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第110話 第3階層が見つかったのかい?

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「たくさん来るとは思ってたけど、まさかここまでとはね」

「はい……。今日はミリアム様と早見様に会いにいくつもりでしたが、明日以降になりそうですね」

 例の動画を公開してからまだ一晩明けたばかりだというのに、求人募集には相当の応募があったのだ。

 特に人気なのは、定員2名予定のグリフィン騎乗者。

 他に募集している宿の管理人、売店店員についても、質問がたくさん届いている。これらを処理するために、おれとフィリアは、今朝からプレハブ事務所にこもりっきりだ。

 丈二や美幸は、どうやら第2階層の大規模調査で動きがあったらしく、そちらの対応に忙しくしている。

 こちらも通常業務も含めて、仕事を処理していく。

 数多い質問に対しては回答集を作って、求人票の隣に貼り出した。ネットにもアップして、動画からのリンクで見に行けるようにした。

 やがて質問攻めが落ち着いた頃、おれたちは応募書類をひとつひとつ確認していく。

 まず応募要件を満たすかどうか。これは共通して、レベル2以上の冒険者であることが条件だ。

 なぜなら宿が安全地帯になるとはいえ、護衛もなく第2階層に常駐することになるからだ。特に宿から離れることの多いグリフィン騎乗者は、より危険が伴う。レベル1や、探索者には務まらない。

 しかし、今回の募集には浪漫を感じる者がよほど多いらしい。要件を満たさない応募者が半分近くいた。

 次は応募者のステータスを見ていく。グリフィン騎乗者ならば、不測の事態に対応できるよう、能力値はバランス良く高いほうがいいし、魔法も使えるならさらにいい。

 宿の管理人や売店店員には、そこまでの戦闘力は求めなくていい。強いて言うなら、拠点を防衛する場合を考慮して体力HP抵抗力DEFが高めな人材を優先して残す。

 他にも、普通に履歴書を見たりする。乗馬経験だとか、動物の飼育経験、接客業経験などがあるとポイントが高い。

 ここまでが書類選考。

 次は人柄や、ステータスカードや履歴書に書かれない能力について見ておきたい。

 これは普通の面接に加え、宿まで一緒に来てもらう。迷宮ダンジョンを攻略する様子から判断することにした。

 また、グリフィン騎乗者を志望する人には、実際にグリフィンたちに顔を合わせてみて相性も確認しなければならない。

 書類選考を突破した志望者に連絡をして、面接の日程を決めていく。

 などとやっているうちにも、応募者は増えていく。これらは、またある程度溜まったら一気に処理しよう。

 丈二たちのほうから「第3階層」といった言葉が聞こえてきて、さっきから気になっていたのだ。

 おれは丈二たちに声をかける。

「丈二さん、美幸さん、第3階層が見つかったのかい?」

「ええ。報告を確認する限り、間違いないでしょう」

「なら先行調査が必要だね? 今は宿の件とかで忙しいけど、それが落ち着いたらすぐ――」

「いえ、今回は結構です」

「へっ?」

「今抱えている案件が落ち着くのを待っていては、時間がかかりすぎてしまいます」

「でもおれが先に行って調べたほうが、魔物モンスターの情報は正確だし、対処法も共有できる。危険性はぐっと減るはずだ」

 丈二の隣で、美幸が困ったように眉をひそめた。

「あのね、拓斗くん……実は、前からちょくちょく言われてたんだけど……拓斗くんのパーティだけが、いい仕事を独占してるって思われてるみたいなの」

「どういうことです?」

「魔法講座とか拓斗くんたちしかできないことはいいのよ? でも、第2階層の先行調査のときも、他にもレベル2パーティがいたのに、先に行かせてあげなかったでしょ? この前も迷宮ダンジョン封鎖して、選抜パーティで強敵をやっつけてきたり」

「封鎖は本当の本当に危険な相手だったからですし、それもおれたちが先行調査をしてたからこそ、被害を最小限に食い止められたはずですよ」

「うん、わかってる。でも他の人たちには、それが見えてないから……。稼げる仕事を独占したくて、詭弁を使ってるんだ……なんて言う人もいるみたいなの」

「でもおれは本当に、みんなが安全でいられるようにって……」

「それもわかってるわ。だけど、みんな危険は覚悟の上なの。なのに危険を遠ざけられて、活躍するのは別の人……。嫌な気持ちになるのもわかるでしょう?」

「それは……まあ」

「一応、第2階層については、拓斗くんが最初に見つけたからって優先権がある、ってことにして不満を抑えてたけど……。第3階層が見つかった今、もうその方便は使えないの」

「でも――」

 まだ納得できず、食い下がろうとしたところ。フィリアに優しく肩を叩かれた。

「タクト様、葛城様のときと同じですよ。行き過ぎた庇護は、自立を妨げることになってしまいます。それはいずれ支配に変わってしまいます」

 言われて、かつて紗夜としたやり取りを思い出す。あれは美幸と知り合った日のことだったか。

 おれは親しくなった紗夜に、特に金銭面で甘かった。情報や道具を無償で渡してもいいと思ったのだ。だが紗夜は、ちゃんと自立したいからと断った。さらにフィリアにも諭されて、おれは受け入れた。

 もしおれがあのとき甘やかし続けていたら、紗夜は今ほど成長していなかったかもしれない。下手をしたら、おれの知らないところで死んでいたかもしれない。

「……そっか。おれ、過保護になってたか」

「わかっていただけたようですね」

 丈二に言われて、おれは小さく息をつく。

「ああ、本当は冒険者なんて、生きるも死ぬも自己責任の世界なのに……みんなが大切すぎて見失ってたみたいだ」

「タクト様は、お優しいですから」

「その優しさを捨てろと言っているわけではありませんよ? すでにこちらで先行調査パーティは選別済みです。彼らに助言を与え、適切に導いていただきます」

「それは望むところだ」

「アドバイス料や情報料を取ってもいいですよ」

「いやそれ、下手したら攻略するより儲かるやつじゃん。また文句言われない?」

「いいえ。世の中、意外と実より名が優先されるものです。活躍する者に目を奪われて、誰が一番儲けてるかなんて気にされませんよ」

 丈二の言にフィリアはにっこりと笑う。

「丁度いいではないですか。今は物入りなのですし」

「まあ、そうだね。みんなが納得してくれるなら、稼がせてもらおっか」

 と、話がまとまったところに、ちょうど客が来た。

「一条先生! ちょっとお話いいですかっ?」

「入居者募集と聞いて、来ました……」

 紗夜と結衣のパーティだ。

「おっ、いいね。入居希望者も大歓迎だよ。求人と比べると全然来てなかったけど」
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