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第176話 おれたちの居場所は、おれたちが守るんだ!

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 おれたちが第2階層に到着したとき、目の前には重火器で武装した集団があった。隼人たちが交戦しているのは、こいつらだろう。

 そして背後には宿。銃火に晒され、悲惨な状態になってしまっている。

「わたくしたちの家が……」

「なんてこと……。みんなが作ってくれたわたしの居場所を!」

 怒りと悲しみの目で集団を睨みつけるロザリンデ。

 敵集団は、バルドゥインの巨体を見上げて唖然としていたが、やがて射撃を開始する。重機関銃の掃射に、対物ライフルによる狙撃。どれもが直撃するが、バルドゥインはびくともしない。

「ほう、火薬の爆発で金属を超音速で撃ち出しているのか。素晴らしい技術だ。人間の並の魔法使いではこの威力は出せまい。しかし、ドラゴンには通じんな。……どうするタクト、薙ぎ払うことは容易いが」

「あなたじゃ、いくら手加減しても死なせてしまう。ここはおれたちに任せてくれ」

「いいだろう。違う世界の冒険者の戦い、見せてもらう」

 バルドゥインは宿を庇う位置に立ち、そこで静止する。その背中から尻尾までを滑り降りて、おれたちは地に足をつける。

 そこに前進してきた隼人たちが現れた。

「一条先生!」

「お待たせ、みんな!」

「おいおい、このゴジラみてーなドラゴンはなんだよ?」

 雪乃がバルドゥインを見上げながら問いかけてくる。

「おれの旧友さ。ちなみに人の言葉がわかるからね。いつもみたいに口が悪いと機嫌を損ねちゃうかもしれないよ」

「お、おう。気をつけるわ……」

 紗夜と結衣、吾郎たちも駆けつける。

「先生、迷宮ダンジョンの主さんには会えたんですね!?」

「ああ紗夜ちゃん。もう迷宮ダンジョンが崩壊する心配はない。その代わり、この迷宮ダンジョンに侵攻してきてるやつらは、おれたちがどうにかしなきゃならない!」

「やれるんだな、一条!?」

「やってみせる! おれたちの居場所は、おれたちが守るんだ!」

「おうよ、そのとおりだぜ!」

「ユイも……やります!」

 吾郎の気合の声に続いて、結衣も闘志を燃やして『破鎚ドラゴンファング』を振り上げる。

「でも……モンスレさん、この魔素マナの量は……」

迷宮ダンジョンが完全に異世界リンガブルームと繋がったんだ。この濃度なら、ステータスを100%引き出せるはずだ!」

 すると、みんなはパーティメンバー同士で顔を見合わせ頷く。

「なら……もうやつらの好き放題にさせなくていいってわけっすね」

 隼人の言うとおりだ。敵も冒険者だが、そのほとんどは今期からの新人冒険者たちだ。みんな優秀で真面目にレベルを上げていたが、それでもレベル3後半がせいぜいだ。

 対し、こちらはレベル5以上が複数。ドラゴン退治を成し遂げて、レベル7に到達している者もいる。しかも赤竜レッドドラゴンの肉で強化までされている。

 第2階層の薄い魔素マナの中なら、レベル差があっても能力差は小さかった。武器次第で不利を覆せるほどだ。

 だがステータスのすべてが発揮される今、能力には圧倒的な差が生じる。武器程度でどうにかできる範疇を超えて。

「これなら、あたしたちだけでもやっつけられますよ!」

 紗夜の宣言が、行動開始の合図となった。

 いつものように結衣が先行して前進する。

 それに気づいた敵集団は、バルドゥインへ掃射していた銃口を結衣に向ける。

「こんなもの!」

 結衣はそれらを盾で防いだ。ただ防いでいるわけではない。射角に合わせて盾を傾け、的確に弾丸の軌道を逸らし、弾いているのだ。圧倒的な反射速度と、それを可能にする強大な筋力STRだ。

 充分に接近した結衣は、改めて『破鎚ドラゴンファング』を振り上げる。

 その隙を狙う敵の腕に、矢が突き刺さる。紗夜だ。一射で5本もの矢を放ち、複数の敵の動きを止める。

 さらに矢のような速さで飛び込んだ隼人が、素早い接近戦で敵陣をかき乱す。

「てぇええい!」

 結衣が引き金を引く。爆発的な推力を加えて、破鎚が地に突き刺さる。地面が破裂し、地盤の破片が全周囲に弾け飛ぶ。

 それは敵集団だけでなく、設置された重火器にも命中。倒れて地面に転がる。

 敵の火力が一気に削がれる。

 そんな結衣の前に吾郎が出る。音より早く飛んできた対物ライフル弾を、ミリアム謹製の剣――ドラゴントゥースで地面へ弾き飛ばす。

「そこか!」

 今の射角と遅れてきた銃声で、狙撃手の位置を割り出し、ナイフを投擲。命中したのだろう。これ以降、狙撃はなかった。

 その流れに、他の冒険者たちも駆けつける。

「私たちも行くぞ! あいつら料理してやる!」

「おうよ! ドラゴンの肉を食べるまでは!」

「裏切り者と呼ぶなら呼べぇえ! 味の探求が優先じゃああい!」

 なにか口走りながら『ドラゴン三兄弟』も突撃していく。

 もしかしたら、彼らも本当はスパイ側の人間だったのかもしれない。が、あえて問うまい。ずっと味方でい続けてくれたようだし、彼らを失うのは食事の質的に大きな損失だ。

 大きく傾いた戦況は、もう変わらない。

 本当におれたちの出る幕もなく、隼人たちは敵集団を完全に制圧した。死者も出していない。

 バルドゥインは、感心したようだ。

「なかなかやるものだ。特に、動きの良い者たちに関しては、『超越の7人スペリオルセブン』に匹敵するのではないか?」

「賢竜バルドゥインがお世辞を言ってくれるとは思わなかったよ」

「ふっ、褒め言葉は素直に受け取れ。それで? 次こそ地上でいいか?」

「ああ。でもその前に、念のため状況を確認する。少し待ってくれ」

 おれはスマホでネットニュースを確認する。

 フィリアや丈二、ロザリンデたちも一緒だ。

 艦隊を接近させている相手国は、いよいよこの島に対して領有権を主張し始めたらしい。

 曰く、歴史的に見て我が国固有の領土であり、それを長年に渡って実効支配しているのは不当である。ただちに支配を放棄して島を明け渡せ……。といった主旨のことを話している。

「まあ。なんて卑怯な方々でしょう。侵略ならば侵略だと言えばいいでしょうに、急に『実は昔から自国の領土だった』なんて言い訳、見苦しくて聞いていられません」

「太平洋沖にあるこの輪宮島りんぐうじまを、よくもまあ自国の領土だったなんて言えたものです。位置的に無理があるでしょうに、面の皮が厚いと言うか、なんと言うか」

「これは早くわからせたほうが良さそうね、タクト?」

「そうしよう。待たせたね、バルドゥイン。ここからが本番だ!」

 おれはバルドゥインの背中に飛び乗った。
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