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第二幕
1.ハッピーさんとワナビーくん⑨
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「もっ……もうあかーん!」
庄助は、正気に戻って景虎の頬を両手でばちんと挟んだ。危ないところだ。こんな公共の場で、流されてしまうところだった。
「む……なんでダメなんだ」
「あかんに決まってるやろ! 本気で怒るぞ、おさわり禁止や!」
強めに言うと、胸を両手でがっちりとガードした。
景虎によって立派な性感帯として開発されつつある乳首は、気のせいか近頃、ほんの少し大きくなってきている気がする。これから本格的な夏を薄着で過ごすのが不安になるから、本当にやめてほしかった。
「このまま、ここで抱いてもいいと思ってるのに……」
本心から嫌がっている庄助の口ぶりに、景虎はしょんぼりしながら、身体を名残惜しそうに離した。
「ええわけないやろが! 公然わいせつ罪で捕まりたないわ」
「……まあいい。続きは帰ってからだな」
「せえへんっちゅーねん!」
顔がまだ熱い。こんなことを言いながら、二人きりになったら許してしまいそうで、庄助は自分がいやになった。
チューは年に一回だとか、その先は今日は駄目だとか、肉体関係を持ち始めて最初の頃こそ、庄助はルールを決めようと頑張ってはいた。が、結局は面倒くさくて、なあなあになってしまった。
過剰にルールを決めるとしんどくなるのはズボラな自分やし、まあええか。イヤやったらイヤって言うし。
それは、景虎に求められることをどこか心地良いと思ってしまっている、庄助の姑息な言い訳だった。
じわじわと酔いが醒めてくると、静かに座っているのが暑くなってきた。庄助は、汗ばむ身体に鞭を打つように、背広をはおり直した。
「……あのよ、俺はな。何も考えなしに、ヤクザになりたいって言うてるわけやないねんで。それだけはわかっといてや」
「考えがあるのか?」
「うん。俺がヤクザの頂点になったら、オレオレ詐欺とかそういうダサくて卑怯なシノギを禁止にしたい! ヤクザを、昔ながらのかっこええ義理人情の集団に戻すねん。ええと思わん?」
あまりにも無邪気に未来への展望を語る庄助を見て、景虎はぺちんと頭を張ってやりたくなったが、ぐっと我慢した。
「なるほど。立派な志だ。さすが庄助は極道を愛する男なだけあるな」
「せやろ? せやからカゲも……」
「だったら庄助が警察になって悪人を捕まえるか、政治家になってルール自体を変えたほうがいいだろうな」
「うぐ……!?」
カゲのくせに正論言うな。そう言い返したかったが、言葉がすぐには見当たらず、庄助は押し黙ってしまった。
「……俺は、この仕事も悪いことばかりじゃないって初めて思った。お前に会えたから」
景虎のその言葉に、庄助は想像する。
彼の隣に立つ、立派なヤクザになった自分を。
肉体的にも精神的にもタフになって、あの国枝や矢野でさえも、庄助に一目を置いている。
なにより、強くて美しい獣みたいな景虎が、信頼して背中を預けてくれるような。そんな理想の自分になりたいと、庄助は思う。
けれど、同時に矢野に言われたことが引っかかっている。
本当に自分は、単純な憧れだけでヤクザになりたいのだろうか。
「俺は、お前が思ってるほどええ奴ちゃうぞ……多分」
庄助はそう言うと立ち上がった。
風が吹いて、雲が散った。雨が降りそうだ。
強い風に乗った雨雲が、急くようにまた月に薄い膜をかけた。
庄助は、正気に戻って景虎の頬を両手でばちんと挟んだ。危ないところだ。こんな公共の場で、流されてしまうところだった。
「む……なんでダメなんだ」
「あかんに決まってるやろ! 本気で怒るぞ、おさわり禁止や!」
強めに言うと、胸を両手でがっちりとガードした。
景虎によって立派な性感帯として開発されつつある乳首は、気のせいか近頃、ほんの少し大きくなってきている気がする。これから本格的な夏を薄着で過ごすのが不安になるから、本当にやめてほしかった。
「このまま、ここで抱いてもいいと思ってるのに……」
本心から嫌がっている庄助の口ぶりに、景虎はしょんぼりしながら、身体を名残惜しそうに離した。
「ええわけないやろが! 公然わいせつ罪で捕まりたないわ」
「……まあいい。続きは帰ってからだな」
「せえへんっちゅーねん!」
顔がまだ熱い。こんなことを言いながら、二人きりになったら許してしまいそうで、庄助は自分がいやになった。
チューは年に一回だとか、その先は今日は駄目だとか、肉体関係を持ち始めて最初の頃こそ、庄助はルールを決めようと頑張ってはいた。が、結局は面倒くさくて、なあなあになってしまった。
過剰にルールを決めるとしんどくなるのはズボラな自分やし、まあええか。イヤやったらイヤって言うし。
それは、景虎に求められることをどこか心地良いと思ってしまっている、庄助の姑息な言い訳だった。
じわじわと酔いが醒めてくると、静かに座っているのが暑くなってきた。庄助は、汗ばむ身体に鞭を打つように、背広をはおり直した。
「……あのよ、俺はな。何も考えなしに、ヤクザになりたいって言うてるわけやないねんで。それだけはわかっといてや」
「考えがあるのか?」
「うん。俺がヤクザの頂点になったら、オレオレ詐欺とかそういうダサくて卑怯なシノギを禁止にしたい! ヤクザを、昔ながらのかっこええ義理人情の集団に戻すねん。ええと思わん?」
あまりにも無邪気に未来への展望を語る庄助を見て、景虎はぺちんと頭を張ってやりたくなったが、ぐっと我慢した。
「なるほど。立派な志だ。さすが庄助は極道を愛する男なだけあるな」
「せやろ? せやからカゲも……」
「だったら庄助が警察になって悪人を捕まえるか、政治家になってルール自体を変えたほうがいいだろうな」
「うぐ……!?」
カゲのくせに正論言うな。そう言い返したかったが、言葉がすぐには見当たらず、庄助は押し黙ってしまった。
「……俺は、この仕事も悪いことばかりじゃないって初めて思った。お前に会えたから」
景虎のその言葉に、庄助は想像する。
彼の隣に立つ、立派なヤクザになった自分を。
肉体的にも精神的にもタフになって、あの国枝や矢野でさえも、庄助に一目を置いている。
なにより、強くて美しい獣みたいな景虎が、信頼して背中を預けてくれるような。そんな理想の自分になりたいと、庄助は思う。
けれど、同時に矢野に言われたことが引っかかっている。
本当に自分は、単純な憧れだけでヤクザになりたいのだろうか。
「俺は、お前が思ってるほどええ奴ちゃうぞ……多分」
庄助はそう言うと立ち上がった。
風が吹いて、雲が散った。雨が降りそうだ。
強い風に乗った雨雲が、急くようにまた月に薄い膜をかけた。
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