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第136話 闇冒険者のやつら、ぶっ飛ばしてやる!

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 おれたちは各パーティごとに、第3階層のあちこちで待機した。

 ファルコンが、いつ、どこで襲撃を受けるかわからない以上、一箇所に戦力を集中するよりも、分散して対応するほうが有効だと判断したのだ。

 みんなエース級のパーティだ。第3階層の探索はもとより、並のレベル3パーティ相手なら安心して任せられる。

 本当なら、発見された第4階層の先行調査に向かってもらうべき実力者たちばかりだ。闇冒険者の問題が発生してからは、みんな率先してこちらの対応に回ってくれている。第4階層の先行調査は、準エース級のパーティたちが担当中だ。

「さて、いつもならそろそろの時間だけど……」

 ファルコンの生配信が開始されるまで、おれたちは野営して過ごしている。

 おそらく第3階層に潜む闇冒険者たちも、ファルコンの襲撃に備えて待機しているだろう。

 ダンジョンルーターは量産する際に、スマホを充電できる魔力回路が追加されている。長期間迷宮ダンジョンに潜伏している闇冒険者たちでも、魔力石さえ補充できればネットの情報は得ることができる。

 丈二がそれとなく流してくれたファルコンの出現予報は、彼らを誘き出すいい餌になるはずだ。

「……始まりました。ファルコンさんです」

 ネットを監視してくれていたフィリアが、こちらにスマホを見せてくれる。

「位置はわかる?」

「いえ……第2階層ならともかく、似たような地形ばかりの第3階層では……」

「一条さん、魔力探査に反応は?」

「たくさんあるけど、どれも魔物モンスターの反応っぽいな」

「ファルコンさんも、闇冒険者を見つけられていないようです。こちらも移動しながら、彼を探しましょう」

 フィリアの言う通りに、おれたちは移動する。

 おれは事前に隼人と打ち合わせ済みなのだが、位置までは決められていない。闇冒険者たちの潜伏場所までは把握できていなかったからだ。

 隼人にはいつも通りに闇冒険者を探してもらい、時折、自分の位置のヒントを口にしてもらうように決めた。実際、配信の中でファルコンは、向かう方向や地形について何度も言ってくれている。

 だがそれでも特定しきれない。第3階層のマップとにらめっこして、なんとか二択へ絞り込む。あとは賭けだ。運に任せ、片方の候補へ向かう。

 やがてフィリアが、生配信に映った背景に反応する。

「……! ここならわかります。葛城様たちが、生配信で火蜥蜴サラマンダーと戦った場所です! ですが、待ち伏せです!」

 ファルコンは大勢の闇冒険者と対峙していた。少なく見ても20人以上。まだ逮捕されていない手配中の闇冒険者がほぼすべて集結したのではなかろうか。

「しまった、逆方向か! すぐ他のみんなに連絡を!」

 レベル3以上の相手がこの数だ。さすがの隼人でも危うい。

 メッセージアプリで、ファルコンの位置を一斉に送信。各パーティからすぐ返信がくる。

 雪乃たち『花吹雪』が、最も近い。

『アタシらに任せろ! 闇冒険者のやつら、ぶっ飛ばしてやる!』

『頼む! おれたちも急いでそこへ行く!』


   ◇


 雪乃たちが駆けつけたとき、ファルコンは息を荒げながら、数人目の闇冒険者を打ち倒したところだった。

 しかしすぐ背後から凶刃が迫る。からくも回避するが、体勢が崩れてしまう。続く一撃も防御するが、受け止めきれない。鮮血が飛び散る。浅い。相手の勢いは止まらない。

 そのまま押し切られそうなところに、雪乃は飛び出した。

「くらぇええ!」

 相手の虚を突き、全力の飛び蹴りで迎撃した。まともに食らった闇冒険者は激しく地面を転がり、動かなくなる。

「おい、大丈夫かよファルコン!? まだやれんのか?」

「……雪乃先生――ええ、これくらいなら、まだまだ!」

 雪乃たち『花吹雪』の合流に、闇冒険者たちは包囲を立て直した。

「おい、こいつらレベル4パーティの『花吹雪』だぜ。どうする?」

「それがどうした。こっちは数がいるんだ。とっとと叩き潰して、お楽しみといこうぜ!」

「おおよ! 気の強え女をヒイヒイ言わせるのはたまんねーからなぁ!」

 下卑た笑みで雪乃を見据える闇冒険者たち。

「ああ? や、ヤれるもんならヤってみやがれ! てめえらに貞操くれてやるほど安い女じゃねーぞ!」

 一瞬、地上で襲われた日の恐怖が頭をよぎるが、それを上回る怒りで啖呵を切る。

 次の瞬間、雪乃より早くファルコンが、笑った闇冒険者たちに斬り込んでいた。まるで怒っているように。

 それに呼応して、雪乃を含む『花吹雪』3人も展開する。

 彼女らは、火蜥蜴サラマンダー戦でもそうだったが、明確な役割分担をしていない。それゆえ型にハマった強さを持たず、単体で強力な敵には遅れを取ってしまった。

 しかし、多数の敵を相手にするこの状況は、『花吹雪』の得意とするところだ。

 バラバラに遊撃し、独自に判断して臨機応変に連携する。メンバーひとりひとりが、どんな状況にも対応できる高い総合力を持つゆえに可能な戦法だ。

 互いを知り尽くした『花吹雪』の連携の前には、にわか仕込みの闇パーティの連携など無に等しい。

 そしてファルコンは、その『花吹雪』に当然のようについてくる。雪乃たちもまた、それが当たり前だとわかっている。

 配信の中で見せた動き。ちょっとした仕草。喋り方。不在となる時間帯。下手くそなごまかし。普段から濃密な連携をこなす『花吹雪』だ。彼の正体がわからないわけがない。

 順調に闇冒険者をなぎ倒していく雪乃たちだが、さすがにこの数はきつい。だんだんと息が上がっていく。浅い傷も増えていく。

 だが勝利は間違いない。仲間たちもここに集結するのだ。もう少しこらえればいい。

 そのとき、新たな気配があった。仲間たちがいるどの方向とも違う。敵の増援かと焦るが、どうやらそれも間違いのようだ。

 気配の主たちは、この奥、第4階層のほうからやってきたのだ。

「うわ、なにこの状況? えっ、ファルコン!?」

 どうやら帰還途中の先行調査パーティらしい。運の良いことに、雪乃の友人だ。

梨央りお! 手ぇ貸せ! こいつら闇冒険者だ! ここでぶっ倒さねえと!」

「え、わ、わかった! 今行くよ!」

 梨央のパーティは、雪乃の背後を守るように展開する。『花吹雪』には劣るが、梨央たちだってレベル4パーティだ。これで背中の心配はもういらない。

 そう確信していたからこそ、雪乃には梨央の次の行動が予測できなかった。

「言われた通り、ぶっ倒しちゃおうか、な!」

「え……っ?」

 梨央の剣が、ファルコンを背中から刺し貫いていた。

「な、なにしてんだてめぇええーー!!」
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