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善人だけの世界

おでんを食べよう2

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「おい、無くなったぞ。よこせ」
「へいへい。よく飲みますねぇ旦那。もう7本目ですよ」
「俺は量飲まないと酔わないんだよ。アンデッドを舐めるな」
「へいへい。ではどうぞ、まとめて5本出しときますね」
「気が利くな」
「ではあっしも飲ませてもらいます。お客さんの奢りって言われたら断われねぇや」
「誰も奢るなんて言ってねぇぞ。おい」

店主は「いただきます」と嬉しそうに言ってとっくりに口をつけた。
すぐに顔を赤くして、「ぷはー!」と叫び、客であるフェスターよりも酒の味を楽しんでいるようだ。

「旦那美味しいです!ごちそうさまです!」
「うるせぇよ。お前の分の代金は払わねぇからな」
「いやぁ流石旦那!やはり王と呼ばれるお人は懐が違いまさぁ!あ、もう1本頂きますね、ありがとうございます!」
「お前をおでんにしてやろうか?」
「まぁいいじゃないフェスター。お金あるんだしサービスしてあげようよ」
「なんで客がサービスしなくちゃいけないんだよ。はぁ、まぁ酒が美味いから許してやるよ」

店主は調子に乗って奢りの酒を飲み続けた。
もう1本だけ、もう1本だけと増えていき、最後には倒れてしまった。
ぐーぐーと店主のいびきが聞こえる。
フェスターは温められていた全ての燗酒を魔法で浮かせてカウンターに寄せる。

「まだ食べたりないよぉ」
「元からそんなに大食いだったのか?」
「いや?あの頃は残飯漁ることも多かったし、今より小食だったよ。っていうか小食じゃないと生きられないし」
「そりゃそうだ、ふふ。全部奢ってやる」

少し酔いが回ってご機嫌なフェスターは鍋に入っているおでんを全て浮かび上がらせ、彼女の皿に全て盛り付けた。
量が多すぎて皿から完全にはみ出しているがテンは特に気にしなかった。

「ありがとう!」
「気にすんな。今は気分がいいからな」

しばらく黙々と食事を続けていたが、おでんを半分食べ終えたテンは唐突に言った。

「ヤマトに行ってみたいね」
「あん?」
「本場のおでん食べてみたいし、ほかにも美味しいものたくさんありそうじゃん?フェスターもそのお酒気に入ったんでしょ?」
「まあな」
「行こうよ!どうせ暇なんだしさ」
「別に暇じゃねぇけどな。それにあそこはやめとけ」
「どうして?今は入国できるんでしょ?」

フェスターは鼻で笑って、やや苦い顔をした。

「入国はできても国民の気性は変わらねぇよ。あそこの人間は好戦的でな……刀持った……えっと、侍ってのがいるんだ」
「刀?剣?」
「そうだ。でその侍ってのが信じられないくらい強い。だから国を守ってこれたんだろうけどな」
「でも……今は入国できるんでしょ?」
「できるのかもしれんが、たぶん斬られるぞ」
「なんでそんなこと分かるの?」
「……調べたからだ」
「ヤマトを?どうして?」
「勉強が好きだから」
「ふーん、もしかしてアンデッド絡み?」

フェスターは露骨に嫌な顔をした。
その表情を見て、テンは自分が正しいことを言ったと確信する。
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