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吸血鬼姉妹

満月に照らされて16

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「殺す必要はなかったはずだ……」
「私にはあった。あなたには絶対わからないと思うけど……私にはあった」
「どうして……ただ戻ってきてくれればよかったのに。また一緒になれるだけでよかったのに」
「本当に許せなかったの。両親を恨んでた……私自身も恨んでた……あなたのことも恨んでた。だけどずっと愛してたわ。どうして私の洗脳が解けたの?」

オスカーは唇を噛み、血を垂らした。
赤い血はオスカーの頬に落ちる。

「……鐘の音がなるたびに思い出したんだ。お前と町を眺めたあの日々のことを……自分が何者で何をしていたかを……だから……」
「そう……何度も撤去しようとしたわ。でも無理だった……あの鐘だけは捨てられなかったの。だけどこんなことになるのなら、さっさと燃えないゴミの日に出しておくべきだったわね」

クスクスと笑ったクロエは、ため息を吐いて自分の首の傷を撫でた。

「さぁ終わりよ。やりなさい」
「……また……2人で……」

泣きそうな震え声で、オスカーは言った。
クロエは首をゆっくりと横に振る。

「あなたの下で働けって?嫌よ」
「私の下じゃなくてもいい……」
「分かってるでしょ、もう終わりなの……あなたは正気に戻って、そして私を倒した……あなたが羨ましかったわ、オスカー」
「……愛してる、お姉様……やりなおしたいよ」

少女のような可愛らしい笑みを浮かべたクロエは、血のついた手で妹の髪を撫でた。
オスカーはついに涙を流してしまう。

「このまま出血で死ぬなんて嫌だよ、寂しいじゃない?オスカー、あなたに殺されたい」

オスカーはコクリと頷いた。
そして瀕死の姉の首筋に、鋭い歯を突き刺す。
血の繋がった姉の血を、オスカーは啜った。
生命が枯れるまで血を抜かれたクロエは、呆気なく死亡する。
だがその表情は依然笑顔だ。

「お姉様……」

血を吸い終え、項垂れるオスカーにフェスターは燃える手のひらを見せた。
彼女はフェスターを見ることもしないで、ポツリと呟く。

「殺してくれ……お姉様と一緒に死にたい」

フェスターは宿した炎を青く変化させた。
その手をテンが掴み、下ろす。

「やめてよフェスター」
「吸血鬼ってのは厄介なもんだ。他人の血がないと生きられないんだからな。殺しておいたほうがお前の人助けって考えにも合うんじゃないのか?」
「そうかもしれないけど……この人はたぶん、ずっと閉じ込められてた。実のお姉さんにだよ?そんなの酷すぎるよ……助けてあげよう」
「この女が助けてくれなんて言ったか?殺してくれって言ってる。聞いてやるのが人助けだ、それに何をもってこの女を助けるんだ?どうすれば助けたことになるのか、その正解をお前知ってんのか?」
「わかんないよ。でもここでこの人を殺しても……正しくないことはわかる」 
「何が正しくないだ。神様でもねぇくせに偉そうなこと言うな」
「うるさい」

テンは地面に片膝をついて、オスカーの肩に手を乗せる。
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