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屍人の王とキョンシー娘

地下歓楽街へ3

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「あれなに?」
「あん?なんか食いもん売ってんだろ」
「……食べたい」
「はぁ?」
「食べてみたいな」

テンはフェスターの腕を強引に掴んで屋台に近づいた。
「らっしゃい!」とカエルの亜人はテンたちを迎える。

「なんで俺まで」
「腕掴んどかないとあなたどっか行っちゃうでしょ。ねえ、おじさんは何を売ってるの?」
「マンキーの肉を使った唐揚げだ!絶品だよ!!」
「へぇ、マンキーってなに?」
「猿型の魔物だ!」
「猿かぁ……ちょっと抵抗あるかも」
「なに言ってんだいお嬢さん!確かに珍しいが味は保証はする!とにかく1つ食ってみなよ!」

金属の調理器具に入った油の中でジュージューと揚がる肉を見て、テンはよだれを垂らしそうになった。
そして腹がぐぅと鳴る。

「アンデッドのくせに腹鳴らしてんじゃねぇよ」
「ずっとご飯食べてなかったんだ。こんな美味しそうなのみたら我慢できないよ!」
「ってかお前金あんの?」
「2000ロンくらいあるよ。足りるよね」
「それランファンの金だろ?」
「え?うん」
「使えねぇよ」
「使えないって……なんで?」
「流通貨幣が違うから」
「流通……なに?」
「だから国とか地域によって使える金が違うんだよ。ここで使えるのは比較的世界に流通しているクレジットって貨幣だ」
「……そうなんだ。じゃあこのロンどうすればいいの?」
「両替屋に頼んで両替してもらえ」
「両替屋さんはどこにいるの?」
「知らね。探せばいるんじゃね?」
「そんなぁ!マンキーの唐揚げ食べられないじゃん!」
「そうだな。俺は行くから1人で匂いでも嗅いでろ」

フェスターはテンに背を向けた。
だが彼女は唐揚げを諦めきれず、フェスターの服を思い切り引っ張った。

「やめろ!破れるだろ!!」
「唐揚げ買って!買って!」
「ガキはお前は!ちょ!マジで破れるって!!」
「食べたい食べたい!!買って!」
「なんて力だ!分かった分かった!買ってやるから放せ!!」

あまりのテンの力強さに1歩も前に進めなかったフェスターは観念して財布を取り出した。
テンの表情がパッと晴れる。

「ありがとう!」
「だから連れてきたくなかったんだ……」
「へへフェスターさん。可愛らしい彼女ですね」
「うるせぇよ。誰だお前は」
「へへ」

フェスターは屋台に近づき、「いくらだ?」と値段を聞いた。

「300クレジットです」
「たけぇよ。安くしろ」
「フェスターさんにそう言われちゃ……半額の150クレジットでどうです?」
「50でいいだろ」
「え?」

フェスターは財布から硬貨を1枚取り出してカウンターに置いた。
そして勝手に油の中に手を突っ込み、唐揚げを取り出して紙に包んでテンに向かって投げた。
テンは見事にキャッチして、手のひらに感じる熱さに困惑しながらもにっこりと笑う。

「行くぞ」
「うん!」

唖然とする店主を放っておいて、2人は歩き出す。
買ってもらった唐揚げをしばし見つめたテンは、鼻を近づけて嗅いでみる。
揚げたての衣がついた肉の香りを楽しみ、我慢できなくなったところでかぶりついた。
舌を火傷しそうになったが、ひと口噛むたびに濃すぎるほどの肉汁と衣のサクサク感が彼女に喜びを与えた。
肉感は少々硬いが、歯ごたえがあり満足感は十分だ。
唐揚げを口の中に全て放り込んだテンは、笑顔のまま何度も咀嚼した。

「美味しい!!本当に美味しいよこれ!」
「そりゃ人の金で食う唐揚げは美味いだろうよ」
「ありがとうねフェスター!!」

なんの含みもない爽やかな笑みを向けられて、フェスターは顔を逸らした。
ただ「ふん」と不機嫌そうに鼻を鳴らす。
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