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屍人の王とキョンシー娘

親友

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開け放たれた窓から優しい風が吹き込む。
風はベッドの上から垂れる天幕を揺らしていた。
赤茶色を基調とした壁や床、家具はピカピカに磨き上げられている。
火が灯ってないランプや小さなテーブル、紋様の刻まれた壺、その他のインテリアや調度品は全て一級品だ。
ランファンの街の、広大な土地に建てられた数々の屋敷の1つのとある部屋、そこのベッドに2人の少女はいた。
甘いお香の香りを楽しみながら、テンは友人であるホンファの細い太ももの上に頭を乗せている。

「具合はどう?」
「大丈夫よ、今日は調子がいいみたい」
「そっか。苦しかったらすぐに言うんだよ?」
「テンったら心配しすぎよ」

苦笑するホンファを、テンは心配でまじまじと見つめた。
彼女は生まれつき体が弱く、ずっとこの部屋に閉じこもっている。
そのせいか肌は透き通るように白く、目の下の薄い隈が目立っていた。
テンは寝ながら、ホンファのサイドに結ってお団子にした髪を優しく触る。
彼女は微笑むだけだ。
真っ白な肌襦袢にゆったりとした上着を羽織っている彼女、いつもこの服だ。
オシャレなど縁のない籠の中で暮らすホンファが、テンは不憫でしょうがなかった。

「聞かせてよ、テンのこと。旅は楽しい?」
「楽しいよ、でもホンファと一緒がよかった」
「私は無理よ。ここから出られない」
「どうして?そんなことないよ。いつか元気になるって」
「ふふ、そうだね。その時は私も旅に行きたい」
「約束だよ!」
「うん。今一緒にいる人はどんな人?」
「フェスターっていうアンデッドだよ」
「優しくしてもらってる?」
「まさか!気難しいしすぐ不機嫌になるし、人使いも荒いんだ。やれ掃除だのやれお前の研究をさせろだのって。それに嫌味ばっかり!頭にきちゃうよ!世界征服なんて馬鹿なことも言ってるし」
「嫌いなの?」
「……さあね。でもそんなに悪い人じゃないと思う。この服だって買ってくれたし」
「すごく似合ってるよ」
「ありがとう。でね、私変なところに行ったんだよ?でっかい穴の下にある街!私びっくりしちゃったよ!その街にはお店とか見せ物とかがたくさんあったんだ。色んな人もいたし、あそこで食べたマンキーの唐揚げが美味しかった!ホンファにも食べさせてあげたかったよ!」

興奮して大声になっていくテンを見て、ホンファは手で口を隠しながら笑った。
今まで見た光景や体験した事柄をテンは早口で話す。
ホンファは何も言わずに、テンの髪を撫でていた。

「本当に初めて見るものばかりなんだ!これからも色んな場所に私は行くよ。フェスターがお宝とかお金のために旅をするからね。私はもっと新しい物を見たい!」
「いい人に出会えてよかったね、テン」
「いい人なんて、あの人はそんなガラじゃないよ」
「私との約束、守ってるみたいだね」
「え?」

テンの顔にポタポタと赤い血液が落ちた。
目を見開いて驚く彼女に、ホンファは背を曲げて顔を近づける。
顔中に刻まれた傷からダラダラと赤い血が流れ、肌は不気味な青色になっている。
そして眼球がなくなり、その瞳は何もない闇と化していた。
怪物のような姿になったホンファは、口をパクパクと動かし、テンに自分の血液を飲ませる。

「そんな……嫌だよ」
「生きて……あなたは生きて」
「ホンファを置いていきたくない……一緒に行こうよ」

テンは涙を流しながら懇願した。
彼女の親友は空洞の目から血を流し、テンの体を抱きしめる。
テンは咽び泣き、自分と彼女の運命を呪い続けた。
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