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第65話 ニワトリが火を吹くのですか?

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「だいぶ絞ったつもりでしたが、やはりそれなりに大荷物になってしまいましたね」

 迷宮ダンジョン突入してしばらく、丈二は背負ったバックパックを気にしながら言った。

 第1階層の探索なら日帰りもできるから、野営道具などを持ち込む必要はない。が、第2階層はそうはいかない。今回は2週間程度は迷宮ダンジョンに滞在する予定だ。荷物が多くなるのは当然だ。

 迷宮ダンジョン探索では、魔物モンスターとの戦闘に備えるのも重要だが、それ以上に、いかに健康的に過ごせるかがポイントだ。衣食住に関しては妥協できない。

 だから寝袋や調理道具などは、できるだけ質の高い物を用意している。

 他にも着替えを数着。怪我や体調不良に備えての医薬品。破れた衣服を繕うための裁縫道具。塩や胡椒などの調味料などなど。

 一方で、魔法で役割を代替できる道具は持ってきていない。カセットコンロやライトなどがそれだ。

「でもまあ、こっちのキャンプ道具はコンパクトなのもあって、相当少なく出来てるよ。異世界リンガブルームじゃ、これに水や食料を加えると倍くらいの量になっちゃうんだ」

「現代の技術力に感謝ですね」

「やはり一条さんの言う通り、水や食料は現地調達するのが正解でしたか」

「なにが食べられるかの知識がないと、それも難しいけどね。だから異世界リンガブルームでも、荷物のほとんどが食料で埋まってるパーティは多かった」

 水や食料は、緊急用に少量のみ持ち込んでいる。

 第2階層には少なくともエッジラビットがいるし、あれだけ魔物モンスターがいるなら水場も必ずあると見込んでのことだ。

 他には、スマホやモバイルバッテリー、はぐれたとき用のトランシーバーなんかも持ってきている。

 やがて第1階層を抜け、第2階層へ。地下遺跡部分を抜けると、大きな空間へ出た。

 以前に来たときと変わらない、ドーム状の広い空間だ。明るく、植物も生い茂る、町のひとつやふたつ分はありそうな空間。

「まるで外にいるかのようですね。遠くには森や……川らしきものも見えます。話には聞いていましたが、とても地下にいるとは思えない」

 双眼鏡を覗きながら、感嘆の声を上げる丈二だ。

 フィリアも周囲を見渡して、この空間の匂いを胸いっぱいに吸い込む。

「懐かしい匂いがします……。ここは、異世界リンガブルームのどこかを切り取って作られた空間なのでしょうか?」

「それはわからないけど、まずは、どこでもいいから端っこにまで行ってみよう。どうなっているのか確認したい」

 そうしておれたちは、まずは正面方向に進むことにした。途中、森を横切ることになるが、川らしきものもあり、水場として使えるか確認する必要もあったからだ。

 第2階層の魔物モンスターは、事前に把握していたのはグリフィン、ドリームアイ、エッジラビットだ。

 進んでいくとウルフベアの足跡が確認できる。同じ魔物モンスターでも、魔素マナが濃い分強くなっていることだろう。

 各人のバックパックにはドリームアイの触手を吊るしてあり、ドリームアイに襲われる心配はない。魔物モンスター除けも使っているため、少なくとも第1階層にいる魔物モンスターには襲われないだろう。

 だから、襲ってくるとしたらそれ以外の魔物モンスターだ。

 森に入ってから小一時間。順調に進んでいたところに、そいつは現れた。

「丈二さん、後ろだ!」

 いち早く気配を察して、おれは叫んだ。

 丈二は背後を確認する間もなく、その場を飛び退いた。

 火炎が放射され、丈二が直前までいた場所が黒焦げになる。

「――!? ニワトリ?」

「フレイムチキンだ、気が立ってるぞ! 気をつけて!」

 体長は150cm程度。飛行はできないが俊敏で、鋭いくちばしや足の爪を持つ。特筆すべきは名の由来にもなった、火を吹く能力だ。

 すぐバックパックを下ろして戦闘態勢に入る。

 丈二は距離を取り、短槍を構える。

「ニワトリが火を吹くのですか?」

「解説は倒したあとでするよ!」

 フィリアも剣を抜き、フレイムチキンの動きを目で追う。

 フレイムチキンは威嚇の鳴き声を上げつつ、ばさばさと翼を暴れさせ、小刻みに跳ね回っている。剣で戦うにも、魔法で狙うにも、やりづらいだろう。

「さすが素早い……足止めしますか?」

「いや魔力は温存だ。おれに任せて!」

 おれは剣ではなく鞭を手に取った。

 バシィン! とフレイムチキンの移動先へ鞭を叩きつける。フレイムチキンはその音に驚いて転進。おれは同様に、行き先にまた鞭を叩きつける。

 それを何度も繰り返せば、やがてフレイムチキンはおれへの敵愾心を高める。ただでさえ気が立っていたのだ。あっさり誘導に乗り、正面からおれに向かってくる。

 フレイムチキンのくちばしが開く。奥から炎の輝き。

 おれは冷静に、フレイムチキンの頭に真上から鞭の一撃を直撃させた。

 下向きになったくちばしから吐き出された炎は、その先にある自らの胸元に火をつけた。

 ――ゲキョキョー!

 羽毛が激しく燃え上がり、フレイムチキンは炎に包まれる。翼をばたつかせながら暴れ出すが、すぐおれの鞭がその首を拘束した。

 激しく暴れるのを力で制しつつ、鞭を右手から左手に持ち替える。そして右手で剣を抜きつつ接近。首を切断した。

 フレイムチキンの体は、首を失ってもなお暴れたが、すぐに倒れた。周囲に燃え移らないよう、火は消しておく。

「見事なお手並みです。さすがリアルモンスタースレイヤー」

 丈二は関心しつつ、武器を下ろした。

「グリフィンよりだいぶ弱いからね。これくらいなら、レベル2のみんななら普通に倒せるかな? 楽勝とはいかないだろうけど」

「ふむ……。私もレベル2になったばかりですが、単独で倒せたかどうか……」

「津田様は、魔力がお高いですから。基礎魔法を組み合わせれば、倒せない敵ではなかったかと思いますよ」

「やはりそうですか。早くテキストの魔法くらいは網羅したいところですね」

「ところで、どうやらここはあいつの縄張りだったらしいよ」

 おれは周囲を観察してから、ある場所を指し示した。

「巣と、卵がある。これに近づいたから、気が立ってたんだ」

「まあ。そうだったのですね」

「いい機会だ。ここで休憩しよう。縄張りの主が死んだなんてすぐにはわからない。しばらくは、他の魔物モンスターも近づいてこないはずさ」

「では今日の昼食は……」

「もちろん鶏肉料理。でもその前に見せとかないとね。良い物が手に入ったよ」
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