上 下
120 / 182

第120話 歩いてるだけでお金が稼げて、すごいです

しおりを挟む
「どうやら丈二さんたちは立て込んでるみたいだね。挨拶はまた今度でいいんじゃないかな」

 部屋をノックしたり、メッセージアプリで連絡してみても反応がなかった。その旨を紗夜と結衣に伝えたところだ。

「そっかー、津田さん忙しいですもんねー」

「ふたりでイチャイチャしてるだけ……だったりして」

「まさか。こんな昼間からそれはないんじゃない?」

「わかりませんよ? 愛に昼夜は関係ありませんもの」

 とかとか雑談しながら、おれとフィリアは紗夜と結衣を各施設に案内していく。

 まずはエントランスホール近くの一室。医務室だ。

「お医者さんが常駐してくれてるわけじゃないけど、包帯とか薬とかくらいはある程度用意してあるよ。一応、ベッドも」

 説明して部屋の扉を開けたところ、中には先客がいた。怪我人がひとり、それを手当する冒険者がふたり。

「あっ、モンスレさんにフィリアさん!」

「あの! こいつ骨が折れちゃって! 治療魔法お願いします!」

 急遽頼まれてしまい、おれとフィリアで治療魔法を施すことになってしまった。診たところ骨折どころではない重傷だったが、ふたりがかりなら、そう時間はかからず回復させてあげられた。

 気を取り直して、紗夜と結衣の案内を再開。次は食堂ホールへ。

「食堂と言ってもただテーブルが並んでいるだけです。隣に共同キッチンがあるので、そこで調理したものを食べるための空間ですね。今のところは、冒険者同士の交流のためのスペースです」

 とフィリアが、紗夜と結衣に説明している横で、おれはまた他の冒険者に話しかけられていた。

「あの、すげえでかい猪みたいな魔物モンスターがいて! 力が強い上に、毛皮が分厚くって全然剣が通んないんすよ! どうやって倒せばいいんすか? これ写真っす!」

「ああ、ラギッドボアか。こいつならお腹の毛皮が比較的薄いから、そこを狙うといいよ。突進中に前足を上手く引っけてやれば、綺麗にひっくり返るから」

 冒険者に攻略法を教えている間に、フィリアと紗夜たちは共同キッチンのほうへ移動していた。すぐ追いつく。

「こちらが共同キッチンです。各部屋にも小さなキッチンはついておりますが、こちらではより大火力が使えたり、スペースが広いので持ち込んだ魔物モンスターさばくのにも使えるのですよ」

「ちなみに使用は自由だけど、火に使う魔力石は、自分持ちだよ。あと外から持ち込みやすいように、あっちに勝手口が――」

 おれが補足説明を入れたところ、ちょうどその勝手口が開かれた。

 獲物を背負った冒険者が入り込んでくる。

「あ、モンスレさん! ちょうど良かった! この魔物モンスター、なんか美味そうだから取ってきましたけど、食べられますよね!?」

「……え」

「美味しそう、かな……?」

 その魔物モンスターを見て、紗夜も結衣も苦笑する。

 名前はスラップパイソン。大抵の獲物は丸呑みにする大型のヘビ型魔物モンスターだ。

「よく見た目で美味しそうって判断できたね……。いや食べられるし、料理次第で結構美味しくなるけど」

「よっしゃ、美味いんすね! いいレシピ教えて下さいよ!」

 こうしておれはまた冒険者に捕まってしまい、フィリアたちに置いていかれてしまった。

 かなり時間を食ってしまったが、フィリアは次は大浴場を案内すると言っていたので一応そちらへ向かう。

 各部屋にもユニットバスくらいは付いているが、冒険や戦闘で土や血で汚れたまま自室に行くのは抵抗があるだろう。そこで、もともと屋敷にあった浴場を流用することにした。

 体だけでなく、装備も洗える設備もあって、なかなか好評だ。

 といっても管理する人手が足りないので、一日のうち数時間しか稼働していない。人手の確保は今後の課題だ。

 大浴場前に着くと、ちょうどフィリアたちと合流できた。3人とも、顔が上気していて、髪がやや湿っている。ひとっ風呂浴びて、引っ越しの疲れを落としてきたらしい。

 それからは売店や、庭の有料野営スペースの説明、グリフィンたちへの顔合わせなどもおこなって、案内を終える。

「どうだった? 結構、いい感じの宿になったでしょ?」

「はい、なんか思った以上に楽しくなりそうです。っていうか、一条先生見てるのが結構面白かったです」

「あはは、ごめんね。慌ただしくって」

「いえ、こういうのも変かもですけど……やっぱり、あたしの先生がみんなに頼りにされてるの、誇らしいっていうか、すごく嬉しいんです」

 紗夜の素直な眼差しで言われると、ちょっと照れてしまう。

「さすがギルマス、です。歩いてるだけでお金が稼げて、すごいです」

「ギルドマスターのつもりはないんだけどなー」

 とはいえ本当に歩いているだけで頼まれごとがあって、そのたびに治療代や攻略情報代、レシピ代などが舞い込んでくる状況である。

「でも実際、みんなから頼りにされてるから、歩くたびに声をかけられるんですよ。あたしたちみんなの、頼りになるリーダーって気はしますよ」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、そう思わない人もいるらしいから、最近はあんまり出しゃばらないようにしてるんだ」

「あ、もしかして武田さん?」

「いや吾郎さんは、吸血鬼ヴァンパイア退治の辺りから、割と仲良くしてくれてるんだけど……」

 結衣が顔を上げる。

「ユイ、知ってます。この前の配信でも、嫌なコメントありました……」

「気にすることないと思います! みんな、一条先生の本当のすごさを知らないから、あんなこと言えるんです」

「大丈夫、そんなに気にしてないよ。むしろ花を持たせてあげたいと思ってるくらいさ」

「それに、攻略報酬よりも、こうしているほうがずいぶん稼げておりますから」

 にこにこ笑顔でフィリアが補足してくれるが、紗夜の表情は晴れない。

「でもあたしは、先生が悪く言われるのはやだなぁ……」

「なら……モンスレさんが、いてくれて良かったって思えるシーンを撮るのは、どう?」

「あ、それいいかも!」

 結衣の提案に、紗夜はなにか思いついたらしい。

「あの、先生! いつもの稼ぎよりは悪くなっちゃうかもしれませんけど、あたしからの依頼、受けてくれませんか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【完結】悪気がないかどうか、それを決めるのは私です

楽歩
恋愛
「新人ですもの、ポーションづくりは数をこなさなきゃ」「これくらいできなきゃ薬師とは言えないぞ」あれ?自分以外のポーションのノルマ、夜の当直、書類整理、薬草管理、納品書の作成、次々と仕事を回してくる先輩方…。た、大変だわ。全然終わらない。 さらに、共同研究?とにかくやらなくちゃ!あともう少しで採用されて1年になるもの。なのに…室長、首ってどういうことですか!? 人見知りが激しく外に出ることもあまりなかったが、大好きな薬学のために自分を奮い起こして、薬師となった。高価な薬剤、効用の研究、ポーションづくり毎日が楽しかった…はずなのに… ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))中編くらいです。

二人目の妻に選ばれました

杉本凪咲
恋愛
夫の心の中には、いつまでも前妻の面影が残っていた。 彼は私を前妻と比べ、容赦なく罵倒して、挙句の果てにはメイドと男女の仲になろうとした。 私は抱き合う二人の前に飛び出すと、離婚を宣言する。

カフェノートで二十二年前の君と出会えた奇跡(早乙女のことを思い出して

なかじまあゆこ
青春
カフェの二階でカフェノートを見つけた早乙女。そのノートに書かれている内容が楽しくて読み続けているとそれは二十二年前のカフェノートだった。 そして、何気なくそのノートに書き込みをしてみると返事がきた。 これってどういうこと? 二十二年前の君と早乙女は古いカフェノートで出会った。 ちょっと不思議で切なく笑える青春コメディです。それと父との物語。内容は違いますがわたしの父への思いも込めて書きました。 どうぞよろしくお願いします(^-^)/

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

心が読める令嬢は冷酷非道?な公爵様に溺愛されました

光子
恋愛
亡くなった母の代わりに、後妻としてやって来たお義母様と、連れ子であるお義姉様は、前妻の子である平凡な容姿の私が気に食わなかった。 新しい家族に邪魔者は不要だと、除け者にし、最終的には、お金目当てで、私の結婚を勝手に用意した。 ーー《アレン=ラドリエル》、別名、悪魔の公爵ーー  敵味方関係無く、自分に害があると判断した者に容赦なく罰を与え、ある時は由緒正しい伯爵家を没落させ、ある時は有りもしない罪をでっち上げ牢獄に落とし、ある時は命さえ奪うーーー冷酷非道、血も涙も無い、まるで悪魔のような所業から、悪魔の公爵と呼ばれている。  そんな人が、私の結婚相手。 どうせなら、愛のある結婚をして、幸せな家庭を築いてみたかったけど、それももう、叶わない夢……。 《私の大切な花嫁ーーー世界一、幸せにしよう》 「え……」 だけど、彼の心から聞こえてきた声は、彼の噂とは全く異なる声だった。 死んでしまったお母様しか知らない、私の不思議な力。  ーーー手に触れた相手の心を、読む力ーーー 素直じゃない口下手な私の可愛い旦那様。 旦那様が私を溺愛して下さるなら、私も、旦那様を幸せにしてみせます。 冷酷非道な旦那様、私が理想的な旦那様に生まれ変わらせてみせます。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。魔物もいます。魔法も不思議な力もあります。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

愛されなければお飾りなの?

まるまる⭐️
恋愛
 リベリアはお飾り王太子妃だ。  夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。 そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。  ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?   今のところは…だけどね。  結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。

処理中です...