上 下
149 / 182

第149話 【生配信回】悪い冒険者をやっつけろ!④

しおりを挟む
「一条先生!?」

「モンスレさん……!?」

 ファルコンはすぐ手を引き、梨央もまた警戒して距離を取る。

「一条、お前、戻って来るにはまだ時間がかかるんじゃなかったのかよ?」

 吾郎の問いに、モンスレは頷く。

「だから他のみんなは置いて、おれだけ先行して来たんだ。お陰で間に合った」

"主役は遅れてやってくるを素でやるとは"

"これでもう安心だ"

"来てくれてありがとう、本当にありがとう"[¥8888]

 間合いを取った梨央に、モンスレは顔を向ける。

「梨央さん、もうよすんだ。君がその力を使えば使うほど、体には異常な負担がかかる。信じられない速度で寿命を消費してるんだ。このままじゃすぐ死んでしまうぞ!」

「急に出てきてなに言ってるの! そんなわけないじゃない! 人生で一番調子が良いくらいなのよ! 負担なんて全然ないわ!」

「それは本来あるはずの苦痛を、麻痺させられてるだけなんだよ。でなきゃ、全力で戦闘なんてできないから」

「例えそうだとしても、だからなに? なんの力もない、暴力に屈して泣くような毎日が何十年も続くよりは、この無敵の力で太く短く生きたほうがずっと有意義だわ!」

「その太く短くが、あとほんの数分だとしても?」

 その言葉に、一瞬だが梨央はたじろいだ。

「き、極端なこと言って騙すつもりでしょ! あたしは他の連中みたいにバカじゃない! もう誰かに利用されて搾取されたりなんかしない! あなたと同じ――いや、もっとずっと強い力を手に入れたんだから!」

「フィリアさんなら、君の寿命を伸ばしてあげられるかもしれない。それで稼いだ時間で、研究を進めて、もとの人間に戻せる日も来るかもしれない。生きたいなら、その変身もすぐ解いて、おれたちと一緒に来るんだ」

「嘘よ! あなたはあたしから力を奪って、また上に立ちたいだけだ!」

 モンスレはファルコンのほうを見遣る。

「君もだ、ファルコン。その状態は維持するだけでも命を削るはずだ。早く解除するんだ」

「……わかりました。正直、しんどかったっす……。梨央さんを止めるにはこれしかないって思ってましたけど、先生が一緒なら、安心っすね」

 ファルコンはまた全身から蒸気を噴き出した。表皮を包んでいた体毛は抜け落ち、鋭い爪も剥がれて落ちる。骨格も、元の形状に戻っていく。やがて、最初のほとんど人間と言える姿になった。

 その姿に頷いて、モンスレは再び梨央に向かう。

「さあ梨央さん、君も……」

「嫌だ! 誰があんたなんかに従うもんか! あたしをどうにかしたかったら、あたし以上の力でどうにかしてみろぉ!」

 逆上した梨央が飛びかかってくる。

 4本腕を2本ずつ、モンスレとファルコンに振り分けて同時攻撃してくる。

 モンスレは剣と盾を巧みに使ってそれを捌く。

 変身解除して身体能力に大きな差のできたファルコンは、相手の手数が半分になっても対応しきれていない。防御に回した両腕がひどく傷ついていく。

"モンスレさん、あの化け物の動きについて行ってるぞ"

"ついて行ってるっていうか、動きを予測して防御を置きにいってる感じ?"

"さすが、経験値が半端ないぜ!"

"いやなんで同じ怪物のファルコンが防げない攻撃を防げてんの"

"↑モンスレさんは、ボクシングでいうと井上、将棋でなら藤井、格付けチェックならガクトみたいな存在だから……"

"武器を! ファルコンにもなにか武器があれば!"

 梨央の凄まじい速さに、さすがのモンスレもファルコンのフォローまではできない様子。

 それを見かねたか、雪乃が動いた。

「これを使え!」

 梨央に向かって剣を投擲。梨央は容易く弾くが、軌道の変わったその剣をファルコンがキャッチする。

「雪乃先生、ありがとうございます!」

 その剣を使うことでファルコンも、攻撃を防ぐようになっていく。

 初めこそ防御で精一杯だったのが、徐々に勢いを増していく。防御だけでなく、反撃する余裕さえ生まれてくる。

"やっぱり武器か"

"いやこれモンスレさんの動き真似てない?"

"こいつ、戦いの中で成長してるのか!?"

 モンスレがにやりと笑う。

「いいね、さすがだよ」

「へへっ、本当に俺、もう先生より強いかも」

「調子に乗らないの、っと!」

 息の合ったふたりが、同時に梨央を蹴り飛ばす。

「でも先生、どうやって止めればいいっすか。無力化しようにも傷もすぐ再生しちゃいますし」

「再生なんかさせたら寿命も削らせてしまうしね。無傷のまま気絶させるしかない」

「無茶言ってません?」

「やれるさ。おれたちには頼りになる仲間がいる」

 ファルコンが周囲を見渡す。傷つき倒れていたはずの紗夜や結衣、雪乃や吾郎が、立ち上がってくれている。

「ファルコン、君はいいやつだけど、ひとりで抱え込みすぎだよ。もっと頼っていいんだ」

「……はいっ」

「みんな! やつの意識を奪う! 紗夜ちゃんは魔法で足止め、他のみんなは総出で腕を抑えてくれ。最後はおれが絞める!」

 指示を飛ばすやいなや、モンスレは駆け出す。ファルコンもそれを追っていく。

 起き上がった梨央は迎撃しようとするも、勢いづいたふたりの攻撃を防ぎきれない。ほどなくして体勢を崩す。

「紗夜ちゃん!」

「はい!」

 すでに魔力を集中させていた紗夜が、両手で土系と氷系を同時に発動させる。

"えっ、『花吹雪』がふたりがかりでやってたことをひとりで!?"

"さすが魔法少女は伊達じゃない!"

 梨央の足に土や石が張り付き、瞬間的に凍りつく。

 間髪入れず、ファルコンが梨央の右に回り込み、2本の腕を抑え込む。左からは結衣が駆け込む。彼女の力では、1本が限度。残る1本の腕を、雪乃と吾郎がふたりがかりで捕まえる。

 3秒にも満たないその間に、モンスレは梨央の背後に回っていた。その首に腕を回し、頸動脈を締め上げる。

「が、ぐ――っ!?」

"なんて見事なスリーパーホールドだ"

"これは……やったか!?"

"↑やってないフラグ立てんな!"

"でもモンスレさんなら、そんなフラグだって!"

"落ちろ、落ちろ、落ちろー!"

 梨央は拘束を振りほどこうと抵抗するが、徐々に動きが弱まっていく。

 そして、こてん、と頭がうなだれた。体から蒸気が噴き出してくる。

「あちちち!」

 高温に耐えきれず、みんなが梨央から離れる。魔法で凍らされた足も溶けて、梨央はそのままうつ伏せに倒れた。

 気絶したその体が、人に近い姿に戻っていく。

"うぉおおお! 倒したアアア!"

"ありがとうモンスレさん!"[¥28000]

"絞め技で勝利とかマニアックだな"[¥3000]

"ああ、みんな生きててよかった!"[¥25000]

"手に汗握る戦いだった、ありがとうー!"[¥10000]
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【完結】悪気がないかどうか、それを決めるのは私です

楽歩
恋愛
「新人ですもの、ポーションづくりは数をこなさなきゃ」「これくらいできなきゃ薬師とは言えないぞ」あれ?自分以外のポーションのノルマ、夜の当直、書類整理、薬草管理、納品書の作成、次々と仕事を回してくる先輩方…。た、大変だわ。全然終わらない。 さらに、共同研究?とにかくやらなくちゃ!あともう少しで採用されて1年になるもの。なのに…室長、首ってどういうことですか!? 人見知りが激しく外に出ることもあまりなかったが、大好きな薬学のために自分を奮い起こして、薬師となった。高価な薬剤、効用の研究、ポーションづくり毎日が楽しかった…はずなのに… ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))中編くらいです。

二人目の妻に選ばれました

杉本凪咲
恋愛
夫の心の中には、いつまでも前妻の面影が残っていた。 彼は私を前妻と比べ、容赦なく罵倒して、挙句の果てにはメイドと男女の仲になろうとした。 私は抱き合う二人の前に飛び出すと、離婚を宣言する。

カフェノートで二十二年前の君と出会えた奇跡(早乙女のことを思い出して

なかじまあゆこ
青春
カフェの二階でカフェノートを見つけた早乙女。そのノートに書かれている内容が楽しくて読み続けているとそれは二十二年前のカフェノートだった。 そして、何気なくそのノートに書き込みをしてみると返事がきた。 これってどういうこと? 二十二年前の君と早乙女は古いカフェノートで出会った。 ちょっと不思議で切なく笑える青春コメディです。それと父との物語。内容は違いますがわたしの父への思いも込めて書きました。 どうぞよろしくお願いします(^-^)/

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

心が読める令嬢は冷酷非道?な公爵様に溺愛されました

光子
恋愛
亡くなった母の代わりに、後妻としてやって来たお義母様と、連れ子であるお義姉様は、前妻の子である平凡な容姿の私が気に食わなかった。 新しい家族に邪魔者は不要だと、除け者にし、最終的には、お金目当てで、私の結婚を勝手に用意した。 ーー《アレン=ラドリエル》、別名、悪魔の公爵ーー  敵味方関係無く、自分に害があると判断した者に容赦なく罰を与え、ある時は由緒正しい伯爵家を没落させ、ある時は有りもしない罪をでっち上げ牢獄に落とし、ある時は命さえ奪うーーー冷酷非道、血も涙も無い、まるで悪魔のような所業から、悪魔の公爵と呼ばれている。  そんな人が、私の結婚相手。 どうせなら、愛のある結婚をして、幸せな家庭を築いてみたかったけど、それももう、叶わない夢……。 《私の大切な花嫁ーーー世界一、幸せにしよう》 「え……」 だけど、彼の心から聞こえてきた声は、彼の噂とは全く異なる声だった。 死んでしまったお母様しか知らない、私の不思議な力。  ーーー手に触れた相手の心を、読む力ーーー 素直じゃない口下手な私の可愛い旦那様。 旦那様が私を溺愛して下さるなら、私も、旦那様を幸せにしてみせます。 冷酷非道な旦那様、私が理想的な旦那様に生まれ変わらせてみせます。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。魔物もいます。魔法も不思議な力もあります。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

愛されなければお飾りなの?

まるまる⭐️
恋愛
 リベリアはお飾り王太子妃だ。  夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。 そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。  ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?   今のところは…だけどね。  結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。

処理中です...