17 / 196
屍人の王とキョンシー娘
親友
しおりを挟む
開け放たれた窓から優しい風が吹き込む。
風はベッドの上から垂れる天幕を揺らしていた。
赤茶色を基調とした壁や床、家具はピカピカに磨き上げられている。
火が灯ってないランプや小さなテーブル、紋様の刻まれた壺、その他のインテリアや調度品は全て一級品だ。
ランファンの街の、広大な土地に建てられた数々の屋敷の1つのとある部屋、そこのベッドに2人の少女はいた。
甘いお香の香りを楽しみながら、テンは友人であるホンファの細い太ももの上に頭を乗せている。
「具合はどう?」
「大丈夫よ、今日は調子がいいみたい」
「そっか。苦しかったらすぐに言うんだよ?」
「テンったら心配しすぎよ」
苦笑するホンファを、テンは心配でまじまじと見つめた。
彼女は生まれつき体が弱く、ずっとこの部屋に閉じこもっている。
そのせいか肌は透き通るように白く、目の下の薄い隈が目立っていた。
テンは寝ながら、ホンファのサイドに結ってお団子にした髪を優しく触る。
彼女は微笑むだけだ。
真っ白な肌襦袢にゆったりとした上着を羽織っている彼女、いつもこの服だ。
オシャレなど縁のない籠の中で暮らすホンファが、テンは不憫でしょうがなかった。
「聞かせてよ、テンのこと。旅は楽しい?」
「楽しいよ、でもホンファと一緒がよかった」
「私は無理よ。ここから出られない」
「どうして?そんなことないよ。いつか元気になるって」
「ふふ、そうだね。その時は私も旅に行きたい」
「約束だよ!」
「うん。今一緒にいる人はどんな人?」
「フェスターっていうアンデッドだよ」
「優しくしてもらってる?」
「まさか!気難しいしすぐ不機嫌になるし、人使いも荒いんだ。やれ掃除だのやれお前の研究をさせろだのって。それに嫌味ばっかり!頭にきちゃうよ!世界征服なんて馬鹿なことも言ってるし」
「嫌いなの?」
「……さあね。でもそんなに悪い人じゃないと思う。この服だって買ってくれたし」
「すごく似合ってるよ」
「ありがとう。でね、私変なところに行ったんだよ?でっかい穴の下にある街!私びっくりしちゃったよ!その街にはお店とか見せ物とかがたくさんあったんだ。色んな人もいたし、あそこで食べたマンキーの唐揚げが美味しかった!ホンファにも食べさせてあげたかったよ!」
興奮して大声になっていくテンを見て、ホンファは手で口を隠しながら笑った。
今まで見た光景や体験した事柄をテンは早口で話す。
ホンファは何も言わずに、テンの髪を撫でていた。
「本当に初めて見るものばかりなんだ!これからも色んな場所に私は行くよ。フェスターがお宝とかお金のために旅をするからね。私はもっと新しい物を見たい!」
「いい人に出会えてよかったね、テン」
「いい人なんて、あの人はそんなガラじゃないよ」
「私との約束、守ってるみたいだね」
「え?」
テンの顔にポタポタと赤い血液が落ちた。
目を見開いて驚く彼女に、ホンファは背を曲げて顔を近づける。
顔中に刻まれた傷からダラダラと赤い血が流れ、肌は不気味な青色になっている。
そして眼球がなくなり、その瞳は何もない闇と化していた。
怪物のような姿になったホンファは、口をパクパクと動かし、テンに自分の血液を飲ませる。
「そんな……嫌だよ」
「生きて……あなたは生きて」
「ホンファを置いていきたくない……一緒に行こうよ」
テンは涙を流しながら懇願した。
彼女の親友は空洞の目から血を流し、テンの体を抱きしめる。
テンは咽び泣き、自分と彼女の運命を呪い続けた。
風はベッドの上から垂れる天幕を揺らしていた。
赤茶色を基調とした壁や床、家具はピカピカに磨き上げられている。
火が灯ってないランプや小さなテーブル、紋様の刻まれた壺、その他のインテリアや調度品は全て一級品だ。
ランファンの街の、広大な土地に建てられた数々の屋敷の1つのとある部屋、そこのベッドに2人の少女はいた。
甘いお香の香りを楽しみながら、テンは友人であるホンファの細い太ももの上に頭を乗せている。
「具合はどう?」
「大丈夫よ、今日は調子がいいみたい」
「そっか。苦しかったらすぐに言うんだよ?」
「テンったら心配しすぎよ」
苦笑するホンファを、テンは心配でまじまじと見つめた。
彼女は生まれつき体が弱く、ずっとこの部屋に閉じこもっている。
そのせいか肌は透き通るように白く、目の下の薄い隈が目立っていた。
テンは寝ながら、ホンファのサイドに結ってお団子にした髪を優しく触る。
彼女は微笑むだけだ。
真っ白な肌襦袢にゆったりとした上着を羽織っている彼女、いつもこの服だ。
オシャレなど縁のない籠の中で暮らすホンファが、テンは不憫でしょうがなかった。
「聞かせてよ、テンのこと。旅は楽しい?」
「楽しいよ、でもホンファと一緒がよかった」
「私は無理よ。ここから出られない」
「どうして?そんなことないよ。いつか元気になるって」
「ふふ、そうだね。その時は私も旅に行きたい」
「約束だよ!」
「うん。今一緒にいる人はどんな人?」
「フェスターっていうアンデッドだよ」
「優しくしてもらってる?」
「まさか!気難しいしすぐ不機嫌になるし、人使いも荒いんだ。やれ掃除だのやれお前の研究をさせろだのって。それに嫌味ばっかり!頭にきちゃうよ!世界征服なんて馬鹿なことも言ってるし」
「嫌いなの?」
「……さあね。でもそんなに悪い人じゃないと思う。この服だって買ってくれたし」
「すごく似合ってるよ」
「ありがとう。でね、私変なところに行ったんだよ?でっかい穴の下にある街!私びっくりしちゃったよ!その街にはお店とか見せ物とかがたくさんあったんだ。色んな人もいたし、あそこで食べたマンキーの唐揚げが美味しかった!ホンファにも食べさせてあげたかったよ!」
興奮して大声になっていくテンを見て、ホンファは手で口を隠しながら笑った。
今まで見た光景や体験した事柄をテンは早口で話す。
ホンファは何も言わずに、テンの髪を撫でていた。
「本当に初めて見るものばかりなんだ!これからも色んな場所に私は行くよ。フェスターがお宝とかお金のために旅をするからね。私はもっと新しい物を見たい!」
「いい人に出会えてよかったね、テン」
「いい人なんて、あの人はそんなガラじゃないよ」
「私との約束、守ってるみたいだね」
「え?」
テンの顔にポタポタと赤い血液が落ちた。
目を見開いて驚く彼女に、ホンファは背を曲げて顔を近づける。
顔中に刻まれた傷からダラダラと赤い血が流れ、肌は不気味な青色になっている。
そして眼球がなくなり、その瞳は何もない闇と化していた。
怪物のような姿になったホンファは、口をパクパクと動かし、テンに自分の血液を飲ませる。
「そんな……嫌だよ」
「生きて……あなたは生きて」
「ホンファを置いていきたくない……一緒に行こうよ」
テンは涙を流しながら懇願した。
彼女の親友は空洞の目から血を流し、テンの体を抱きしめる。
テンは咽び泣き、自分と彼女の運命を呪い続けた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる