屍人の王とキョンシー娘の葬送行進曲

魔女狩りの日

仲間のために

地面にゆっくり慎重に家屋がおろされた。
屋根にいるテンは空を見上げて、フェスターの名前を叫んだ。
だがもちろん、彼からの返事はない。

「どうしよう……フェスターが1人で魔女と戦ってる……」

嘆くテンの視界に人影が映った。
遥か遠くの高い空から落ちてくる男女……
フェスターとエレノアだ。

「何やってるの……まさか！」

テンは気づいてしまった。
フェスターがエレノアを道連れに死のうとしている事実を。
しかしテンにはどうすることもできない。
みな戦いに夢中で、フェスターの身投げに気づいているのは彼女だけだ。
テンは魔法など使えないし、空を飛ぶこともできない。

「嫌だ……せっかく今まで頑張ってきたのにこんな……死なせたくないよ！」

テンは瞳から涙を流す。
どんなに頭を捻っても、彼を助ける術が思いつかないのだ。

「地上で受け止める？ダメだ……私の力じゃ潰されちゃう……」

テンは考えを巡らせる。
そしてふと、彼女は自分を守ってくれる黒い手を見やった。

「ね、ねぇ！あなたたち力を貸して！フェスターを助けたいんだ！！」

テンは黒い手に懇願した。
彼らがなんなのか全くわからないし、意思があるのかさえわからない。
だがこの切迫詰まった土壇場、テンは奇跡のような力に縋ったのだ。
黒い手たちはゆらゆらと動いている。
なんの反応も示さない。
やはりダメかとテンが絶望した瞬間、黒い手たちはテンの体の中に戻っていった。
予想外の動きにテンは唖然とする。
見限られたのかとも思った。
しかしそれは間違いだった。
急激にテンの体が熱くなる。
彼女自身が倒れそうなほどの発熱だ。
そして……聞こえないはずの心臓の音が聞こえた。
テンは自身の左胸を見下ろす。
ドクンドクンと鼓動が刻まれる。
その音は徐々に速くなり、そして音も大きくなった。

「うっ…なにこれ？」

テンの左胸が盛り上がる。
そして肌を裂き、服を裂いて血色の良い赤い心臓が外に飛び出した。
肥大化した心臓はバクバクと音を鳴らし、テンに力と勇気を与える。

「これも……禁薬の効果なの？」

テンは考えたが、すぐにやめた。
どのような力なのかなんてどうでもいいからだ。
テンの体は依然燃えるように熱いが、体は信じられないほど軽くなっている。

「今なら……いける！」

体中にみなぎる力に身を任せ、テンは大きく跳び上がった。
通常時の何十倍もの高さまでジャンプする。

「フェスター！！」

テンは落下する2人に近づき、彼の名を呼ぶ。
フェスターは目を丸くし、エレノアはテンを睨みつけた。
テンはフェスターの体を掴み、エレノアを顔を殴る。
エレノアは咄嗟にシールドを張ったが簡単に割られて、彼女のパンチを頬に受けた。
あまりの威力にエレノアは弾かれる。

「なんで……私たちの邪魔するの？」

エレノアは独りごち、静かな怒りを胸に灯した。