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第107話 グリフィンと寝食をともにして

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「これはいいや」

 促されるまま乗ってみると、グリフィンは立ち上がった。視線が一気に高くなって、広く遠くが見渡せる。

 温かい体温と、筋肉の動き、息遣いまでが伝わってくる。体格は違うが、馬に乗ったときの感覚を思い出す。

 おれが感嘆している間に、2匹のメスグリフィンたちもフィリアやロザリンデを背に乗せていた。

「まあ、力強いですね」

「思ったより乗り心地がいいわ」

 ふたりとも騎乗姿がサマになっている。きっと、どちらも乗馬経験があるのだろう。

 オスグリフィンは「ピィイ」と合図の鳴き声を上げると、翼を広げて羽ばたいた。グリフィンの体が浮き上がり、上昇していく。

 こちらを気遣ってくれているのか、乗っていて安定感がある。一応、羽毛の一部を掴ませてもらっているが、そうしなくても振り落とされることはなさそうだ。

 グリフィンはこちらに頭を向けて、「ピィ?」と問うように鳴く。

 おれは周囲を見渡し、遠くに見える屋敷を見つけた。その方向を、背負っていたロッドで指し示す。

 するとグリフィンはそちらへ向かって飛行を開始した。

「おお、はやいはやい」

 加速するにつれて、風切り音で周囲の音や声が聞こえにくくなる。

 フィリアがなにか声を上げていたが、それもろくに聞こえない。

 強い風で目を開けているのもきつく、体温も奪われていく。グリフィンの体が温かくなければ、凍えていたところだ。

 飛行魔法では周囲に防護壁が張られるので、飛行でこういった問題に直面するのは初めてだ。次は対策を考えておかないと……。

 それに馬みたいに、手綱たずななども用意しておいたほうが良さそうだ。

 などと考えているうちに、あっという間に目的地上空に到着。

 そのまま降下し、羽ばたきながら減速。優しく着陸してくれた。

 そしておれが降りやすいように、しゃがんでくれた。

「ありがとう」

 降りたあと、おれはグリフィンを撫でてやる。どうやら首元を撫でられると心地いいらしいので、そこを重点的に。

 フィリアとロザリンデもグリフィンから降りる。

「グリフィンに乗って空を飛ぶのは、なかなか気持ちが良かったわ」

「うぅう……」

 上機嫌にグリフィンを撫でるロザリンデとは正反対に、フィリアは青い顔をしていた。

「怖かったですぅ……寒かったですぅ……」

 とか言いながらスマホを握りしめているあたり、撮影はしていたようだ。さすがの根性だ。

「あはは。まあアニメみたいにはいかないね。次に乗るときは色々準備しとこう」

「はい……。あなたも、ありがとうございました」

 乱れた髪を整えてから、フィリアもグリフィンをねぎらう。

「さて。君たちはここを縄張りにして欲しいんだけど、どうかな?」

 おれは身振り手振りを交えつつ、グリフィンに語りかける。しかし、さすがに意味は通じないようだ。

「ではわたくしたちのほうから行動してみましょう。それで意図は伝わるはずです」

 まだちょっとふらついているフィリアだが、意志は健在だ。

 彼女の言う通り、おれたちはグリフィンの巣作りに必要な木の枝などを拾い集め、屋敷の庭先に積み上げていく。

 やがてグリフィンたちも意図を理解してくれたのか、その枝を使ったり、また別の材料を持ってきたりしながら巣を作り上げていく。

 まだ縄張りだと認知されていないからか、ときどき他の魔物モンスターが現れた。大抵はグリフィンの威嚇で逃げ出していった。逃げないやつは、おれたちとグリフィンたちで一緒に撃退して、食料にしてやった。

 そんな巣作りも半ばのところで、本日の活動は終了。

 グリフィンは作りかけの巣で休み始める。おれたちも一緒に休むものと思っているらしく、巣に入ってくるよう仕草で促してくる。

「いや、おれたちはこっちで休むよ」

 と屋敷のほうを指差す。それから屋敷に入って、グリフィンたちに近い部屋の窓から手を振る。

 そばにいると安心してくれたのか、グリフィンたちは眠り始めた。

 おれたちも部屋で一泊する。ベッドなどは使い物にならないため、相変わらず寝袋だが。

 そうして、グリフィンと寝食をともにして数日。

 巣は完成した。

 グリフィンたちはおれたちが屋敷で寝泊まりすることはしっかり理解してくれて、巣の回りだけでなく屋敷周囲も縄張りと認識して、巡回するようになる。

 これで今回の目的は達成だ。

 最後の仕上げに、とおれたちは3匹のグリフィンに向き合った。

 それぞれに名前も付けてある。オスは『ガンプ』、メスは『オブダ』と『ベルダ』と名付けた。

「ガンプ、オブダ、ベルダ。君たちには、これをあげよう」

 1匹ずつ色違いのスカーフ。これで初見でも見分けがつきやすい。

 それと、ドリームアイの触手の加工品。グリフィンは第2階層最強の魔物モンスターだが、ドリームアイの幻覚には逆らえない。だが、その触手を身に着けていれば、すでにお手付きだと認識されて、狙われることはないのだ。

 スカーフは首元に。ドリームアイの触手も、その側に付けてあげる。

 さらに屋敷の周囲のあちこちに、このグリフィンたちは仲間なので攻撃しないようにと掲示もしてある。

「これでよし……と。じゃあロゼちゃん、おれたちは帰るよ。また近いうちに来るけど、それまで、たまにこの子たちの様子を見てやってね」

「ええ、もちろん」

「でも他の冒険者に姿は見られないようにしてね。君が迷宮ダンジョンでひとりでいるのは不自然だからさ。変な噂が流れたら、丈二さんも大変だし」

「わかったわ。ジョージに迷惑はかけない。万が一のときには、能力を使って切り抜けるわ」

「うん、くれぐれも気をつけてね」

 屋敷に残っていた丈二の血痕は掃除しておいた。

 その際、またロザリンデはその血になにか反応するのではないかと観察していたが、特になにもなかった。

 彼女の吸血衝動が高まっているというのは、やはりおれの杞憂だったのだろうか?

 また今度来たときに様子を見てみよう。

「それじゃあ、ガンプ、オブダ、ベルダ。またね」

 すっかり懐いてくれていた3匹は、しばらくついてきていたが、縄張りを出るところまで来ると、そのまま見送ってくれた。名残惜しそうにこちらを見続けているのが、忠犬めいていて愛らしかった。

「さあ地上に戻ったら忙しいですよ。依頼しなければならないことが目白押しです」

 グリフィンの巣作りをしながら、おれたちは話し合っていたのだ。今後のことについて。

 安全な宿。そして手懐けたグリフィン。これらを使っての商売を。

 もちろんおれたちが直接やるわけじゃない。ギルドの仕事や冒険があって常駐できない以上、他の人に頼むしかない。

「リチャード爺さんが言ってた、稼ぐなら労働者になっちゃいけないってやつだね」

「はい。わたくしたちはお仕事を提供する側になるのです」
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