向田の姑息な仕事ぶりを見て、ヤクザなんてもう嫌だやりたくない、って言って泣きついてくると思ってたんです。そのためにわざわざ許可してやったし、家では優しくしてやったのに」
「ぶっはは!」
国枝は吹き出した。天然なのかと思えば、腹の中ではしっかり卑怯なことを考えている。景虎は冗談の一つも言わない男だが、そういうところは面白い。
小さい頃からヤクザとして、色々と教えてきた甲斐があるというものだ。
さすが、卑劣だねえ! と、頭をガシガシ撫でてやると、景虎はムスッとした顔で国枝の手を振り払った。
「手ェ焼いてるわけだ~」
「庄助が、俺の考えを上回るバカなだけです」
青春してんね。ムカつくなあ。
若い二人を微笑ましく思う気持ちと、イチャつくんじゃねえ殺すぞという気持ちは両立する。
だから、国枝はオフィスの中ではわざとらしく、庄助に身体をくっつけたり頭や尻を撫で回したりして、景虎の反応を楽しんでいる。
内心ブチ切れながらも国枝には逆らえない景虎が、怒りを溜めに溜めている様が非常に面白いが、多分その鬱憤の矛先は全て庄助に向いているのだろうと思うと、少しだけ申し訳なくなる。
「国枝さァん。ちょっと今日、お先に失礼していいでしょうか?」
本棚周りの備品整理を終えたナカバヤシが挙手した。
国枝と会話することで、景虎が相好を崩したのがわかったのか、少し緩んだ空気に乗じて話しかけてきた。
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