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第3話 君は異世界人かい?
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「これで登録手続きは完了です。一条拓斗様は『迷宮探索士』と『特殊害獣狩猟士』の免許をお持ちなので、こちらを提示していただくことで迷宮への進入、各種装備の購入や、鉱石の買取受付、その他の探索者業務が一切の制限なくおこなえます」
輪宮島に到着してすぐ、おれは役所に手続きに来ていた。
探索者が民間募集され始めてから制度は何度か改定されているが、今のところは『迷宮探索士』と『特殊害獣狩猟士』というふたつの国家資格が制定されている。
迷宮を探索して資源などを採取するには『迷宮探索士』免許が必要となり、それに加えて魔物を駆除するなら『特殊害獣狩猟士』免許が必要となる。
担当の女性が言うように、おれは両方とも取得済みだ。免許証は1枚のカードにまとめられていて、ネットやテレビでは『冒険者ライセンス』などと呼ばれている。
また、迷宮探索者自体を『冒険者』と呼んでいるようだ。ゲームやライトノベルに登場する冒険者という職業と、やることがそっくりだからだ。
おれとしても冒険者と呼ばれるほうがしっくりくる。
「ここまでで、なにかご質問はございますか?」
こういうやり取りは異世界での冒険者ギルドを思い出す。でも建物はいかにも日本の古びたお役所といった佇まいで、そのギャップがまた面白い。
「ああ、状況を知っておきたいんだけど、迷宮は今のところ何階層まで攻略されてる?」
「残念ながらまだ1階層も攻略されておりません」
「発見から3年も経って、まだ1階層目なのか……」
まあ、本物の冒険者がいなかったのでは仕方ないかもしれない。
冒険者の民間募集が始まったばかりの頃は、資格試験を受ける条件も厳しく、数が集まらなかったと聞いている。
その分エリートが集まったと期待されたが、厳しいとは言っても、冒険の実態に則していない条件で集められた者たちだ。ろくに成果を上げられるわけがない。
その後、条件が二度緩和され、質より量を確保する流れに変わっていった。学歴や武道の段位などの項目が条件から消えていったのだ。
それでようやく本物の冒険者であるおれが、資格を得ることができた。
「第1階層に出る魔物は? ウルフベアやミュータスリザードはテレビで映ってるのを見たけど、他にはどんなのがいる?」
「他には、エッジラビットとステルスキャットが確認されています。それにときどきグリフィンが現れ、大きな被害を出しております。グリフィンの駆除には、通常のものとは別に特別報奨金が支払われます」
「賞金首魔物ってことか……」
「はい。くれぐれもお気をつけください」
「ありがとう……って、あれ?」
立ち去ろうとしたところ、違和感に気づいて再び担当の女性に顔を向ける。
「いかがなさいました?」
「いや、君……なんでおれが言った魔物の名前がわかるんだ?」
おれが口にしたのは異世界での名称だ。日本では別の名前が付けられていたはず。多少名前は似ているが、すぐにわかるわけがない。
そもそもいくつかの名前は、彼女が先に口にしている。
「えっ? あっ!」
彼女もそれで初めて気づいたらしく、目を丸くして固まってしまう。
おれはその女性を、改めて観察する。
綺麗な銀髪。ロングのストレートヘア。瞳の色は黄色。ややツリ目がちだが、気が強いという印象はなく落ち着いていて気品を感じる。肌は透き通るように白く、美しい。
上品に着こなしている制服の胸元に『フィリア』と書かれた名札がある。
絶世の美女だが、見た目でも名前でも、日本人とは思えない。
うっかり気づかなかった……。
冒険者ギルドっぽい雰囲気につられて、異世界にいる気分になってしまっていたのだ。あちらでは、彼女のような見た目は珍しくなかったから。
試しに、異世界語で話しかけてみる。
「もしかして君は異世界人かい?」
するとやはり異世界語で返ってくる。
「はい。そういう貴方も、ですか?」
「いや、おれは日本人だよ。異世界には10年いたけど」
それを聞くとフィリアは、ぱぁあ、と花が咲くように笑顔になった。
「それではやはり、この世界と異世界には、行き来する方法があるのですね?」
「どうかな。おれは自分の意志で行き来したわけじゃないから……」
「それでも……貴方は希望です。わたくしたちもいつかは帰れるかもしれない……」
フィリアは嬉しそうに胸元で両手を握る。
「えぇと、今、わたくしたちって――?」
そのとき、休憩時間かなにかを知らせるチャイムが鳴った。
フィリアはハッとして顔を上げる。言葉も日本語に戻る。
「すみません。もう少しお話ししたいのですが、次の用事がありますのでこれで失礼いたします。探索者業務について、まだご質問がありましたら、次の係の者にお願いいたします」
ゆっくりとしつつも無駄のない動きで、すぐ帰り支度を済ませてしまう。
「申し訳ありません。時は金なり、とも申しますので……」
フィリアはそれきり、足早に立ち去ってしまった。
おれのほうも、役所にもう用はない。装備を買いに行かなければ。
彼女は名残惜しいが、また役所に来れば会えるだろう。その時にでも話の続きをすればいい。
「しかし……ほぼ未攻略の迷宮に、賞金首、それにニュースで語られない異世界人か」
町を歩きながら、独り言ちる
「面白くなりそうじゃないか……」
輪宮島に到着してすぐ、おれは役所に手続きに来ていた。
探索者が民間募集され始めてから制度は何度か改定されているが、今のところは『迷宮探索士』と『特殊害獣狩猟士』というふたつの国家資格が制定されている。
迷宮を探索して資源などを採取するには『迷宮探索士』免許が必要となり、それに加えて魔物を駆除するなら『特殊害獣狩猟士』免許が必要となる。
担当の女性が言うように、おれは両方とも取得済みだ。免許証は1枚のカードにまとめられていて、ネットやテレビでは『冒険者ライセンス』などと呼ばれている。
また、迷宮探索者自体を『冒険者』と呼んでいるようだ。ゲームやライトノベルに登場する冒険者という職業と、やることがそっくりだからだ。
おれとしても冒険者と呼ばれるほうがしっくりくる。
「ここまでで、なにかご質問はございますか?」
こういうやり取りは異世界での冒険者ギルドを思い出す。でも建物はいかにも日本の古びたお役所といった佇まいで、そのギャップがまた面白い。
「ああ、状況を知っておきたいんだけど、迷宮は今のところ何階層まで攻略されてる?」
「残念ながらまだ1階層も攻略されておりません」
「発見から3年も経って、まだ1階層目なのか……」
まあ、本物の冒険者がいなかったのでは仕方ないかもしれない。
冒険者の民間募集が始まったばかりの頃は、資格試験を受ける条件も厳しく、数が集まらなかったと聞いている。
その分エリートが集まったと期待されたが、厳しいとは言っても、冒険の実態に則していない条件で集められた者たちだ。ろくに成果を上げられるわけがない。
その後、条件が二度緩和され、質より量を確保する流れに変わっていった。学歴や武道の段位などの項目が条件から消えていったのだ。
それでようやく本物の冒険者であるおれが、資格を得ることができた。
「第1階層に出る魔物は? ウルフベアやミュータスリザードはテレビで映ってるのを見たけど、他にはどんなのがいる?」
「他には、エッジラビットとステルスキャットが確認されています。それにときどきグリフィンが現れ、大きな被害を出しております。グリフィンの駆除には、通常のものとは別に特別報奨金が支払われます」
「賞金首魔物ってことか……」
「はい。くれぐれもお気をつけください」
「ありがとう……って、あれ?」
立ち去ろうとしたところ、違和感に気づいて再び担当の女性に顔を向ける。
「いかがなさいました?」
「いや、君……なんでおれが言った魔物の名前がわかるんだ?」
おれが口にしたのは異世界での名称だ。日本では別の名前が付けられていたはず。多少名前は似ているが、すぐにわかるわけがない。
そもそもいくつかの名前は、彼女が先に口にしている。
「えっ? あっ!」
彼女もそれで初めて気づいたらしく、目を丸くして固まってしまう。
おれはその女性を、改めて観察する。
綺麗な銀髪。ロングのストレートヘア。瞳の色は黄色。ややツリ目がちだが、気が強いという印象はなく落ち着いていて気品を感じる。肌は透き通るように白く、美しい。
上品に着こなしている制服の胸元に『フィリア』と書かれた名札がある。
絶世の美女だが、見た目でも名前でも、日本人とは思えない。
うっかり気づかなかった……。
冒険者ギルドっぽい雰囲気につられて、異世界にいる気分になってしまっていたのだ。あちらでは、彼女のような見た目は珍しくなかったから。
試しに、異世界語で話しかけてみる。
「もしかして君は異世界人かい?」
するとやはり異世界語で返ってくる。
「はい。そういう貴方も、ですか?」
「いや、おれは日本人だよ。異世界には10年いたけど」
それを聞くとフィリアは、ぱぁあ、と花が咲くように笑顔になった。
「それではやはり、この世界と異世界には、行き来する方法があるのですね?」
「どうかな。おれは自分の意志で行き来したわけじゃないから……」
「それでも……貴方は希望です。わたくしたちもいつかは帰れるかもしれない……」
フィリアは嬉しそうに胸元で両手を握る。
「えぇと、今、わたくしたちって――?」
そのとき、休憩時間かなにかを知らせるチャイムが鳴った。
フィリアはハッとして顔を上げる。言葉も日本語に戻る。
「すみません。もう少しお話ししたいのですが、次の用事がありますのでこれで失礼いたします。探索者業務について、まだご質問がありましたら、次の係の者にお願いいたします」
ゆっくりとしつつも無駄のない動きで、すぐ帰り支度を済ませてしまう。
「申し訳ありません。時は金なり、とも申しますので……」
フィリアはそれきり、足早に立ち去ってしまった。
おれのほうも、役所にもう用はない。装備を買いに行かなければ。
彼女は名残惜しいが、また役所に来れば会えるだろう。その時にでも話の続きをすればいい。
「しかし……ほぼ未攻略の迷宮に、賞金首、それにニュースで語られない異世界人か」
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