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魔女狩りの日

ローズの恋1

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館の壁を貫通して、騒がしい声が聞こえてくる。
あんなに静かだったフェスターの館が、今では大所帯になっているからだ。
館にはローズの手下たちが大量に乗り込んでいる。
みなフェスター救出のために協力してくれている人たちなので文句は言えない。
ローズはテリトリーの警備担当と森から離れられない者、戦闘が得意ではない者を除いて、全員館に連れてきていた。
埋まることがないと思っていた多くの部屋も全て埋まっている。
テンたちの部屋も彼らに貸し出しているので、彼女たちはフェスターの部屋を使っている。
館はマギーがいる地下街へ進んでいた。

「助けられるかな?」

騒がしい館の中で、ミユはポツリと不安を漏らした。
コトネは励ますように明るい声で言う。

「あいつは大丈夫だよ、簡単にくたばるタマでもないからな。案外もう脱出してるかもしれないぞ」
「ああ、彼は強かで賢い。きっと大丈夫だ」
「大丈夫じゃなくても私たちがいる。マギーもローズも力を貸してくれる。魔女なんて大したことないよ、私がさっさと倒してあげる!」
「お、でかい口叩くじゃないかテン」

コトネはクスッと笑い、ほかの少女たちも表情を柔らかくする。

「今は休もう。備えないと」
「うん」
「ここがフェスターの部屋か!?」
「わっ!」

ずかずかと部屋に入ってきたのはローズだ。
彼女はキョロキョロと部屋の中を見回して、大きく匂いを嗅ぐ。

「フェスターの匂いがするな……」
「ろ、ローズさん?なにか御用でしょうか?」
「なんじゃ?わしはあいつの婚約者じゃぞ?」
「なんだと?あんたフェスターの嫁さんなのか?」
「ああ、あいつは恥ずかしがって認めんがな」
「……フェスターは君と結婚すると言ったのか?」
「何を聞いておるのじゃ。恥ずかしがって認めんと言っているだろう!」
「……フェスターは結婚しようなんて言ってないんだよね?」
「まったく腹の立つ小娘たちじゃ。何もフェスターのことを分かっておらん!あいつはああ見えてウブなんじゃぞ!」
「そ、そうなんだ」
「あいつがわし以外を愛することなどない!まったくかわいいやつじゃ」

ローズば「ふふん!」と得意そうに笑ってフェスターのベッドに寝転がった。

「フェスターの匂いじゃ……」
「ローズはいつフェスターと出会ったの?」
「ふむ……あれは何十年前だったか……あいつは雑魚のアンデッドを引き連れてわしの森にやってきたのじゃ。無論、わしを殺しにな」
「どうしてだ?恨みで買ったのか?」
「いや初対面じゃった。なぜ攻め入ってきたのかは今でもわからん。まぁ昔も今もわしにとってはどうでもいいこと……大切なのはわしとやつが出会ったことじゃ」

ローズはフェスターと初めて対面したときの記憶を思いだす。
彼女の顔はどことなくうっとりしていた。
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