上 下
90 / 182

第90話 今回の勝利はみんなのものだ

しおりを挟む
 おれがフィリアさんと手を繋いでみんなのもとに戻ってみると、紗夜を中心に、丈二も結衣もはしゃいでいた。

「……なにしてんの君たち?」

 見事な変身を見せていた紗夜は、びくぅっ! と体を跳ねさせて振り返った。

「ち、違うんです、先生! 遊んでたわけじゃないんですっ!」

「ノリノリでポーズ取ってたのに?」

「結衣ちゃんと津田さんにそそのかされたんですよぉ~!」

「ユイ……変身までしかお願いしてない、です」

「私は、一度試してもいいのでは、と提案しただけです」

「いや、君らもノリノリで撮影してるじゃん」

 結衣と丈二は顔を見合わせて、苦笑する。

「ははは。それよりフィリアさん、ご無事でなによりでした」

「はい、ありがとうございます。みなさまのお陰で、無事に戻ってこられました」

「うん、今回の勝利はみんなのものだ。おれひとりじゃ、ここまでできなかった」

「えへへ……ユイも、モンスレさんや武田さんのお陰で、紗夜ちゃんを助けられました」

「ご迷惑をおかけしましたっ」

 深く頭を下げる紗夜である。

「迷惑なんてかけられてないよ。みんなも無事で本当に良かった。ところで吾郎さんは?」

「武田さんは今は寝ちゃってますけど、起きたらきっと喜んでくれると思いますっ」

 といったところで、丈二、紗夜、結衣の視線がおれたちの手のほうに向いた。

「あ、先生……。今度こそおめでとう、ですよね?」

 ちょっと照れるが、フィリアと繋いだ手は離さない。

「あははっ、うん。ありがとう」

 フィリアもはにかみの笑みを浮かべる。

「はい。わたくしたち、お付き合いすることになりました」

「わぁ、おめでとうございますっ!」

 紗夜は大喜びで祝福してくれる。丈二や結衣も、拍手だ。

「いや、そんな騒いでくれなくてもいいっていうか、あははっ、ありがとう」

「ふふっ、こそばゆいです」

「……って、おれたちまではしゃいでどうするのさっ。迷宮ダンジョンなんだから、周辺の警戒はしっかりしとかないとっ」


   ◇


 それからおれたちは、持ち回りで周辺を警戒しつつ、野営に入った。

 拘束中の半下級吸血鬼たちは、回復は始まっているが、完全にもとに戻るにはあと数日はかかりそうな様子だった。

 安全な地上で回復を待ちたいところだが、彼らが魔素マナの欠乏で死亡する可能性もある以上、連れて帰るのはやめたほうが無難だ。

 迷宮ダンジョン内に放置するわけにもいかず、おれたちも近くで寝泊まりすることになったのだ。

 そうして数時間後。毒から復帰した吾郎も加えて、ささやかながら打ち上げを始めた。

 襲ってきた魔物モンスターを返り討ちにして、各々で料理の腕を振るった。ちなみに、吾郎は意外に料理が上手かった。

 食事を囲んで和やかな雰囲気ではあるが、手元に武器を置いて魔物モンスターを警戒し続けなければならない。

「例の吸血鬼ヴァンパイアの屋敷が使えりゃ、少しは気が休まるんだがな」

 肩をすくめる吾郎に、丈二は首を振った。

「あそこはまだ封魔銀ディマナントが漂っていますよ。魔物モンスターは近づかないでしょうが、半下級吸血鬼化した彼らにどんな悪影響があるか……」

「わかってる。せいぜいこの焚き火が、魔物モンスターを遠ざけるのを期待するしかねえな」

「まあまあ、もう少し辛抱すれば帰れるからさ」

 結衣は嬉しそうに頷く。

「はい……。楽しみです。帰ったら、紗夜ちゃんとイチャイチャする、ので」

「イチャイチャじゃなくて、お部屋探しだよっ。も~、すぐ百合営業するんだもん」

 笑ってツッコむ紗夜だが、おれには結衣が本気に見えた。それは言わないでおく。

「みなさんは、帰ったらなにします?」

「いつもと変わらねえな。うちの若えのに説教して、また特訓して迷宮ダンジョンに挑むだけだぜ」

 吾郎の返事に、丈二も続く。

「右に同じですね。やるべき仕事はたくさんあります。特に今回は、厳格に協議すべき件もありますので」

 丈二に向けられた視線で、元素破壊魔法のことだなぁ、と察する。おれは苦笑する。

「おれもそうなっちゃうかな……。でも休みは欲しいなぁ~」

「フィリア先生とイチャイチャするんですね?」

 紗夜に言われて、少し頬が熱くなる。フィリアも照れ隠しに笑う。

「それはもちろんですが……わたくしは、そろそろ新アイテムの販売など商売のアイディアを形にしたいかと。それに動画投稿も。最近は停滞気味でしたので」

 丈二は真面目に頷く。

「確かに、冒険者振興のためにも人気配信者による動画投稿は重要です。それが滞っているのは、よろしくない。今回の吸血鬼ヴァンパイア退治も、ネタは美味しいのに、撮影する余裕がありませんでした。ドローンにでも撮影させるべきでしたか……」

「先行調査のときの動画は、ただの記録映像って感じで面白くはないしねぇ。料理動画は使えそうだけど……さすがにそれだけじゃ飽きられちゃうか」

「ネタなら……美味しいのが、あります」

 結衣は微笑みとともに、紗夜に目を向けた。

「や、やだよっ。あたしの変身動画なんて、封印だからねっ」

 拒否するに紗夜に、フィリアが迫る。

「いいえ、葛城様。大人気間違いなしのネタを捨ててしまうなんて、勿体ありません。ぜひぜひやるべきです」

 丈二も難しい顔をする。

「むしろ、なにがそんなに嫌なのですか?」

 紗夜は自分の衣装に目をやってから唇を尖らせる。

「だってこの衣装、可愛すぎますし。恥ずかしいですし」

「では違う衣装なら問題ない?」

「それは、まあ」

 キラリと結衣の目が光った。

言質げんち、取りました」

「よし。違う衣装で再撮影です。変身能力が消える前に」

「わあ、しまったぁ」

 紗夜が頭を抱える横で、丈二と結衣が軽くハイタッチする。仲良いな。

 吾郎は深くため息をつく。

「ったく。お前ら、人気者なんだからよ、ただ喋ってるだけでもいいんじゃねえか? 生配信でコメントに答えたりよぉ」

「ふむ、いいかもしれません。みなさんとコミュニケーションが取れるとなると、視聴者も集まりそうです。帰ったら企画してみましょう」

「ああ、そういうのは全部戻ってからにしろ。オレは警戒に出るぜ。ごちそうさん」

 さっさと席を立ってしまう。もともとそのつもりで、みんなより早く食べていたのだろう。

 ぶっきらぼうな態度とは裏腹な気遣いに、吾郎の仲間意識が見えた気がして、おれは嬉しかった。


   ◇


 翌日。おれは丈二に請われて探索へ出た。

 ダスティンを消滅させた爆発跡を確認したいというので連れて来たのだが……丈二はそこで、とんでもないものを発見してしまった。

「これは……。なぜ、こんなところに少女が……?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【完結】悪気がないかどうか、それを決めるのは私です

楽歩
恋愛
「新人ですもの、ポーションづくりは数をこなさなきゃ」「これくらいできなきゃ薬師とは言えないぞ」あれ?自分以外のポーションのノルマ、夜の当直、書類整理、薬草管理、納品書の作成、次々と仕事を回してくる先輩方…。た、大変だわ。全然終わらない。 さらに、共同研究?とにかくやらなくちゃ!あともう少しで採用されて1年になるもの。なのに…室長、首ってどういうことですか!? 人見知りが激しく外に出ることもあまりなかったが、大好きな薬学のために自分を奮い起こして、薬師となった。高価な薬剤、効用の研究、ポーションづくり毎日が楽しかった…はずなのに… ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))中編くらいです。

二人目の妻に選ばれました

杉本凪咲
恋愛
夫の心の中には、いつまでも前妻の面影が残っていた。 彼は私を前妻と比べ、容赦なく罵倒して、挙句の果てにはメイドと男女の仲になろうとした。 私は抱き合う二人の前に飛び出すと、離婚を宣言する。

カフェノートで二十二年前の君と出会えた奇跡(早乙女のことを思い出して

なかじまあゆこ
青春
カフェの二階でカフェノートを見つけた早乙女。そのノートに書かれている内容が楽しくて読み続けているとそれは二十二年前のカフェノートだった。 そして、何気なくそのノートに書き込みをしてみると返事がきた。 これってどういうこと? 二十二年前の君と早乙女は古いカフェノートで出会った。 ちょっと不思議で切なく笑える青春コメディです。それと父との物語。内容は違いますがわたしの父への思いも込めて書きました。 どうぞよろしくお願いします(^-^)/

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

心が読める令嬢は冷酷非道?な公爵様に溺愛されました

光子
恋愛
亡くなった母の代わりに、後妻としてやって来たお義母様と、連れ子であるお義姉様は、前妻の子である平凡な容姿の私が気に食わなかった。 新しい家族に邪魔者は不要だと、除け者にし、最終的には、お金目当てで、私の結婚を勝手に用意した。 ーー《アレン=ラドリエル》、別名、悪魔の公爵ーー  敵味方関係無く、自分に害があると判断した者に容赦なく罰を与え、ある時は由緒正しい伯爵家を没落させ、ある時は有りもしない罪をでっち上げ牢獄に落とし、ある時は命さえ奪うーーー冷酷非道、血も涙も無い、まるで悪魔のような所業から、悪魔の公爵と呼ばれている。  そんな人が、私の結婚相手。 どうせなら、愛のある結婚をして、幸せな家庭を築いてみたかったけど、それももう、叶わない夢……。 《私の大切な花嫁ーーー世界一、幸せにしよう》 「え……」 だけど、彼の心から聞こえてきた声は、彼の噂とは全く異なる声だった。 死んでしまったお母様しか知らない、私の不思議な力。  ーーー手に触れた相手の心を、読む力ーーー 素直じゃない口下手な私の可愛い旦那様。 旦那様が私を溺愛して下さるなら、私も、旦那様を幸せにしてみせます。 冷酷非道な旦那様、私が理想的な旦那様に生まれ変わらせてみせます。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。魔物もいます。魔法も不思議な力もあります。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

愛されなければお飾りなの?

まるまる⭐️
恋愛
 リベリアはお飾り王太子妃だ。  夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。 そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。  ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?   今のところは…だけどね。  結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。

処理中です...