上 下
57 / 182

第57話 ぜひぜひ一緒に盛り上げていきましょう

しおりを挟む
「もちろん、あたしは結衣ちゃんと組みたいです!」

「ユイも、紗夜ちゃんがいいです! パーティ組むと、こんなに戦いやすいなんて知らなかったです!」

「あたしと結衣ちゃんの相性が良かったんだと思う。さすが先生の紹介です、ありがとうございます!」

 ふたり揃って、こちらにお辞儀する。

 やはり聞くまでもなかった。ふたりとも、すでにお互いをパートナーとして認めている。

「うん。こちらも紹介できてよかったよ。ふたりとも気も合うみたいだしね」

「はいっ、ユイ、紗夜ちゃんのこと、大好きになっちゃいました!」

「えへへっ、照れちゃうなぁ。これからもよろしくね、結衣ちゃん!」

「うんっ!」

 それからふたりはカメラに向き直る。

「というわけで、第1階層踏破は大成功! ユイたちの相性も証明されて、パーティは正式結成ですっ! みんなー、応援ありがとー! これからもユイたちのこと、よろしくです!」

 びしっ、と敬礼みたいなポーズを決める。紗夜もそれを真似た。ややぎこちない。

「今日は楽しかったですっ。ありがとうございました!」

 結衣たちの可愛らしい挨拶のあと、フィリアにもカメラを向ける。

「結衣様、紗夜様、おめでとうございます。とても良い冒険でした。ここで冒険者のみなさまにお知らせです。先日通知されている通り、近々、迷宮ダンジョンへは単独での侵入が禁止されます」

 フィリアは虚空に手を上げて示している。あとで編集で、掲示板に貼られた通知書の写真を挿入するつもりなのだろう。

「しかしパーティメンバーが見つからずお困りの方もいらっしゃるでしょう。そんなときは、ぜひとも迷宮ダンジョン前のゲートに併設のプレハブ事務所――通称、冒険者ギルドへご相談ください。パーティメンバーのマッチングサービスを開始しております!」

「あたしたちも、マッチングしてもらったんですよねー?」

「ねー?」

「はい! 今回のように相性を考慮の上、お相手をお探しいたします。ぜひともご利用くださいませ! それでは、今回のところはここまで。お送りいたしましたのは、モンスレチャンネルのフィリアと――」

「通称モンスレさんと――」

「ユイちゃんネルのユイちゃんと――」

「紗夜でしたっ!」

「みなさま、お楽しみいただけましたならチャンネル登録をお忘れなく。そして、ぜひともユイちゃんネルにも足を運んでくださいませ!」

「よろしくお願いしまーす!」

「「「「ばいばーい!」」」」


   ◇


「ふしゅー……」

 撮影終了直後、結衣は気の抜けた声を出して、その場にぺたんと女の子座りをした。

「ユイ……、もう、限界、です……」

 本当に元気がなくなってしまったが、NGを出してしまったときのように落ち込んでいるわけではない。どこか満足げに、頬がゆるんでいる。

「……変じゃ、なかった……ですか?」

 子犬のような上目遣いで尋ねてくる。どうやら素の、弱気で控え目な性格に戻ったようだ。

 すぐ紗夜が向かい合って座る。

「全然、変じゃなかったよ。ちょっとびっくりしたけど……あれが、結衣ちゃんの理想なんだ?」

「……うん。普段からは、まだ無理……だけど、フィリアさんが教えてくれたみたいに、やってみたら……できました……。あの、ありがとう、ございます……」

「いいえ、お役に立てたならなによりです。みなさん、お疲れ様でした」

 フィリアは胸元で手を合わせ、微笑んで答えた。

「みんな、そろそろお腹減ったでしょ? パーティ結成のお祝いに、今からなにか作ってあげるよ。帰るのはそのあとにしようか」

 おれが提案すると、紗夜は嬉しそうに目を輝かせる。

「ありがとうございますっ、先生の料理久しぶりだから楽しみです。あたしも頑張ってるんですけど、先生みたいに美味しくできなくって……」

「割とテキトーな味付けなんだけどね。じゃあ一緒にやってみる?」

「はいっ、ぜひ!」

 そこでピンときたのか、結衣が顔を上げる。

「じゃあ……撮影ですね。モンスレ先生の、お料理教室……。出張版」

「出張版?」

「ユイたちのチャンネルにも、動画、欲しいので……。パーティ結成編の、あとのお話として配信しても、いい、ですか?」

「うん。いいよね、フィリアさん?」

「もちろん。ぜひぜひ一緒に盛り上げていきましょう」

 こうしてまた撮影が始まった。

 今日のメニューは、エッジラビットのロースト。

 フィリアがカメラを担当し、おれが紗夜と結衣に料理を教える流れだ。料理後にはみんなで美味しく食べるシーンを撮って撮影終了。

 そのあと、本当の休憩を取ってから、地上へ帰還した。

 迷宮ダンジョン前のプレハブ事務所に戻ってみると――。

「あっ、おかえりなさーい。お疲れ様ー」

「ただいまです、美幸さん。って、美幸さん? あれ?」

 なぜか美幸が、事務仕事をやっていた。

 そばには丈二がついている。

「末柄さんは、私が事務員にとスカウトしました」

「そうなんだ。でもなんで急に」

「これから第2階層の先行調査もありますが、今回のように、事務所の手が足りないからと置いていかれるのは、もうたくさんですから」

「あはは、今日は悪かったよ。美幸さんも、巻き込んじゃったみたいで、ごめんなさい」

「気にしないで、拓斗くん。私も、ほら、鉱石の買取価格が下がってて、どうしようかなぁ、って思ってたところだったの」

 魔物モンスター除けの普及で、探索者たちは安全に採掘ができるようになった。そのため鉱石は充分に出回り、政府としても研究サンプルは充分となったらしい。

 そして調べたところ、希少金属はごく僅か。ほとんどは迷宮ダンジョン外でも採れる鉄や銅などといった普通の金属であることが判明し、それらの買取価格も大幅に減ったのだ。

 一応、魔素マナをまとっている素材なので、島内の武器製作に需要がある。島外の物ほど安く買い叩かれはしないが、探索者にとってこの減額は痛手だ。

 第2階層には希少金属が多いのではないか、との根拠不明な噂もたっており、第2階層へ行くための護衛を依頼する者もいる。今はまだ時期尚早なので保留にしているが。

「それに、私の場合は冒険者のみんなに恩があるから。みんなのお役に立てるなら、嬉しいなって……」

「それなら良かった。これからよろしくお願いしますね」

「ええ、毎日応援するからね」

「ところで一条さん」

 丈二はおれの背後のいる紗夜や結衣に目を向けた。

「パーティのお試しや、動画撮影のほうはいかがでしたか?」

「どっちもバッチリさ。期待して待っててよ」

 動画タイトルはもう決まっている。

『美少女パーティ発足の軌跡』と『リアルモンスタースレイヤーのお料理教室 出張版』だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【完結】悪気がないかどうか、それを決めるのは私です

楽歩
恋愛
「新人ですもの、ポーションづくりは数をこなさなきゃ」「これくらいできなきゃ薬師とは言えないぞ」あれ?自分以外のポーションのノルマ、夜の当直、書類整理、薬草管理、納品書の作成、次々と仕事を回してくる先輩方…。た、大変だわ。全然終わらない。 さらに、共同研究?とにかくやらなくちゃ!あともう少しで採用されて1年になるもの。なのに…室長、首ってどういうことですか!? 人見知りが激しく外に出ることもあまりなかったが、大好きな薬学のために自分を奮い起こして、薬師となった。高価な薬剤、効用の研究、ポーションづくり毎日が楽しかった…はずなのに… ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))中編くらいです。

二人目の妻に選ばれました

杉本凪咲
恋愛
夫の心の中には、いつまでも前妻の面影が残っていた。 彼は私を前妻と比べ、容赦なく罵倒して、挙句の果てにはメイドと男女の仲になろうとした。 私は抱き合う二人の前に飛び出すと、離婚を宣言する。

カフェノートで二十二年前の君と出会えた奇跡(早乙女のことを思い出して

なかじまあゆこ
青春
カフェの二階でカフェノートを見つけた早乙女。そのノートに書かれている内容が楽しくて読み続けているとそれは二十二年前のカフェノートだった。 そして、何気なくそのノートに書き込みをしてみると返事がきた。 これってどういうこと? 二十二年前の君と早乙女は古いカフェノートで出会った。 ちょっと不思議で切なく笑える青春コメディです。それと父との物語。内容は違いますがわたしの父への思いも込めて書きました。 どうぞよろしくお願いします(^-^)/

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

心が読める令嬢は冷酷非道?な公爵様に溺愛されました

光子
恋愛
亡くなった母の代わりに、後妻としてやって来たお義母様と、連れ子であるお義姉様は、前妻の子である平凡な容姿の私が気に食わなかった。 新しい家族に邪魔者は不要だと、除け者にし、最終的には、お金目当てで、私の結婚を勝手に用意した。 ーー《アレン=ラドリエル》、別名、悪魔の公爵ーー  敵味方関係無く、自分に害があると判断した者に容赦なく罰を与え、ある時は由緒正しい伯爵家を没落させ、ある時は有りもしない罪をでっち上げ牢獄に落とし、ある時は命さえ奪うーーー冷酷非道、血も涙も無い、まるで悪魔のような所業から、悪魔の公爵と呼ばれている。  そんな人が、私の結婚相手。 どうせなら、愛のある結婚をして、幸せな家庭を築いてみたかったけど、それももう、叶わない夢……。 《私の大切な花嫁ーーー世界一、幸せにしよう》 「え……」 だけど、彼の心から聞こえてきた声は、彼の噂とは全く異なる声だった。 死んでしまったお母様しか知らない、私の不思議な力。  ーーー手に触れた相手の心を、読む力ーーー 素直じゃない口下手な私の可愛い旦那様。 旦那様が私を溺愛して下さるなら、私も、旦那様を幸せにしてみせます。 冷酷非道な旦那様、私が理想的な旦那様に生まれ変わらせてみせます。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。魔物もいます。魔法も不思議な力もあります。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

愛されなければお飾りなの?

まるまる⭐️
恋愛
 リベリアはお飾り王太子妃だ。  夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。 そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。  ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?   今のところは…だけどね。  結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。

処理中です...