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第150話 また触れ合えるんだな、アタシたち

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 紗夜と結衣が、終わりの挨拶をして生配信を終了させる。

 その間に、おれたちは梨央を厳重に拘束した。それから、より重傷な者から順に、治療魔法を施していく。

 そんなことをしていると、ファルコンこと隼人が、こっそりその場から抜け出そうとしていた。

「おいこらちょっと待て」

「わあ雪乃先生っ?」

 見逃すはずもなく、雪乃が首根っこを捕まえてきた。

 おれは小さくため息。

「なんで逃げようとするかなぁ……というか、生きてたんならなんで会いに来てくれなかったのさ」

「いや、その……すんません……。一応、生きてるってわかるように、前と同じことはしてたんすけど……」

「そういう問題じゃないでしょ。心配して待ってる身からすれば、顔を見るまで安心できないんだよ。雪乃ちゃんなんか泣いてたんだからね」

「いや泣いてねーし!」

「雪乃先生、そこまで俺のこと……」

「だ、だから泣いてねーし!」

 ムキになって大声を出す雪乃だが、怒っているというより照れ隠しという様子だ。こういうのを見ると、悪戯心が芽生えてしまう。

「そうだっけか。おれは死んだと思って泣いちゃってたけど」

 そこに結衣も乗っかってくる。

「ユイも……。友達が、急にいなくなるの……初めてだったし……」

「あたしも。誰かがいなくなっちゃうのは、慣れないよね……」

 紗夜も加わって、みんなで一斉に雪乃を見る。

「そ、そんな目で見んなよ、薄情じゃねーぞ……。つか、その、本当は、あ、アタシも……」

「はい。自供、取りました……」

「あっ! てめーら言わせやがったな!」

 結衣の一言でおれたちの悪戯に気付いて、雪乃は顔を赤くする。

 みんなで笑う輪の中に、見慣れた隼人の朗らかな笑顔もある。それで、本当に彼が帰ってきたのだと実感して嬉しくなる。

「それで、隼人くん。姿を隠してたのには、なにか事情があったのかい?」

 隼人は気まずそうに頭をかいた。

「いや、だって……こんな姿、見せたくないじゃないすか……。顔も体ももう人間じゃない、醜い狼の化け物っすよ。さすがにピンチは見逃せなかったから来ましたけど、本当は今すぐでも隠れたいっていうか……」

 おれたちは、揃って顔を見合わせた。

「醜いかなぁ?」

「人間じゃないってほど変わってます?」

「全然……。コスプレって言っても……通じそう」

 おれたちが口々に反論すると、隼人は唇を尖らせた。

「それは先生や先輩が、あんまりにも魔物モンスターを見慣れてるからじゃないっすか? ほら、初代仮面ライダーも見慣れてるからヒーローっぽく感じますけど、初見じゃ結構不気味っすよ。ほとんどドクロ仮面ですしあれ」

 雪乃は首を傾げる。

「いやその例えはよくわかんねーけど、お前、ちゃんと自分の姿見たことあんのか?」

「そりゃありますよ。たぶんこの体になった直後に。たいぶショックだったんすからね」

 おれは軽く手を上げる。

「質問なんだけど、隼人くんは、自分が梨央さんみたいに変身したりしてるの、ちゃんとわかってる?」

「へ?」

 目を丸くするので、おれは苦笑してしまう。

「全力で戦ってるときの姿ならまあ、人間じゃない、醜い狼の化け物って言われてもわかるんだけど……今は違うよ?」

 紗夜が荷物の中から、カード型の折りたたみ鏡を持ってきてくれる。

「あ、あれぇ!?」

 そこに映った自分の姿に、隼人はにわかに混乱する。

「いや、あれ? 爪とか毛の生え変わりは激しいなーとは思ってたんすけど、顔とかいつの間に戻って……割と普通っていうか……これ、隠れてる必要ありました……?」

「いやおれに聞かれても……」

 隼人の今の姿は、ほとんど人間だ。頭部にイヌ耳、お尻からモフモフの尻尾が生えている以外は外見上の差異は見受けられない。

 紗夜たちは、改めて隼人の姿をじっくりと眺める。

「やっぱり、全然醜くないっていうか、むしろ……」

「うん、なんか……かわいい。ね、ゆきのん?」

「お、おう……」

 雪乃は隼人から視線を外さず、じりじりと迫っていく。

「え? なんすか雪乃先生? なんで寄ってくるんすか?」

「わ、悪ぃ、隼人。ちょっと、ちょっとでいいからよ、さ、さ、触ってもいいか?」

「ま、まあ、べ、べつにいいっすけど」

「そうか!」

 雪乃は遠慮がちに隼人の尻尾を撫でた。ぴくっ、と隼人が反応する。

「あ、痛かったか?」

「いやちょっとぞわっとしたっていうか……でも嫌な感じじゃなくて……」

「じ、じゃあもっと触っていいなっ」

 今度は遠慮なく、尻尾をモフモフ、イヌ耳をナデナデしまくる。

 よほど触り心地がいいのか、雪乃はどんどん上機嫌になって、動きも激しくなっていく。対し、隼人はなにか耐えるように口を横一文字に閉じて、ぎゅっと目をつむる。その顔はどんどん赤く染まっていく。

 たぶん、これ、気持ちいいやつだ。それも、好きな女性ひとにこんなメチャクチャにされたら、色々大変なことになっているに違いない。

 とか思っていると、いよいよ耐えかねたのか、隼人は目を開け、口を開く。

「あ、あの雪乃先生、そろそろ……」

 言いかけたところで、隼人は口をつぐんだ。

 雪乃はいつの間にか、瞳に涙を浮かべていたのだ。

 そして感極まったように、隼人を抱きしめる。

「いるんだな、ここに……。こうやって、また触れ合えるんだな、アタシたち……」

「雪乃先生……」

「バカヤロー……。アタシたちが、どんだけ心配したか……。お前がいなくなってどんなに悲しかったかわかるか……! このバカ……」

「すみません……。でも、俺、もう帰ってきましたから」

 雪乃は隼人の胸元に顔を埋め、背中を震わせた。それを隼人が抱きしめる。

「ああ、おかえり。ずっと待ってたからな」

「先生……やっぱり俺、先生が好きです。ひとりのときも、ずっと先生のこと想ってました」

「バカ……それが、自分だけだと思うなよ……」

 雪乃はそっと身を引いて、それから意を決した顔を見せた。不意打ちで隼人に口づけする。

 唇同士を触れさせるだけですぐ離れる。

「ゆ、雪乃先生、これは、ちょっと……」

「う、うるせーな、下手なのはしょーがねーだろ。文句言うなよ」

「いやその、人前だったんで……」

 言われて思い出したのか、雪乃はハッとして周囲を見渡した。おれはもちろん、紗夜や結衣、吾郎や他のメンバーにまでばっちり目撃されていた。

 結衣が拍手を開始する。みんなもそれに倣って拍手。

「は、拍手はやめろー!」

 雪乃はかつてないほどに赤面して絶叫した。


   ◇


 それからフィリアたちと合流してからしばらくののち。

 梨央が意識を取り戻して、おれは質問した。

「いくつか聞きたいことがあるけど……まず、第4階層で、なにがあったのか教えてくれないか?」
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