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第127話 闇サイトだって?

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 男たちは5人。みんな覆面で顔を隠していた。

 その中のふたりが雪乃を捕え続け、残りの3人は戸惑いつつもナイフを抜く。刃をこちらに向けての威嚇行動だ。

 へっぴり腰で、刃先も震えている。人に刃物を向けるのも初めての輩なのだろう。

 当然、そんなやつらに怯むおれじゃない。

 ずんずんと前進していけば、相手は勝手に後ずさっていく。

「雪乃ちゃんを離せ!」

 よく見れば、雪乃の服は破られ、露わにされた黒い下着も脱げかけている。顔には殴られたような痕もある。今は必死でこらえているが、瞳は潤み、今にも泣き出しそうだ。

 その表情を見たとき、おれの中で穏便に済ませる選択肢は消えた。

 手近なところにいた男に一気に踏み込む。その腕を一瞬で捻り上げ、ナイフを奪う。ナイフの柄で、こめかみを強打。失神させ、地面に放り捨てる。

 すると他のふたりは怯えて顔を見合わせた。指示を仰ぐように、雪乃を捕えているふたりに目線を送る。指示役と思わしき男は、「食い止めろ」とばかりに大げさに手を振る。

 ふたりは首を振り、おれを一度だけ見ると、背中を向けて逃げ出した。

 戻れ! とばかりに手を伸ばす指示役だが、次の瞬間にはおれの飛び膝蹴りを顔面で味わっていた。鼻血を噴きながらぶっ倒れる。

 残されたひとりは雪乃をこちらに放って、逃走。ワゴン車へ乗り込む。

 雪乃を受け止めたためワンテンポ遅れる。ワゴン車には、運転役が待機していたのか、すぐに発進してしまう。

 迷宮ダンジョンの中なら、余裕で追いつける速度だが、残念ながらここは地上。見送るしかない。

「フィリアさん」

 呼びかけると、フィリアはこちらにスマホを見せて頷く。

「はい。一連の動きは録画しておきました。残念ながら自動車のナンバーは映せませんでしたが……」

「それはおれが見て記憶しておいた。それより、雪乃ちゃん。大丈夫?」

 おれは上着を脱いで、雪乃に羽織わせる。

 雪乃は安心感からか、せきを切ったようにボロボロと泣き出した。顔を歪め、しゃくりあげながら、何度も何度も手で涙を拭う。けれど涙は途切れることはない。

「うっ、ぐっ、ちくしょう……。ひぐっ、ちくしょお……っ、ちくしょお……」

 彼女の衣類の様子を見れば、状況は明らかだ。あの5人は、彼女に乱暴するつもりで襲ったのだ。あのワゴン車に乗せられていたら、どうなっていたことか。想像もしたくない。

 雪乃は強い。彼女の率いるパーティ『花吹雪』はトップクラスの実力派であるし、彼女自身もほぼレベル4だ。レベル1冒険者なら10人が束になっても傷ひとつつけられないだろう。

 でもそれは、魔素マナで強化される迷宮ダンジョン内での話だ。

 地上では、どうしても体格差で男には力負けしてしまう。複数人で襲われたら、どうしようもない。

 おれみたいに実戦経験が豊富なら、魔素マナの強化がなくても軽くあしらえただろうが、雪乃はまだその域にはない。

 力で勝る複数人に、なすすべもなく蹂躙されるのは、どれだけの恐怖だったろう。どれだけ傷つけられたことだろう……。

 雪乃のケアは同性のフィリアに任せ、おれは警察に連絡する。

 おれが倒した男2名は逮捕され、おれたちも事情聴取を受けることになる。

 これはフィリアが撮影していた動画が、良い説明材料になった。

 そして、逮捕された男たちの素顔は、おれたち3人ともに見覚えがあった。

 新人の冒険者だ。

 おれは驚きはしなかった。

 彼らと対峙したとき、おれは最初、この町で活動する反社会的勢力かと疑った。かつてフィリアに絡んだり、華子婆さんに暴利で金を貸したりしていた連中かと。

 だが、あの素人っぽさから、すぐ訓練中の新人冒険者を連想した。

 そもそも奪い取ったナイフは、新人冒険者も含めて幅広く人気の、ラビットエッジの刃を使ったナイフだった。それを所持していた時点で、冒険者である可能性はかなり高かった。

 しかし、相手が冒険者だとして、なぜ雪乃が襲われる?

 生配信で感じの悪いシーンが映ってしまったことはあるが、それで誰かに襲われるほどの恨みを買ってしまったとでもいうのか?

 その疑問の答えは、数日後、丈二経由で聞かされた。

「闇サイトだって?」

 第2階層の宿、会議室にて。集められたおれ、フィリア、雪乃を前にして丈二は確かに「闇サイト」と言った。

「ええ。最近、正式にリリースしたギルドアプリがありますでしょう? 依頼の発注や受注、報酬のやり取りを簡単にできるようにしたものです」

 便利なアプリではあるが、おれはあまり使っていない。

 依頼通知が良く来るが、新人冒険者が動画配信するからコラボしてくれという依頼だらけで、辟易してしまったからだ。

「闇サイトは、そのアプリの画面構成や、システムを真似て作られています。ただ、本家ならシステムで弾かれる、犯罪を依頼することもできてしまうのです。というより、それが目的で作られたと考えるのが自然でしょうか」

「じゃあ、雪乃ちゃんを襲うように誰かが依頼を出していた?」

 丈二は苦しそうに頷く。

「例のふたりの自供によれば。実際、彼らのスマホには依頼を受けた履歴が残っていました」

「闇サイト専門の冒険者パーティだったのか」

「いえ、どうやらそうではないようです。彼らに限らず、闇サイトの依頼では、受注した者たちが実行当日に初めて会って組むということが珍しくないそうです」

「顔も名前も知らないまま、いきなり組むのかい?」

「犯罪をおこなうには、互いの素性を知らないほうがやりやすいのでしょう。初めのうちは、かわいいものでしたが、だんだんとエスカレートしてきているようです」

 丈二の調べによると、初期の頃は魔物モンスターの遺体写真だとか、迷宮ダンジョン素材武器の細部までを見せる動画が欲しいといった依頼ばかりだったそうだ。冒険者ではない一般人が、興味本位で依頼していたのだろう。

 それがやがて、女性冒険者の写真を求める依頼が出始めた。第1階層の『初心者の館』で指導する紗夜や結衣の盗撮写真などもあったという。中にはパンチラ写真を所望する依頼もあり、達成済みになってしまっていた。

 そして、より過激なものが求められるようになる。入浴写真や着替え写真なら、まだいい。いわゆるハメ撮り動画を、高額で依頼するものさえあった。

 ユイちゃんネルの生配信にいた、感じの悪かった女冒険者が、泣きながら犯されて謝ってる姿が見たい……と。

 それで雪乃は襲われたのだ。

「……叩き潰そう。そんなサイト」

 おれは怒りのまま決意を口にした。
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