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吸血鬼姉妹

復讐

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「お父様!お母様!どこだ!?」

城に攻め入ってきた男たちを屠りながら、オスカーは叫んだ。
城の中は酷い有様で、使用人たちが斬り殺されている。
吸血鬼のオスカーが追い込まれるほど、攻め手は実力も高く、数も多い。
彼女は一心不乱に、敵を殺して回る。
必死で戦っていたが、ふと見覚えのある人物が視界に入った。
それはクロエだった、彼女はこの戦場で突っ立っている。
オスカーは急いで彼女に駆け寄った。

「お姉様!何してるんだ!?」
「実家に帰ってきたのよ」
「帰ってきたって……何を言ってる!?この状況がわからないのか!?」
「数年ぶりに私が帰ってきたというのに、ずいぶん賑やかな歓迎ね」
「……お姉様?」

家出して、久しぶりに帰ってきたクロエの態度がおかしくて、オスカーは戸惑った。
悲鳴が響き渡る城内で、どうして姉がこれほど冷静なのかオスカーはわからなかった。

「あなたは変わらないわねオスカー。当主として頑張ってるみたいじゃない。あなたの情報は仕入れていたわ」
「何を言ってるんだ……?」
「あなたは大事な妹だから……お父様とお母様はもう死んだかしら?」

邪悪な笑みを浮かべるクロエを見て、オスカーは理解した。
彼女がこの戦場を生み出したのだ。
だが理解してもなお、オスカーは姉に手を出すことができなかった。

「お……姉様?」

オスカーは痛みが走った左胸を見下ろした。
その胸には濃い血のような色の十字架が突き刺さっている。

「それ、無理に抜いたら死ぬからね」  

刺した十字架から手を離したクロエはにっこりと笑った。
オスカーはワンテンポ遅れて、体を霧化しようとする。

「……え?」

体は霧化しなかった。
クロエは嬉しそうにクスクス笑う。

「私は勉強好きなの。吸血鬼の霧化についても調べた……苦労したわ、文献が少ないから」
「私に何をした……?」
「その十字架ね、人間の血液を凝縮して作られているの。それだけじゃなく少し手を加えていてね。その血は決して吸血鬼の肌に馴染まない。吸収もされず、ずっと肉体に留まり続けるの。血液の性質は持っているけど、それを取り込むことができないから霧化はできない。それが刺さっている限りね」
「……どうして……こんなことを」
「最後の日に言ったはずよね。めちゃくちゃにするって……私を認めないやつらなんていらない。私を捨てたように、今度は私があなたたちを捨ててあげる」
「……家族に愛情はないのか?」
「あるわ。あったからこそ失望してる……」
「ボス、あんたの親父とお袋いたぜ」
「そう、連れてきて」

クロエは雇った男に指示を出す。
男たちは使用人たちをあらかた片付け、クロエの両親を連れてきた。

「く、クロエ!お前何をしたか分かっているのか!?」

父親が叫ぶ。
クロエは氷のような冷たい目で、床に倒された父親を見下ろした。

「お久しぶりね、お父様」
「貴様血迷ったか!何も言わずに家を出たと思ったらこんな愚挙を……貴様はアシュフォード家の恥晒しだ!」
「……お父様、私は愛してた……先に裏切ったのはお父様たちだわ」
「貴様など産むんじゃなかった!」

クロエは瞼をピクピクと動かし、父親の首筋に噛みついた。
そして干からびるまで血液を飲み続けた。
体から血が無くなった父親は、もう動かなくなる。
口のまわりを真っ赤に染めたクロエは、怯えきっている母親を睨みつけた。

「く、クロエ……私は母親よ?ね?あなたを育てた人よ?」
「……どうしてこう……私がムカつくことばっかり言うのかしら?台本でもあるの?」
「え?……え?」

クロエは母親の血液を飲んだ。
だが腹が膨れていて全ては吸えなかった。
まだ息がある母親の頭を踏み潰したクロエは、笑顔のままオスカーに近づく。

「ああオスカー……鎖は千切ったわ。私を縛ってた鎖を断ち切った……もう自由なのよ。素晴らしいでしょ?」
「……お前は腐った裏切り者だ」
「今はね。でもすぐにそうじゃなくなる……私が愛しているか聞いたわよね?答えを教えてあげる……私はあなたを愛してる。大好きよオスカー」

そう言ったクロエは、オスカーの頬をそっと撫でた。
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