ぬきさしならへんっ!

夢野咲コ

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番外編

シラフじゃできへんっ♡②*

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 広いベッド、ジャグジーつきの風呂、大きなテレビ、枕元のパネル装置。一般的な、誰もが想像するようなラブホテルの一室に、景虎は庄助を本当に連れ込んだ。性的な関係になってしばらく経つが、実は二人でラブホテルに来たのは初めてだった。

 兎にも角にもタバコと酒の匂いの染み付いた庄助の身体を手早く作業的にシャワーできれいにすると、タオルにくるんで大きなベッドに放り投げた。
「乱暴にすんなっ」
 庄助はベッドでバウンドしながら不貞腐れた声を出したが、新しいシーツに顔を擦り付けると気持ちよさそうに目を閉じた。ラブホテルの室内は、外と違って暖房が効いていて、乾燥している。何か適当に飲んでろと告げると、景虎は自分もシャワーを浴びることにした。
 コックをひねると熱い湯を頭から浴びた。庄助はあの感じだと、自分がシャワーから出るまでに眠ってしまいそうだと思った。
 けれどまあ、終電は諦めたし、明日は休みだし、寝て起きてからでもセックスはできる。朝起きてから、じっくりと時間をかけて抱くのも悪くない。景虎は、次の日のことを思ってかすかに口元をほころばせ、冷えた刺青の背中にシャワーを当てた。

 タオルを腰に巻き付けて庄助の元に戻ると、庄助は意外にも布団に肩までくるまってテレビを観ていた。今日一日のニュースをぼんやりと観ながら、サイドテーブルの上に置いたレモンチューハイの缶に、ちぴちぴと口をつけている。
「起きてたのか」
 景虎は冷蔵庫から缶ビールを出すと、プルタブを開けた。プシッと空気の抜けるいい音がすると、庄助はいたずらっぽく笑って、チューハイの缶を持ち上げた。
「かんぱ~い」
「どれだけ飲む気だ」
「へへ、寝ようと思ったんやけどさ。ラブホ楽しーってなってもーて」
 と、素っ裸のままベッドのスプリングを揺らしてはしゃぐ。まだ乾いていない金髪が、白いうなじにくっついている。
 庄助の髪を見ていると、景虎は子供の頃夜中にテレビでやっていた、タイトルも知らない外国の映画のことを思い出す。その中に出てきた夕日の小麦畑の色にそっくりだ。

「お前と来るのは初めてだな」
「……おう」
 庄助は景虎の言葉に、何かひっかかりを覚えた顔をして口を尖らせた。が、ぐいっとチューハイを飲み干してしまうと、隣に座った景虎の肩にぴたりと自らくっついた。
「なあ……しよ」
「……あ!?」
「なんやその顔。俺から誘ったらおかしいんかよ」
「いや……びっくりしただけだ」
 酔っ払っているとはいえ、能動的にセックスしようと言われたのはおそらく初めてだ。顔を覗きこんでくる庄助の姿に、思わずゆるむ口元を手で覆った。
「こんな時、どんな顔をすればいいかわからない」
「なっはっは! リアルにアヤナミの台詞言う人初めて見た!」
 庄助は景虎の入れ墨の背中をバシバシと叩いて、ひとしきり笑った。
「笑いすぎて腹痛い。せっかく俺が真面目に誘ったのに、笑かしやがって」
「笑わせた覚えがないし、俺はずっと真面目だが」

 景虎は庄助の肩を掴むと、ベッドに押し倒した。
「おわ……っ、ちょ。カゲ……」
「するんだろ?」
 組み敷かれ、首の匂いを嗅がれ筋を舌で舐められてひるんだものの、負けていられるかとばかりに景虎の頬にキスをして報いた。
「俺だって、お前にやられてばっかじゃないんやぞ」
「いいな、積極的な庄助。レアだ」
「せやろ、こんな酔っ払うことなかなかないから、アルティメットレアやで~」
 へらへらと向こうを向いた顎を捕まえてキスをした。色んな酒をちゃんぽんしていた庄助の吐息からはまだ、こちらも酔ってしまいそうなほどの濃いアルコールの香りが漂う。
 上顎を舌でなぞられ、庄助はうっとりと目を閉じると、景虎の口づけに応えるように舌を絡めた。
「んぁ……ふ、かげ、んっん……」
 二人が動くと、シーツがよれて衣擦れの音を立てた。洗いたてのノリの効いた白いシーツは、家のくたくたのそれと違って気持ちが良かった。

「な、俺とセックスすんの好き?」
 舌を絡ませながら、挑発的な眼差しで問うてくる。
「好きだ」
「ふ~ん……そか。じゃあ今日はとことん付き合うたる」
「おお……? 絶対途中で泣くだろ」
「泣くか、逆に絞りとったるわボケ」
「言ったな。じゃあ楽しませてもらう」
 皮膚の薄い脇腹を指先で撫でると、庄助は身体をくねらせた。酒と眠気でぽかぽかと、子供のような体温になっているのが愛おしかった。
「あー、あっつい……めっちゃあつい。ほっぺ燃えそうや」
 身体にこもった熱が、庄助の頬を上気させる。血色が良くなって色づいた唇を吐息ごともう一度奪う。

 景虎の裸の胸の刺青を、庄助の指がなぞる。肌の感触を確かめるようにひっそりと這う。景虎も庄助の、相も変わらず彫り物のないまっさらな胸に触れる。
「ん……」
 乳首には触れないで、その周りを円を描くように愛撫する。柔らかかった乳頭がじわじわと血を集めて、身を守るように硬くなってゆく。
「ふ、んぅ……な、あっ……触り方、やらしいってぇ……く、ぅっ」
「声、聞かせてくれ。家でする時みたいに隣のこと気にして我慢しなくてもいいんだ」
 いつも我慢しきれなくてでかい声で喘ぐから、近所に丸聞こえだもんな、と付け足すと、庄助は景虎を睨みつけた。
「黙れ、エロジジイ……っ」
 焦らすように胸を揉むと、こりこりとした感触が景虎の手のひらに触れる。庄助の噛み締めた歯の隙間から吐息が漏れた。乳首の周辺の皮膚を食むと、息を呑んで喉を反らした。

「はう……んっ」
 唾液を絡めて塗りつけると、甘い声が漏れる。セックスをする関係になって最初の頃は、こんなに乳首で感じるようになると思わなかった。自分が時間をかけて教え込んだ快楽を、当然のように享受する庄助の姿に、景虎の支配欲は満たされる。
「まだ始めたばかりなのに、もう気持ちいいのか? チンポ勃ってるぞ」
「あ……っあ」
 庄助のペニスは、屹立している。先端から垂れた先走りの汁が、存在を主張する幹を伝って会陰の方まで流れている。
 触れてほしそうなその場所を横目に、景虎は乳首へのねちっこい愛撫を続けた。口に含み上の前歯で固定して舌先でつつくと、庄助は声を上げた。
「ひ、わ……っ! あかん、それ……っ」
 下の歯で側面をかりかりと擦ると、感じすぎてどうしようもないといったふうに、胸の横で脇を締めて両手を握りしめ、本当の女みたいに堪えている。
「乳首だけでイけそうだな」
「む、り……っ」
「ほんとか?」
「ああ゙あ~~っ!」
 指の腹で両方同時にこね回す。庄助は仰け反って大げさに鳴いた。ピンと立ち上がる乳頭の赤い色がいやらしい。指で挟んで擦るともう限界とばかりに、猫のように景虎の胸に頭を擦りつけてきた。
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