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善人だけの世界

敬虔はさらに先へ2

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「船を燃やされ、仲間たちは無惨にも殺されました。苦楽を共にし、夢を語り合った同志はなんの理由もなく命を奪われたのです。生き残った私は男たちに乱暴され、辱められ、そしてある大名に拾われました。飼われた私はその大名の慰み者になり、夜はいつもあの人と過ごしました……」
「……何が言いたいの?」
「同情を求めているわけではありませんよ。大名の男は私を異国の娘と気に入り、戦場に連れて行くようになりました。あれは……人生において最悪の体験でしたよ。あれほどまでに野蛮な光景は見たことがありませんでした。何千という侍たちが刀と弓を取り、そして何千という敵たちと戦う……血が流れ、腕が飛び、頭が落とされる……それの繰り返しです。長い時間の間、彼らはただ戦っていました。大将からの命令だけで、彼らは自分の命を投げ出したのです。雄たけびをあげ、笑みを浮かべながら他人の命を貪ったのです……私はそれを見て何度も嘔吐を繰り返しました。今まで信じていた思想が全て崩れ去ったのですから……そして私を支配していた男も血が滾ったのか、戦場に出て槍を振り回し次々と命を屠っていきました。その姿は力強く、一種の美しさがあったのです。命になど価値を見出せないように、どんどん前に進み、殺していったのです。」

デロリスは自分の胸に手を当てて、目元を緩ませてため息を吐いた。

「男は……死にました。敵の大将の刃によって呆気なく……そしてその大将は笑いながら虐殺を始めたのです。殺しに愉悦を感じていたのでしょうか?まったく私には理解できませんよ……ですが、ふふ……」

ミユは訝しんだ、彼女の笑みの理由が分からなかったからだ。

「私は夢中になりました。私に枷をつけていた男を路傍の石の如く扱って、それでもなお止まらない殺戮の姿に……私の目が覚めた瞬間ですよ。私はあのときまで、人は理想と導きによって正しき道に進むと信じていました。しかしそれは間違いだったのです。理想と力は同一、その2つが揃ってこそ人を変え、世界を変えられるのだと……その真理に気づくことができました。脆弱な肉体と精神では何も変えられません。言葉だけが先行し、神の意思も伝えられない」
「……教えを広めるために力が必要だって言いたいの?」
「はい。それが真実です……話を聞いてもらうためには、相手より強い力を持つことが大前提です」
「武力であなたが謳う平和は訪れない」
「いえ、訪れます。中途半端な武力では争いに発展するでしょう。しかし私はヤマトの戦場で見たのです。あの男の……たった1人で戦を制した勇姿を。私は全てを統べる力を持ちたいのです、悪人たちが指を動かすことすらできぬほどの力を……」
「あなたは間違っている」
「まだ過程ですから、反感を覚えてしまうのも仕方ありません。私は完成させます」
「完成?」
「超人薬ですよ」

デロリスは部屋の小箱から錠剤を1つ取り出す。
それを彼女はミユに見せびらかした。

「この薬と飲むと恐れがなくなります。恐れがないということは献身的になるということ、しがらみから解放されるのですからね」
「……洗脳だよね?その薬を作るために何人を犠牲にしたの?」
「犠牲ではなく献身ですよ。ウルクス神の教えに忠実な人たちは、進んで身を捧げてくれます。私たちは人体実験をしているわけではありません」
「ふざけないで。あの地下にいた人たちはおかしくなってた。あなたが壊したんだ」
「まだ分かり合えませんか……」

心底残念そうなデロリスはミユの左胸を指で触った。
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