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第123話 【生配信回】ユイちゃんネルの第3階層攻略③

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 紗夜の放った矢に側頭部を貫かれた火蜥蜴サラマンダーは、ずぅん! と横に倒れた。

「はぁ、はぁ……」

 武器を変身させるのに魔力を消耗しきったのか、紗夜の変身は解ける。弓を引き絞るのに体力も使ったらしく、呼吸も上がっている。それでもまだ火蜥蜴サラマンダーを睨みつけている。

"……やったか!?"

"↑やってないフラグ立てんな"

"マジカルサヨちゃんかっこかわいい!"

"いい冒険を見せてもらった"[¥10000]

"マジカルサヨちゃん推します"[¥8888]

 金髪の女性冒険者も、その場にへたり込んで大きく息をつく。

「ちっ、くそ。やっぱ、やりやがる……」

「紗夜ちゃーん、えへへ……っ、勝利の、ぶい……!」

 結衣もVサインを掲げるが、体力の限界といった様子。地面にぺたんと女の子座りをして、肩を落とす。笑顔を浮かべてはいるが、ちょっとつらそうだ。

"ぶい!"[¥15000]

"ユイちゃんも頑張った!"[¥5000]

"小さい体であのパワーは爽快だね"

"へろへろVサインかわいい"

"かわいいは強い、つまりかわいいは、かわいい"[¥7650]

 紗夜は、ふらふらと結衣のもとに歩み寄る。

「ありがとう、結衣ちゃん。結衣ちゃんがいなきゃ、当てられなかった」

「紗夜ちゃんも、変身してすごい矢を射つの、本当にかっこよかった……。えへへ、好き……」

"ここで百合展開?"

"カメラさんもっと寄って!"

"ん? なんか変な音がしない? おま環?"

"地鳴りみたいな音か?"

"マイクの故障?"

"違うぞ!"

 視聴者たちが指摘する音に、紗夜たちも気付いた。

「地震?」

「ちげーぞ! お前ら武器を構えろ!」

 金髪女性の叫びに、紗夜たちは咄嗟に武具を手に取る。

 そして震源が、奥のほうから近づいてくる。

 大型の爬虫類。四足歩行で俊敏。硬い鱗は生半可な攻撃を弾き、口からは炎を吐く。

「もう、一匹だと……?」

 さらなる火蜥蜴サラマンダーの出現に、金髪女性は唖然とする。

"これは反則だろ"

"フロムゲーじゃねえんだぞ……"

"弱点を狙えばいける?"

"いやもうそんな体力ないよ!"

"お願い! いくらでも支援するから生き延びて!"[¥50000]

 紗夜は周囲を確認。意識不明が1名。骨折で戦闘不能がもう1名。戦えるメンバーも満身創痍。

「逃げましょう!」

 紗夜は結衣の手を引いて駆け出した。金髪女性も、一瞬遅れてそれに従う。

 だが回り込まれる。仲間を殺されて怒っているのか、凶暴性が増している。すぐさま攻撃を仕掛けてくる。

 咄嗟に結衣が前に出るが、今の状態では踏ん張りも効かない。盾ごと弾き飛ばされてしまう。

 紗夜は火蜥蜴サラマンダーの眼前に光源魔法を放った。目眩ましをして、撤退しようという魂胆だろう。

 だがそれは判断ミスだ。火蜥蜴サラマンダーはもともと視力が悪い。主に舌の感覚器官で周囲の様子を知覚している。目眩ましはほとんど意味がない。

 油断した紗夜は、火蜥蜴サラマンダーの巨体の突進にはね飛ばされた。トラックに衝突したような衝撃だろう。強化された体ゆえ即死は免れたが、紗夜はもう戦闘不能だ。

 残された金髪女性に、火蜥蜴サラマンダーは大きく口を開く。火炎を吐く予備動作。喰らえば確実に死ぬ。だが彼女には、もはや防ぐ手立てはない。

 金髪女性はその場に尻もちをつき、絶望の表情を浮かべた。

「……ごめん、はるくん……ッ」

"誰か助けて!"

"カメラさん! なんとかなんないのカメラさん!"

 言われるまでもない。

 おれは撮影に使っていたスマホをフィリアに放り、魔力を溜めつつ駆ける。

 第3階層の濃い魔素マナは、これまで以上におれに力を与えてくれる。1秒にも満たない時間で、おれは火蜥蜴サラマンダーの前に立ち塞がった。

 吐きつけられた炎に合わせ、左手で魔力を放出する。

「――風撃プレッシャー!」

 強烈な風圧が炎を弾く。そのまま前進。右手で剣を抜く。

 炎が吐きつくされた瞬間、おれは踏み込んだ。火蜥蜴サラマンダーは周囲を確認しようと二股の舌を出していた。それを瞬間的に切り落とす。

 途端に火蜥蜴サラマンダーは悶えた。痛みに加え、重要な感覚器官を失ったのだ。混乱した様子で身じろぎし、たまたまぶつかった仲間の死体を、敵だと勘違いして攻撃を加える始末だ。

 その側頭部に、剣の柄を思い切り叩きつける。脳を激しく揺さぶられた火蜥蜴サラマンダーは、足をふらつかせ、横に転んでしまう。

 振り向いてみれば、金髪の女性冒険者は目を丸くしていた。

「あ……あんた、モンスレ……?」

 すぐ立ち上がって虚勢を張る。涙目で、足はまだ震えている。

「や、やっぱりあんた、美味しいとこだけ持ってくんだな! アタシらだって賞金が必要だってのに、独占しやがって……!」

「いや今回の依頼は、あいつを倒すことじゃない。賞金が欲しいなら君がトドメを刺せばいいよ。今なら簡単だ」

「えっ、あ……? いいのかよ?」

「いいよ。おれたちは、賞金を独占したいわけじゃない。みんなが安全に仕事ができるように、って動いてたら、たまたま独占したみたいになっちゃってたんだ。反省したから、やり方を変えるんだ」

「……そう、かよ。え、遠慮は、しねーかんな」

 おれは剣を鞘に収めて、フィリアたちのほうへ戻っていく。

 フィリアは女性冒険者のほうへスマホカメラを向けていた。たぶん、おれの姿は一度も映していないだろう。

"なんか画面が揺れてるうちにモンスター倒れてる"

"あの感じの悪い女がトドメ刺してんじゃん"

"なにがあった?"

"そんなに強いようには見えなかったけど"

"それより紗夜ちゃんは!? ユイちゃんは!?"

 再びおれがスマホカメラを構える。画面外でフィリアが紗夜と結衣に治療魔法をかける。過保護にならないよう、必要最低限の回復だ。

 紗夜たちが画面に戻ってくる。

"無事だった!"

"良かったぁ"

「ご心配おかけしました。スタッフさんに手当してもらってる間に、あの女の人がやっつけてくれたみたいです」

"こんな短時間で復帰できる手当てってどんな手当てよ"

"治療魔法じゃね?"

"モンスレさんかフィリアさんしか使えないはずだよね?"

"これ、撮影者モンスレさんなんじゃ……"

"だとしたらあのモンスター倒せたのも納得"

 紗夜は笑って誤魔化す。

「え、えーっと、満身創痍ですけど、とりあえず目標のボスモンスターは倒しました! みなさん、応援ありがとうございまーす!」

「今日はもうユイたちボロボロなので終了しますっ。この先の探索は、またの機会にお届けしますね! もし良かったらチャンネル登録お願いしまーす!」

"なんか誤魔化してるっぽいけど、まあいっか!"

"無事で良かった"

"ありがとうモンスレさん、本当にありがとう"[¥50000]

「「ではでは、ばいば~い!」」

"乙~!"

"やっぱ生はスリルが違うね"

"今日も良かった!"
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