上 下
141 / 182

第141話 たとえ禁忌であろうと

しおりを挟む
 第3階層奥は他のパーティに任せ、おれたちは第4階層を重点的に探索する。

 徘徊しているのは、基本的には普通の魔物モンスターだ。ネズミ型であったり、大型の蜘蛛であったり、単体での強さはさほどではないが、数で押してくるタイプが多い。

 ときおり広い空間があるものの、ほとんどが通路で構成される第4階層では、数は脅威だ。

 トップエース級のパーティを欠いていた先行調査では、あまり進展がなかったのも頷ける。雪乃たちが出会うまで合成生物キメラと思われる魔物モンスターとの遭遇報告がなかったのはそのためだろう。

 先行調査が済んでいた範囲を越えて探索していくことで、いよいよ合成生物キメラと出くわす。

「みんな注意してくれ。合成生物キメラだ。見た目は狼型だけど、尻尾が蛇になってる。正面からやりあってると、死角から噛まれるよ。たぶん毒を持ってる」

「おぞましい……。誰がこのような合成を……」

 あからさまに嫌悪感を抱くフィリア。そして静かな怒りを見せるのは、ロザリンデだ。

「上級吸血鬼にも悪い子は多いけれど、ここまで命を弄んだりはしないわ。せめて苦しまないように、優しく殺してあげましょう」

「研究のためにも、サンプルを捕獲したいところですが……その余裕はなさそうですね。一条さん、私が前に出ます。その隙に、尻尾を切り落としてください」

 飛び出していく丈二。要請に従い、おれも前へ。

 だが丈二は思ったように相手を抑えられない。合成生物キメラは、ただ複数の生物を合成しただけではない。その能力も、人為的に強化されていることがほとんどだ。

 例に漏れずこの合成生物キメラも、非常に素早く、それでいて硬く、力も強い。丈二の武術をもってしても当てるので精一杯。しかも分厚い毛皮を貫けない。

 合成生物キメラは高い敏捷性を発揮し、狭い通路の壁を走り、天井を跳ねて縦横無尽に攻めてくる。尻尾を使われるまでもなく、丈二は翻弄されてしまう。

 すぐロザリンデが援護に入る。合成生物キメラを見つめ、誘惑テンプテーションを試みる。

「――!? ダメだわ、心がない……! 操りようがないわ!」

「わたくしにお任せを! 津田様、5秒後に全速で後退してください!」

「了解しました!」

 5秒のカウント後、フィリアは集中させた魔力を開放。強力な魔法を発動させる。土や石を自在に変形させる魔法だ。

 丈二は瞬時に効果範囲外へ脱出。合成生物キメラは丈二を追うかに思われたが、魔法を発動させるフィリアに狙いを切り替え突っ込んでくる。

 しかし魔法の効果が出るほうが早い。狭い廊下の上下左右が、鋭い棘に変じて突き出される。さしもの合成生物キメラも、全方位からの攻撃は避けられない。フィリアに到達する前に、複数の棘に貫かれた。

 勝利を確信して、フィリアたちの表情が緩む。

 刹那、おれはフィリアの眼前に剣を振るった。

「――えっ?」

 フィリアが目を丸くしたのは、おれの行動に対してだけではないだろう。

 その瞳には合成生物キメラが映っていた。全身を貫かれてもなお、自らの肉を引きちぎりながらも前進する姿に愕然としたのだ。そして、彼女を狙っていた尻尾の蛇にも。

 おれが尻尾を切り落とすのが一歩遅れていれば、フィリアは猛毒に犯されていた。

 ロザリンデが咄嗟にフィリアの腰を抱いて後退させる。

「この子、自分が死ぬのも恐れないというの!?」

「そう作られてるんだ!」

「くっ、トドメを!」

 丈二の短槍が合成生物キメラの頭部を刺し貫く。同時に、おれが四肢を切断。そしてさらに。

「フィリアさん、火だ! こいつを燃やし尽くすんだ」

「は、はい!」

 指示通り、フィリアが火炎を放射。合成生物キメラを炎上させる。

「――よし。ここまでやれば、いいはずだ」

 丈二は脳を狙って頭部を貫いたが、合成生物キメラの脳がひとつきりとも、頭部にあるとも限らない。

 だから四肢を切断した。そうすれば、もしまだ生きていたとしても、ろくに身動きできないはずだ。

 それでも這って向かってくる恐れがあるので、炎上させた。高熱によるダメージよりも、酸素を奪うことを重視している。いくらなんでも酸素無しで生存はできないはずだ。

 念のため剣を収めず構えて続ける。

 合成生物キメラは予想通り、まだ身動きしたが、四肢の失った上に酸素はない。わずかばかりこちらに向かおうとしたが、そこでやっと力尽きた。

 丈二は今度こそ安堵のため息をついた。

「ここまでやって、ようやく倒せるのですか……」

「ああ、異世界リンガブルームでも合成生物キメラの危険性はよく認識されているよ。こんなの存在しちゃいけないって」

「わたくしの時代では、製造を禁忌とされて久しいです。合成生物キメラ製造は、重罪とされております」

 フィリアの言に、ロザリンデも頷く。

「随分前に、魔王と呼ばれたエルフが開発したのだったわね。その後、技術が流出して悪用する組織が乱立したと聞いたけれど……」

「ああ、おれの仲間にひとり、そういう組織を専門に戦ってる人がいたよ。ただ、あの人の戦い方は、合成生物キメラ退治の参考にはならなかったなぁ」

「『超越の7人スペリオルセブン』のおひとり、『吼拳士』ライラ様のことですね?」

「そう。あの人、普通に強いから合成生物キメラも文字通り粉砕できちゃうんだよね。こっちは大量の魔物モンスターの知識を仕入れて、合成生物キメラの見た目からなにが合成されてるか予測して対処しなきゃいけないのにさ」

 丈二は困ったように唸る。

「となると、一条さんだけが頼りですね。我々の魔物モンスターの知識は、あなたにはとても及ばない……」

「ああ、任せてくれ。って言っても、合成生物キメラだって自然に発生するわけじゃない。製造元を突き止めて停止させれば、もう出てこないはずさ。それに……おれの勘が正しければ、例の日本語を話す人型魔物モンスターの手がかりも、きっとそこで得られるはずだ」

 フィリアは、その意味をすぐに解した。

「タクト様は、あの人型魔物モンスターを、人間と魔物モンスター合成生物キメラだと考えているのですか?」

「確証はないよ。でも……正直そうだと信じたい」

「なぜ、そのような最大の禁忌を?」

「たとえ禁忌であろうと、その技術が、隼人くんの命を救っているかもしれないからさ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】 採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。 ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。 最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。 ――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。 おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ! しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!? モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――! ※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

処理中です...