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屍人の王とキョンシー娘

地下歓楽街へ8

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「フェスター、その英雄の人倒せるの?」
「さあな。どのくらい強いかわかんねぇし」
「そんなことだから今までやられてきたんじゃないの?」
「うるせぇ」

適当に返事していたフェスターだが、どこか思い詰めたような表情のテンを見て首を傾げた。

「どうした?」
「いや……あのさ、その人って助けられないかな?」
「あ?」
「だって病気でおかしくなっちゃったんでしょ?その人国を守るために頑張ったのに、殺すのはちょっと可哀想かなって思ってさ」
「そうだな。抵抗もできない市民を虐殺して回ってるけど、助けないのは人権に反するからな。俺としたことが考えが足りなかったよ」
「意地悪言わないでよ」
「世間一般の人間から見たらお前のほうが意地悪言ってる」
「そうかもしれないけどさ……」

彼女がなんとなく納得していないような態度をとっているので、フェスターは強めの語気で言った。

「人殺しに同情すんな。そんな価値はない。どんな理由があってもな」
「あなただってそうだよ」
「そうだ。俺も数え切れないくらい殺してきた。だから同情してくれなんて頼んでないだろ?」
「そういうことじゃないよ」
「あ?」
「あなたを責めてるわけじゃない。私も酷い場所にいたから人の死は見慣れてるし、私自身人を殺したこともあるよ。でもそれは仕方のないことだって言い訳してた、生きるために仕方がないって……彼もそうだよ、病気だから仕方がないんだ。そういう人を退治するのはちょっと悲しくなるよ」
「なに素っ頓狂なこと言ってんだ。責めるとか仕方ないとか話がズレてんだよ。世の中は食うや食わずの理由で人が死ぬし、ゲス野郎がなんの意味もなく殺すこともある。俺だってそうだ、ムカついたりとか研究のために人を殺す。死はただの結果だ。人が死ぬ過程や理由を求めて何になる?俺たちにできるのは死なないように抵抗することだけ……できなきゃ死ぬ。この世界ができたときから何も変わらねぇよ」
「うん……だよね」
「幸運だな俺とお前は。アンデッドだからなかなか死なないぞ」
「うん……」

少し茶化すようにフェスターは言ったが、テンはやや下を向いたままだ。
彼女は善人ではない、しかし非情なわけではなかった。
世の中の不条理や悲劇に涙を流すことができる人間だ。
テンの心中など誰かが察してくれるわけがない。
地下に集まった客たちは大声で感情を表現している。
けばけばしい明るさと賑やかさが、今のテンには邪魔に思えた。
2人は言葉なく人混みをかきわける。
フェスターはどことなく気まずそうに無意味に首などを動かしていた。

「あ……」

テンは立ち止まり、一軒の屋台を見つめた。
その屋台では様々な国の衣類が売られているようで、多種多様の民族衣装が置いてある。
その中でテンは気になる服があったのだ。
親友とふざけあって着用した故郷の衣装だ。
あの頃の思い出がどっと押し寄せてきて、テンは喉の奥が熱くなる。

「欲しいのか?」
「え?」

仏頂面のフェスターは、テンから目を逸らしながら聞いた。

「どれだ?」
「買ってくれるの?」
「どうせ買わないとごねるだろ。面倒だから買ってやる」
「ありがとう」
「それで?どれだ?」

フェスターとテンは屋台に近づいた。
鳥のような羽が脇の下から生えている亜人の女に、テンは希望の服を伝えた。
提示される金額を跳ねのけたフェスターは、勝手に値下げした金額の金をカウンターに叩きつける。
フェスターと女がガミガミ言い争う姿を見て、テンは思わず微笑んでしまった。


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