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第143話 アタシの言った通りだったろ?

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「ハヤトがここに連れてこられたということは、やはり、合成生物キメラにされたと考えるべきなのでしょうね……」

 ロザリンデは眉をひそめて視線を落とす。

「ああ、食われたんじゃなく、捕獲されただけだったんだ。だからたぶん、あの斎川梨央も合成生物キメラにされてると見ていい」

「闇冒険者に味方して、善良な冒険者を襲ったという人型魔物モンスターは彼女だったのですね。ですが彼女はともかく……なぜ風間様は、せっかく生きていらっしゃるのに、それを伝えてくださらないのでしょうか」

 フィリアは疑問よりも悲しみを声に滲ませて問う。

「単純に、彼がスマホを失っているのもあるでしょうが、もしかしたら人としての意思も失っているのでは……? 合成生物《キメラ》は生まれた目的に対して、非常に忠実なのでしょう?」

 丈二の問いに、おれは異世界リンガブルームでの経験をもって答える。

「その可能性はあるけど、どうかな。おれが出会ってきた人間の合成生物キメラ――合成人間キメラヒューマンは、自分の意思で動いてる者ばかりだったけど……」

「スマホがなくても、連絡が取りたいなら手紙でもなんでも手段はあるはずよ。それをしないということは、なにか事情があるに違いないわ」

「ただ会いたくないだけかも。変わり果ててしまった姿を見せたくない、とか……」

「そうだとしても、放ってはおけません。きっと困っていらっしゃいます」

「ああ、もちろんだ。それに、合成人間キメラヒューマンは大抵の合成生物キメラと同じく短命なんだ。早く見つけ出して、なんとかしてあげないと」

 おれはスマホでメッセージアプリを起動し、雪乃に通話をかける。

『モンスレさんか? 通話連絡なんて珍しいな』

「雪乃ちゃんにすぐ伝えたいことがあってね。今は迷宮ダンジョン? 少し時間取れるかい?」

『ああ、第4階層に来たとこだ。そっちも第4だろ? 合流するか?』

「いやこっちは結構奥だから。通話だけでいい。隼人くんの件だ」

 向こう側で、雪乃が一瞬息を呑んだのが聞こえた。

『なにか、見つかったのか……?』

「ファルコンの覆面を見つけたよ」

『覆面……覆面だけ、か? それだけだったのか……』

 雪乃の声が震えてくる。それが泣き声に変わる前に、おれは続きを口にする。

「ただ、隼人くんは生きてる」

『ほ、本当か!?』

 雪乃はにわかに声を弾ませた。

『今そこにいるのか!? 話せるか!? 代わってくれよ!』

「いやここにはいないよ。例の、闇冒険者を制裁してる人型魔物モンスターの話は、雪乃ちゃんも知ってるよね?」

『ああ、あれあんたらの変装だろ? 隼人ならそうするだろうからって、同じこと続けてるんだと思ってたけど』

「まあやってるのはそうだけど、人型魔物モンスターはおれたちじゃない。あれが、隼人くんだったんだ」

『どういうことだよ?』

 おれは第4階層で合成生物《キメラ》製造施設を見つけたこと、そしてそこで覆面や、雪乃が遭遇したと思われる魔物モンスターを見たことなどを伝えた。

 状況的に、隼人と梨央が合成人間《キメラヒューマン》になっていると考えて間違いないはずだ、とも。

『梨央のやつもか……あいつも生きてたんなら、闇サイトがまた動き始めたのも納得だな』

「スマホも無事だったんなら、そうだろうね」

『で、隼人や梨央がどこを拠点にしてるかとかはわからねーのか?』

「すまない。この施設についてはもう少し調べるつもりだけど、ここから割り出すことはできないと思う。だから――」

『わかった。探せってことだな?』

「ああ、他の信頼できるパーティにも声をかけてくれ。合成生物《キメラ》の寿命は短い。早く手を打たないと今度こそ……」

『わかった。それは任せろ。でもよ寿命とか、なんとかできるもんなのか?』

「それも含めて調べてみるよ。じゃあ、よろしくね。一応、梨央さんのことも」

 最後に、雪乃は明るい声を聞かせてくれた。

『はいよ。でもよ、アタシの言った通りだったろ? 隼人、まだ生きてたじゃねーか』

 おれは笑って同意して、通話を終えた。

「よし、じゃあおれたちは、改めてこの施設を調べてみよう」


   ◇


 おれたちは改めて、合成生物《キメラ》製造施設を調査してみた。

 複雑な魔力回路が張り巡らされている。フィリアたちの時代なら、これくらいのことは金と労力を惜しまなければできるだろう。しかし、この施設を所有していたウィズダムの存在していた200年以上前の時代では、魔力回路技術は存在せず、魔法が普及し始めた頃だ。

 当時はこれが魔力回路だとも知らずに、ただ超技術だと感じていた。知った今でも、当時でこの技術力は異常だ。

 合成生物《キメラ》技術の開発者である魔王と、ウィズダムは繋がりがあったはずだから、魔王から技術供与でも受けていたのだろう。

 おそらく戦力としての合成生物キメラを自動で量産するための施設だろう。いつの時代から転移してきたのかはわからないが、最低でも数年、最長では200年以上も稼働してきている。

 それだけの期間、どうやって動力を確保しているのか疑問だったが、その答えも見つかった。

 動力は魔力石だが、その確保のために合成生物キメラを利用している。それ専用の合成生物キメラを製造し、空気中の魔素マナを吸収させて体内の魔力石に蓄える。そして、その合成生物キメラを殺処分して、充分に魔力を貯めた魔力石を回収、運用しているのだ。

 魔力の尽きた魔力石は、また合成生物キメラに移植されて、同じことが繰り返される。

 施設を稼働させるためだけに生まれて殺される生物がいるのだ。

 それに思うところはあるが、今は放置するしかない。

 それより……。

 手分けしてひととおり調べてきてから、フィリアが最初に報告してくれた。

「やはり、合成生物キメラをもとに戻せそうな設備は見つかりません」

「そうか……。まあ、これを作ったやつらからすれば、そんな必要はないんだもんね。でも……じゃあ、どうすれば……」

 おれは思わず肩を落としてしまうが、しかしフィリアは視線を落とさない。

「ですが、寿命を伸ばすことならば、できるかもしれません」
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