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第120話 歩いてるだけでお金が稼げて、すごいです
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「どうやら丈二さんたちは立て込んでるみたいだね。挨拶はまた今度でいいんじゃないかな」
部屋をノックしたり、メッセージアプリで連絡してみても反応がなかった。その旨を紗夜と結衣に伝えたところだ。
「そっかー、津田さん忙しいですもんねー」
「ふたりでイチャイチャしてるだけ……だったりして」
「まさか。こんな昼間からそれはないんじゃない?」
「わかりませんよ? 愛に昼夜は関係ありませんもの」
とかとか雑談しながら、おれとフィリアは紗夜と結衣を各施設に案内していく。
まずはエントランスホール近くの一室。医務室だ。
「お医者さんが常駐してくれてるわけじゃないけど、包帯とか薬とかくらいはある程度用意してあるよ。一応、ベッドも」
説明して部屋の扉を開けたところ、中には先客がいた。怪我人がひとり、それを手当する冒険者がふたり。
「あっ、モンスレさんにフィリアさん!」
「あの! こいつ骨が折れちゃって! 治療魔法お願いします!」
急遽頼まれてしまい、おれとフィリアで治療魔法を施すことになってしまった。診たところ骨折どころではない重傷だったが、ふたりがかりなら、そう時間はかからず回復させてあげられた。
気を取り直して、紗夜と結衣の案内を再開。次は食堂ホールへ。
「食堂と言ってもただテーブルが並んでいるだけです。隣に共同キッチンがあるので、そこで調理したものを食べるための空間ですね。今のところは、冒険者同士の交流のためのスペースです」
とフィリアが、紗夜と結衣に説明している横で、おれはまた他の冒険者に話しかけられていた。
「あの、すげえでかい猪みたいな魔物がいて! 力が強い上に、毛皮が分厚くって全然剣が通んないんすよ! どうやって倒せばいいんすか? これ写真っす!」
「ああ、ラギッドボアか。こいつならお腹の毛皮が比較的薄いから、そこを狙うといいよ。突進中に前足を上手く引っけてやれば、綺麗にひっくり返るから」
冒険者に攻略法を教えている間に、フィリアと紗夜たちは共同キッチンのほうへ移動していた。すぐ追いつく。
「こちらが共同キッチンです。各部屋にも小さなキッチンはついておりますが、こちらではより大火力が使えたり、スペースが広いので持ち込んだ魔物を捌くのにも使えるのですよ」
「ちなみに使用は自由だけど、火に使う魔力石は、自分持ちだよ。あと外から持ち込みやすいように、あっちに勝手口が――」
おれが補足説明を入れたところ、ちょうどその勝手口が開かれた。
獲物を背負った冒険者が入り込んでくる。
「あ、モンスレさん! ちょうど良かった! この魔物、なんか美味そうだから取ってきましたけど、食べられますよね!?」
「……え」
「美味しそう、かな……?」
その魔物を見て、紗夜も結衣も苦笑する。
名前はスラップパイソン。大抵の獲物は丸呑みにする大型のヘビ型魔物だ。
「よく見た目で美味しそうって判断できたね……。いや食べられるし、料理次第で結構美味しくなるけど」
「よっしゃ、美味いんすね! いいレシピ教えて下さいよ!」
こうしておれはまた冒険者に捕まってしまい、フィリアたちに置いていかれてしまった。
かなり時間を食ってしまったが、フィリアは次は大浴場を案内すると言っていたので一応そちらへ向かう。
各部屋にもユニットバスくらいは付いているが、冒険や戦闘で土や血で汚れたまま自室に行くのは抵抗があるだろう。そこで、もともと屋敷にあった浴場を流用することにした。
体だけでなく、装備も洗える設備もあって、なかなか好評だ。
といっても管理する人手が足りないので、一日のうち数時間しか稼働していない。人手の確保は今後の課題だ。
大浴場前に着くと、ちょうどフィリアたちと合流できた。3人とも、顔が上気していて、髪がやや湿っている。ひとっ風呂浴びて、引っ越しの疲れを落としてきたらしい。
それからは売店や、庭の有料野営スペースの説明、グリフィンたちへの顔合わせなどもおこなって、案内を終える。
「どうだった? 結構、いい感じの宿になったでしょ?」
「はい、なんか思った以上に楽しくなりそうです。っていうか、一条先生見てるのが結構面白かったです」
「あはは、ごめんね。慌ただしくって」
「いえ、こういうのも変かもですけど……やっぱり、あたしの先生がみんなに頼りにされてるの、誇らしいっていうか、すごく嬉しいんです」
紗夜の素直な眼差しで言われると、ちょっと照れてしまう。
「さすがギルマス、です。歩いてるだけでお金が稼げて、すごいです」
「ギルドマスターのつもりはないんだけどなー」
とはいえ本当に歩いているだけで頼まれごとがあって、そのたびに治療代や攻略情報代、レシピ代などが舞い込んでくる状況である。
「でも実際、みんなから頼りにされてるから、歩くたびに声をかけられるんですよ。あたしたちみんなの、頼りになるリーダーって気はしますよ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、そう思わない人もいるらしいから、最近はあんまり出しゃばらないようにしてるんだ」
「あ、もしかして武田さん?」
「いや吾郎さんは、吸血鬼退治の辺りから、割と仲良くしてくれてるんだけど……」
結衣が顔を上げる。
「ユイ、知ってます。この前の配信でも、嫌なコメントありました……」
「気にすることないと思います! みんな、一条先生の本当のすごさを知らないから、あんなこと言えるんです」
「大丈夫、そんなに気にしてないよ。むしろ花を持たせてあげたいと思ってるくらいさ」
「それに、攻略報酬よりも、こうしているほうがずいぶん稼げておりますから」
にこにこ笑顔でフィリアが補足してくれるが、紗夜の表情は晴れない。
「でもあたしは、先生が悪く言われるのはやだなぁ……」
「なら……モンスレさんが、いてくれて良かったって思えるシーンを撮るのは、どう?」
「あ、それいいかも!」
結衣の提案に、紗夜はなにか思いついたらしい。
「あの、先生! いつもの稼ぎよりは悪くなっちゃうかもしれませんけど、あたしからの依頼、受けてくれませんか?」
部屋をノックしたり、メッセージアプリで連絡してみても反応がなかった。その旨を紗夜と結衣に伝えたところだ。
「そっかー、津田さん忙しいですもんねー」
「ふたりでイチャイチャしてるだけ……だったりして」
「まさか。こんな昼間からそれはないんじゃない?」
「わかりませんよ? 愛に昼夜は関係ありませんもの」
とかとか雑談しながら、おれとフィリアは紗夜と結衣を各施設に案内していく。
まずはエントランスホール近くの一室。医務室だ。
「お医者さんが常駐してくれてるわけじゃないけど、包帯とか薬とかくらいはある程度用意してあるよ。一応、ベッドも」
説明して部屋の扉を開けたところ、中には先客がいた。怪我人がひとり、それを手当する冒険者がふたり。
「あっ、モンスレさんにフィリアさん!」
「あの! こいつ骨が折れちゃって! 治療魔法お願いします!」
急遽頼まれてしまい、おれとフィリアで治療魔法を施すことになってしまった。診たところ骨折どころではない重傷だったが、ふたりがかりなら、そう時間はかからず回復させてあげられた。
気を取り直して、紗夜と結衣の案内を再開。次は食堂ホールへ。
「食堂と言ってもただテーブルが並んでいるだけです。隣に共同キッチンがあるので、そこで調理したものを食べるための空間ですね。今のところは、冒険者同士の交流のためのスペースです」
とフィリアが、紗夜と結衣に説明している横で、おれはまた他の冒険者に話しかけられていた。
「あの、すげえでかい猪みたいな魔物がいて! 力が強い上に、毛皮が分厚くって全然剣が通んないんすよ! どうやって倒せばいいんすか? これ写真っす!」
「ああ、ラギッドボアか。こいつならお腹の毛皮が比較的薄いから、そこを狙うといいよ。突進中に前足を上手く引っけてやれば、綺麗にひっくり返るから」
冒険者に攻略法を教えている間に、フィリアと紗夜たちは共同キッチンのほうへ移動していた。すぐ追いつく。
「こちらが共同キッチンです。各部屋にも小さなキッチンはついておりますが、こちらではより大火力が使えたり、スペースが広いので持ち込んだ魔物を捌くのにも使えるのですよ」
「ちなみに使用は自由だけど、火に使う魔力石は、自分持ちだよ。あと外から持ち込みやすいように、あっちに勝手口が――」
おれが補足説明を入れたところ、ちょうどその勝手口が開かれた。
獲物を背負った冒険者が入り込んでくる。
「あ、モンスレさん! ちょうど良かった! この魔物、なんか美味そうだから取ってきましたけど、食べられますよね!?」
「……え」
「美味しそう、かな……?」
その魔物を見て、紗夜も結衣も苦笑する。
名前はスラップパイソン。大抵の獲物は丸呑みにする大型のヘビ型魔物だ。
「よく見た目で美味しそうって判断できたね……。いや食べられるし、料理次第で結構美味しくなるけど」
「よっしゃ、美味いんすね! いいレシピ教えて下さいよ!」
こうしておれはまた冒険者に捕まってしまい、フィリアたちに置いていかれてしまった。
かなり時間を食ってしまったが、フィリアは次は大浴場を案内すると言っていたので一応そちらへ向かう。
各部屋にもユニットバスくらいは付いているが、冒険や戦闘で土や血で汚れたまま自室に行くのは抵抗があるだろう。そこで、もともと屋敷にあった浴場を流用することにした。
体だけでなく、装備も洗える設備もあって、なかなか好評だ。
といっても管理する人手が足りないので、一日のうち数時間しか稼働していない。人手の確保は今後の課題だ。
大浴場前に着くと、ちょうどフィリアたちと合流できた。3人とも、顔が上気していて、髪がやや湿っている。ひとっ風呂浴びて、引っ越しの疲れを落としてきたらしい。
それからは売店や、庭の有料野営スペースの説明、グリフィンたちへの顔合わせなどもおこなって、案内を終える。
「どうだった? 結構、いい感じの宿になったでしょ?」
「はい、なんか思った以上に楽しくなりそうです。っていうか、一条先生見てるのが結構面白かったです」
「あはは、ごめんね。慌ただしくって」
「いえ、こういうのも変かもですけど……やっぱり、あたしの先生がみんなに頼りにされてるの、誇らしいっていうか、すごく嬉しいんです」
紗夜の素直な眼差しで言われると、ちょっと照れてしまう。
「さすがギルマス、です。歩いてるだけでお金が稼げて、すごいです」
「ギルドマスターのつもりはないんだけどなー」
とはいえ本当に歩いているだけで頼まれごとがあって、そのたびに治療代や攻略情報代、レシピ代などが舞い込んでくる状況である。
「でも実際、みんなから頼りにされてるから、歩くたびに声をかけられるんですよ。あたしたちみんなの、頼りになるリーダーって気はしますよ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、そう思わない人もいるらしいから、最近はあんまり出しゃばらないようにしてるんだ」
「あ、もしかして武田さん?」
「いや吾郎さんは、吸血鬼退治の辺りから、割と仲良くしてくれてるんだけど……」
結衣が顔を上げる。
「ユイ、知ってます。この前の配信でも、嫌なコメントありました……」
「気にすることないと思います! みんな、一条先生の本当のすごさを知らないから、あんなこと言えるんです」
「大丈夫、そんなに気にしてないよ。むしろ花を持たせてあげたいと思ってるくらいさ」
「それに、攻略報酬よりも、こうしているほうがずいぶん稼げておりますから」
にこにこ笑顔でフィリアが補足してくれるが、紗夜の表情は晴れない。
「でもあたしは、先生が悪く言われるのはやだなぁ……」
「なら……モンスレさんが、いてくれて良かったって思えるシーンを撮るのは、どう?」
「あ、それいいかも!」
結衣の提案に、紗夜はなにか思いついたらしい。
「あの、先生! いつもの稼ぎよりは悪くなっちゃうかもしれませんけど、あたしからの依頼、受けてくれませんか?」
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