上 下
84 / 196
吸血鬼姉妹

いざ城へ4

しおりを挟む
「なんだったのあれ……?」
「分からない。この城は普通じゃないな……調べてみたいところだが、ネックレスが先だ。バレる前に見つけて逃げよう」

テンとコトネは気を取り直して、再度お宝探しを始めた。
城内の奥のほうに、馬鹿みたいにデカい扉があった。
鍵がかかっていたのでテンは開錠し、なるべく音を立てないように扉を開ける。

「あ、やっぱりここだ」

テンとコトネが見たのは、様々な宝箱やガラスのケースに入ったキラキラ光る宝石や宝剣だ。
ほかにも高価なアクセサリーや絵画もある。

「すごいなぁ!何個か持って帰ってもバレないよね」
「ダメだ。人の物を盗るのは違法だし、精神が貧しくなるぞ」
「懐が貧しくなるよりはマシだよ」
「いいから目的のものだけ取って逃げるぞ」
「それも泥棒だと思うけど」
「い、依頼だからいいんだ」
「関係なくない?」

テンは少々未練が残ったが、コトネの言う通りにすることにした。
多種多様の宝物の中から、事前に写真で確認したネックレスを探す。

「あったよ!」

ネックレスは小さな化粧箱に入っていた。
ネックレスをポケットに入れたテンは、コトネと共に部屋を出る。

「あとは脱出するだけだ」
「どこへ行かれるのです?」

後ろから声をかけられたテンとコトネはわかりやすくギクっと体を震わす。
振り返った先にいたのは、5人の獣型の亜人だ。

「ど、どうも。道に迷ってしまって……すぐに帰りますんで」
「とぼけないでください。あなたがたがこの城で盗みを働いたのは承知しています」

亜人たちの目は鋭い。
気がつけばテンたちの背中側にも5人立っている。
完全に挟まれてしまった。
テンとコトネはヒソヒソと話し、この状況を打開する方法を考える。

「に、逃げよう」
「挟みうちにされてるんだぞ」
「もうこういうときは逃げるしかないって。モタモタしてたら増援が来るよ」
「だが……立場が立場なだけに暴力を振るうのはな……」
「お止めなさい」

コツコツとヒールの音を鳴らして、1人の女が近づいてきた。
余裕を含んだ微笑を浮かべたクロエだ。

「私の城に盗みに入るなんて、度胸がある人たちね」
「ど、どうも」

コトネはクロエから目を離さずに、テンに耳打ちする。

「あいつが領主じゃないか?」
「吸血鬼……」
「その通りよ。私がこの町の領主の吸血鬼、クロエよ」
「わぁ聞こえてた」
「あなたたちの名前は?」

テンたちは自分の名前を言うのを躊躇ったが、観念して正直に言った。

「テンだよ」
「僕はコトネだ」
「よろしくね。それで?何を盗んだの?」
「えっと……」
「何もしないわ、別に怒ってないし。正直に言って」

テンとコトネは顔を見合わせた後、しぶしぶ盗んだネックレスを出した。
クロエはネックレスを受け取り、使用人に渡す。

「もうちょっと警備を厳重にしないとね。あなたたちマギーさんの命令で来たの?」
「え?」

いきなりマギーのことを聞かれて、2人は目を丸くした。
面白いように顔に出るテンとコトネを見て、クロエはクスクスと笑う。

「分かりやすいのね」
「いやぁ……誰その人?」
「仕返ししたりしないわ。でもあの人も酷いわね、こんな若くて可愛い子に泥棒させるなんて」
「え?やっぱり私って可愛いんだ!」
「テン、空気読んで」
「まぁこれも何かの縁ね。苦情はマギーさんに言うとして、あなたたちは悪くないわ。今夜一緒にお食事でもどうかしら?」
「え?いや……私たち泥棒だけど」 
「気にしないわ。泥棒さんがディナーを断ったりしないわよね?」

クロエは意地悪く言った。
テンとコトネの選択肢は潰されている。
盗みに入り、それがバレて、「家に帰らせてください」なんて言えないからだ。

「じゃあ……遠慮なく」
「では早速用意させるわ。こちらへどうぞ」

2人は使用人たちに囲まれながら、ダイニングルームへと向かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...