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第5話 たっぷりとお金を落としていってくださいませ

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「なにしてんのフィリアさん……」

 おれに声をかけてきた客引きは、なぜかメイド服を着たフィリアだった。

 いや、メイドというには少々露出度が高い気がする。すらりと伸びた脚線が綺麗だな。

 彼女は相手がおれだったと気づくと、目を丸くして硬直し、それからみるみると顔を赤くした。

 震える人差し指を、唇に立てる。

「ひ、秘密ですよ?」

「秘密なら堂々と客引きやっちゃダメでしょ」

「あ、貴方こそ、またわたくしの前に現れるなんて……やはりけていらしたのですか? 変質者なのですか?」

「声をかけてきたのは君のほうなんだけど」

 見れば『メイド・イン・だんじょん』という、メイド喫茶? メイドバー? みたいなお店があるらしい。

 この輪宮島りんぐうじまは、冒険者が集まるに連れて、彼ら向けの商売が発展していったわけだが、同時に、本物の迷宮ダンジョン魔物モンスター、冒険者をひと目見ようと観光客もやってくるようになった。

 それら観光客は、ファンタジー作品に憧れる――いわゆるオタク層も多く、彼ら向けのお店も出店していたりする。

 ちなみに、実際に冒険者になるオタク層もそこそこいるらしい。

「うぅ。一条様、どうか今見たことは忘れてください。さもなければ」

 黄色い綺麗な瞳を潤ませながら、真っ赤になった顔を向けてくる。

「わ、わたくしを指名して、たっぷりとお金を落としていってくださいませ……!」

「そう来るか。商魂たくましいなぁ……」

 どうしたものかと考えていると、趣味の悪い柄シャツを着た、人相の悪い男が近づいてきた。

「よ~お、フィリアちゃぁん。今日も客引き? 精が出るねぇ~」

 するとフィリアは急に顔を強張らせた。無表情で、冷たく視線を送る。

「……ごきげんよう」

「こんなお店より、もっと稼げるとこ紹介できるんだけどなぁ~? フィリアちゃんマジ美人だしぃ、絶対大人気で超、超、超儲かっちゃうからさぁ。ねえ、紹介させてよ、ねえ?」

「いりません。お仕事の邪魔ですので、お引取りくださいませ」

「体験入店でもいいからさぁ、まずは1日、いや半日でもいいから。稼ぎ見たらマジ気が変わるってぇ。お客と一緒に気持ちよくなるだけでいいから! マジ高収入だから!」

 どこのヤクザか半グレかは知らないが、新しい土地で商売が発展すれば、こういった輩も現れるものだ。

 異世界で活動していた頃にもよく見かけた。少しばかり懐かしい。あまり気分のいい思い出ではないが、冒険者っぽくなってきたと実感する。

 こういう輩に、おれはいつもこう対処してきた。

「もうやめなよ。あんた、邪魔だって言われてる」

「あぁ!?」

 男はおれを下から睨みつけてきた。

「っせぇなぁ! 今オレが話してんだろうが!」

「あんたより先におれが話してたんだよ」

「知るかボケェ!」

 さっそく激昂した男は、おれの左肩に手のひらを強めに当ててきた。拳じゃないだけまだ冷静だな、とか思いつつ、そのまま突き飛ばされる。

 と、見せかけて、おれは軽く握った右拳を、男の顎先に当てた。

 傍から見れば、いや、男本人でさえ、崩れたバランスを整えようと手を伸ばしたようにしか見えなかっただろう。

「おっとっと」

 おれはわざとらしく転びかけてから体勢を整える。

 一方、男はストンと膝下から崩れ落ちた。脳が激しく揺さぶられて一瞬で気絶したのだ。

 倒れないように受け止めてやり、その辺のゴミ捨て場に寝かせてやる。

「よほど疲れてたのかな? 寝ちゃったよ」

「一条様……」

「せっかくなら、さっきみたいにご主人様って呼んで欲しいな」

 おれは少しばかり意地悪に笑ってみせる。フィリアはキョトンと目を丸くする。

「今、なんと?」

「さすがにこのままさよならじゃ、君も不安でしょ? 言われたとおり指名っていうのしてみるからさ、いっぱいサービスしてよね」

「は、はい……! ありがとうございます!」

 案内された店内は、おれには未知の世界だった。

 異世界の酒場では、特定の女性が常に給仕してくれるようなことは無かったし、メイド服を着ていることもなかった。

 さらにオプションで、色々なサービスをお願いできることもなかった。

 噂には聞いていたが実体験してみると、なかなか趣深い。

「も……萌え萌え、きゅん、です……」

 フィリアもまだ慣れていない様子で、恥ずかしがりながら給仕してくれる様子が非常に可愛くてよろしかった。

 しっかり楽しませてもらってから本題に入る。

「まあ実は、昼の話の続きをするのに、いい機会だと思っただけなんだけどね」

「で、では……この過剰なまでの大盤振る舞いは? 2回も延長されたのは、なんのために……?」

「いや、おれもこういうのは初めてでさ。思ったより面白くて、つい」

 苦笑してから、こほん、と小さく咳払い。言葉を異世界語に切り替えて、声をひそめる。

「気になってたんだけど、君の他にも異世界リンガブルーム人はいるんだよね? なんで君たちのことは報道もされていないんだ?」
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