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魔女狩りの日

フェスターとカーラ2

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「あれ?今使ってた?」

女はニコリとフェスターたちに笑いかける。

「あん?誰だ?」
「今話してた歌姫だよ」

コークに説明されて、彼は「ああ」と呟いた。
安物の服を着ているが、貧乏臭さを感じさせない雰囲気がある。
コークの言うとおり美人で、スタイルもいい。
これは人気が出るのも納得だなと、フェスターは思った。

「初めましてだね、私はカーラだよ」
「お、おう!俺はコークだ!……ほら、お前も挨拶しろ」
「……フェスターだ」

ぶっきらぼうに挨拶したフェスターは彼女から目を逸らす。

「悪いなカーラちゃん!こいつ女性慣れしてなくてよ」
「ふふ、かわいいね」
「バカにしてんのかこの野郎」

フェスターはカーラに凄む。
当の彼女は動揺もせず、にこやかな態度を崩さない。

「ここ使ってもいいかな?」
「え?何するの?」
「歌の練習。1日も欠かしたくないの」
「え?今日入団したばかりだろ?休んだ方がいいよ」
「いいの、歌うたわないと落ち着かなくて」
「そうかい?じゃあ聞かせてくれよ」
「いいよ!」

カーラが声を出そうとした瞬間、練習場に1人の男が顔を出した。

「おいコーク!次の公演の話し合いするからよ、団長のところに来い」
「え?今?タイミング悪いな、ごめんカーラちゃん!また今度聞かせてくれ」
「うん、気にしないで」

コークは急いで男のほうへ向かった。
ここに特に用も無くなったフェスターも立ち去ろうとする。

「ねぇちょっと待って」
「なんだ?」
「歌、聞いてってよ」
「なんでだよ。俺がいると邪魔だろ?」
「そんなことない。観客がいてくれたほうが気合いが入るし」
「ふん、おひねりも出せねぇぞ俺は。金がないからな」
「お金の問題じゃない。聞いてほしいの」
「俺は忙しいんだよ」
「君も話し合いに行くの?」
「いや……俺は雑用だからな」
「その年で?」
「うるせぇ」
「ふふ……」

カーラの笑い声を聞き、フェスターはムッとする。

「なんだ?またバカにしてんのか?」
「ううん、バカになんてしてない。私も歌以外取り柄ないし」
「あんたは食える技術を持ってんだろ?俺とは違う」
「君も何か向いていることはあるよ。ただサーカスでできることがないだけ……別のことをやってみたら?」
「別のことってなんだよ。俺はここで拾われて、ここでの暮らししか知らない」
「まだ若いし、色んなことできるでしょ」
「若くても金がねぇよ。あんたが貸してくれるってんなら話は変わるがな」
「私もお金持ってないし」
「なら稼げばいい。あんたの見てくれなら金出す男はいくらでもいるだろ」
「女の子にそんなこと言う?デリカシーないね」

女はケラケラと笑った。
その笑顔があまりにも純粋すぎて、フェスターは見惚れてしまう。

「……アドバイスしとくぞ。ここの連中は猿の魂が乗り移ってるやつらばかりだ。必ず犯される。そのときに金を貰え、ちゃんと交渉するんだぞ」
「それは嫌だなぁ、初めてが商売なんて」
「なんだ?経験ないのかその年で」
「私けっこう稼ぎ頭だったからね。機嫌損ねて逃げられたら損だから無理やりされたりしなかったよ」
「へぇ、女にとっちゃ羨ましい存在だな。だがここじゃそんな理屈は通らない。時間の問題だよ」
「私初めては好きな人がいいな」
「贅沢言うんじゃねぇよ。このご時世、望んだ初セックスができると思うな」
「……じゃあ君としたいな」
「はぁ?」

フェスターは呆れ返った。
カーラは微笑みながらも、ふざけた雰囲気は持っていない。
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