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善人だけの世界
宗教入門1
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「おはよう……コトネ」
「おはよう、ミユ」
今しがた眠りから覚めたミユを見て、コトネは柔らかく笑う。
昨日の夜からぐっすり眠った彼女は顔色もいい。
船に乗って島に訪れた2人は、この村のシスターと呼ばれる女性の屋敷にお邪魔している。
大きな屋敷の2階でゆっくりと休んだ2人は、久しぶりに安心感というものを得ていた。
「ゆっくりしてていいよ」
「もう大丈夫だよ、疲れも取れたし」
「嘘つかないでよ、今までずっと歩きっぱなしだった」
「熱は下がったよ」
「そうだとしてもぶり返したら大変だよ。病み上がりは危ないんだから」
コトネはベッドに寝ているミユの額を触り、体温を確認する。
確かに昨夜ほど熱くはなかった。
彼女は立ち上がって、カーテンを開けて窓を開ける。
爽やかな日差しと涼しい潮風を部屋の中に迎え入れる。
小鳥の鳴く声が、2人の心をさらに穏やかにする。
さらに何かの植物の甘い香りも、ミユとコトネを落ち着かせた。
「ちゃんと寝床があるなんて久しぶり」
「うん。逃げ出す時ほとんどお金持ってきてなかったからね」
「お金なんて関係ないよ。どうせあの国でしか使えないんだから」
「ふふ、それもそうだ」
コトネは窓枠に手を当てて、目の前に広がる自然を楽しむ。
山と海に囲まれたこの島、ここから離れたところにはたくさんの家屋が見えた。
朝から活動する村人の姿も見える。
「これからどうしようか?」
ミユにそう問われて、コトネは「うーん」と曖昧な返事を返す。
故郷を追われて、彼女たちは何の目的もなくこの地にやってきた。
これからどうするのかなど、考える暇もなかったのだ。
「とりあえず仕事を探してお金を稼ごう。賞金稼ぎでも魔物退治でもやれることはあるよ」
「いいの?」
「もちろん。僕の役目はミユを守ることだ。何も心配いらないよ」
ミユを元気づけるために、コトネは少々おどけて言った。
クスッと笑ったミユに近づき、彼女はその手を握る。
「ミユは今まで頑張ってきたんだ。もう何も考えなくていい。僕が全部なんとかするよ」
「あなたに頼ってばかりだね」
「べ、別にミユが責任を感じることなんかないよ。僕がやりたくてやってるんだ」
褐色の肌を赤くして照れるコトネの手を、ミユは強く握り返す。
2人で見つめ合っていると、ドアがコンコンとノックされた。
「デロリスです、入ってもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
ドアを開けて入室した女性は、黒い修道服を身に纏っている。
茶色の長い髪を靡かせて、にっこりと笑顔を見せた。
「具合のほうはどうですか?」
「おかげさまで快調です」
「それはよかった」
デロリスはコップに水を入れて、粉薬をミユに渡す。
彼女はその薬を水と一緒に流し込んだ。
口の中に甘い香りが広がる。
「ゆっくり休んでくださいね、いつまでもここにいてもらって構いませんから」
「本当にありがとうございますデロリスさん。見ず知らずの私たちにここまでよくしてもらって……」
「いえいえ、気にしないでください。困っている人を助ける、それが私たちの神の教えなのですから」
「はい、本当にありがとうございます」
ニコニコと微笑んでいるデロリスから一瞬目を離し、コトネは壁にかけてある自身の刀を見た。
この村に助けられたのは確かだが、ミユの守護人として警戒を解くわけにはいかないのだ。
「おはよう、ミユ」
今しがた眠りから覚めたミユを見て、コトネは柔らかく笑う。
昨日の夜からぐっすり眠った彼女は顔色もいい。
船に乗って島に訪れた2人は、この村のシスターと呼ばれる女性の屋敷にお邪魔している。
大きな屋敷の2階でゆっくりと休んだ2人は、久しぶりに安心感というものを得ていた。
「ゆっくりしてていいよ」
「もう大丈夫だよ、疲れも取れたし」
「嘘つかないでよ、今までずっと歩きっぱなしだった」
「熱は下がったよ」
「そうだとしてもぶり返したら大変だよ。病み上がりは危ないんだから」
コトネはベッドに寝ているミユの額を触り、体温を確認する。
確かに昨夜ほど熱くはなかった。
彼女は立ち上がって、カーテンを開けて窓を開ける。
爽やかな日差しと涼しい潮風を部屋の中に迎え入れる。
小鳥の鳴く声が、2人の心をさらに穏やかにする。
さらに何かの植物の甘い香りも、ミユとコトネを落ち着かせた。
「ちゃんと寝床があるなんて久しぶり」
「うん。逃げ出す時ほとんどお金持ってきてなかったからね」
「お金なんて関係ないよ。どうせあの国でしか使えないんだから」
「ふふ、それもそうだ」
コトネは窓枠に手を当てて、目の前に広がる自然を楽しむ。
山と海に囲まれたこの島、ここから離れたところにはたくさんの家屋が見えた。
朝から活動する村人の姿も見える。
「これからどうしようか?」
ミユにそう問われて、コトネは「うーん」と曖昧な返事を返す。
故郷を追われて、彼女たちは何の目的もなくこの地にやってきた。
これからどうするのかなど、考える暇もなかったのだ。
「とりあえず仕事を探してお金を稼ごう。賞金稼ぎでも魔物退治でもやれることはあるよ」
「いいの?」
「もちろん。僕の役目はミユを守ることだ。何も心配いらないよ」
ミユを元気づけるために、コトネは少々おどけて言った。
クスッと笑ったミユに近づき、彼女はその手を握る。
「ミユは今まで頑張ってきたんだ。もう何も考えなくていい。僕が全部なんとかするよ」
「あなたに頼ってばかりだね」
「べ、別にミユが責任を感じることなんかないよ。僕がやりたくてやってるんだ」
褐色の肌を赤くして照れるコトネの手を、ミユは強く握り返す。
2人で見つめ合っていると、ドアがコンコンとノックされた。
「デロリスです、入ってもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
ドアを開けて入室した女性は、黒い修道服を身に纏っている。
茶色の長い髪を靡かせて、にっこりと笑顔を見せた。
「具合のほうはどうですか?」
「おかげさまで快調です」
「それはよかった」
デロリスはコップに水を入れて、粉薬をミユに渡す。
彼女はその薬を水と一緒に流し込んだ。
口の中に甘い香りが広がる。
「ゆっくり休んでくださいね、いつまでもここにいてもらって構いませんから」
「本当にありがとうございますデロリスさん。見ず知らずの私たちにここまでよくしてもらって……」
「いえいえ、気にしないでください。困っている人を助ける、それが私たちの神の教えなのですから」
「はい、本当にありがとうございます」
ニコニコと微笑んでいるデロリスから一瞬目を離し、コトネは壁にかけてある自身の刀を見た。
この村に助けられたのは確かだが、ミユの守護人として警戒を解くわけにはいかないのだ。
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