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魔女狩りの日

星空を見上げて2

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「こうやってのんびり過ごすのも素敵だね。これからもこんな生活したいなぁ。命を懸けた戦いはもういいよ」
「そんなこと言ってられねぇぞ?金を稼がないと食っていけない……借金もあるしな」
「ああ、マギーが雇った傭兵の代金か」
「ケチくさい野郎だ。普通は『君が無事で良かったよフェスター!これからもいい関係でいようじゃないか!』のひと言で終わりなのによ。あいつ端数すらまけなかったからな」
「しょうがないよ。感謝しなくちゃ。マギーのおかげでフェスターは生きてるんだよ?」
「それはわかってるよ。しかし……金が足りねぇ。すぐにでも仕事をしたいが、まずはローズのところに行かないとな」
「ローズさん?どうしてです?」
「戦いの後リプリーに寄るよう言われたんだ」
「寄るのか?お前にしては素直だな」
「行かないとマギーの地下街を壊滅させるとよ」
「それは怖いな。しかしなんでマギーの街を壊すんだろう?意味が分からない」
「まぁあの町が消えてくれたら俺の借金も消えるから悪いことばかりじゃないな」 
「でもお仕事がなくなるから長期的な得にはなりませんよね?」
「……お前はいつも真面目で助かる。心がシャキッとするよ」
「仕方ないよ、1つずつ片付けていこう?まずフェスターはローズとヤッてご機嫌を取る。その後マギーのところに行ってお仕事受けてお金を返すんだ」
「俺のちんぽを何だと思ってやがる」
「私の城の宝があったろう?あれをマギーに売ればいい。完済は出来なくともけっこうな足しになるだろう」
「ああ……あれはもう先約がいるんだよ」
「なに!?聞いてないぞ!一体何に使ったんだ!?酒とタバコか!?」

思わずコトネはフェスターの耳元で吠えた。
フェスターは耳を塞ぐ。

「うるせぇよ。鼓膜が破れるだろうが」
「すぐに治るだろお前は!何に使った!?」

フェスターは言い渋っていたが、観念して白状する。

「アンナへの頼み事に使った。俺たちがエレノアを殺したときに支払う手筈になってる」
「頼み事?」
「お前らを……殺さないでくれって頼んだ。あいつは引き受けたよ、依頼じゃないから後払いもOKしてくれた。お前らを殺さないだけで大金が手に入るんだ、やつとしても引き受けない道理はなかったんだろう」
「フェスター……」
「それと……ついでに言っておくけどよ。ありがとな。お前らのおかげで助かった。エレノアを殺せて……本当の意味で自由になれたよ。感謝してる」

フェスターの素直な礼に、テンたちはニヤついた。
自分達を想う気持ちと、そして彼の本心を聞けて嬉しかったのだ。

「……私たち、ずっとフェスターといるよ。カーラさんともう1度会えるといいね」
「……ああ、絶対に叶えるよ」

フェスターは優しい声色でそう言った。
そしてテンの顔を彼は見つめた。

「あの時のお前の力……なんなんだろうな?」
「私も分からない。たぶん禁薬の効果だと思う」
「ありゃ魔法じゃねぇ。たぶんの呪いの類だ……お前何飲んだんだ?」
「だから分からないって」
「ふん……だがランファンは呪いと神秘が同居している国だ。お前が飲んだ薬もそうだが、他にも人智を越えた力が山ほどあるはず……」
「じゃあ行ってみようよ、ランファンに。死者蘇生の術があるかもしれない」
「……いいのか?お前あそこから逃げてきたんだろ?それに……友達も亡くしたって言ってたじゃねぇか」
「へぇ、そんな気遣いできるんだぁ」
「うるせぇよ」
「気にしないよ。私たちはフェスターのおかげで生き延びられたし、こうやって楽しく過ごせてる……協力させてよ」

フェスターはテンの言葉を聞き、照れ隠しにタバコに火をつけた。
白い煙は暗い空に消えていく……

「しょうがねぇ。体も売れないような可愛くない女たちをほっぽり出すのも寝覚めが悪いからな。館に置いといてやるよ」
「素直なフェスターのほうが可愛いよ」
「うるせぇよ。とにかく金だ。世知辛いが貧乏人に選択肢はないってことだな。借金返して、それから本格的に死者蘇生の情報を集める。明日から忙しくなるぞ」
「ならないでしょ。まずフェスターはローズとヤらなきゃいけないんだから」
「クソ……気が重くなるな」

そう言いつつもフェスターは微笑みを浮かべている。
今まで手に入らなかった仲間と、これからも日々を過ごせる事実が彼の心を温めているのだ。

「まぁ……綺麗な星だよな」

フェスターは夜空を見上げ、そう呟いた。
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