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15.これからのわたしたち
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「よかったね。雪乃さん……桜井くんのお母さん、俳優のお仕事に復帰するのを許してくれて」
「ああ。ユイのがんばりのおかげだよ。ほんとにありがとな」
撮影後の帰り道。
わたしんちの最寄駅で電車をおりて、桜井くんと並んでのんびり歩きながらおしゃべりする。
今まであんまり意識してなかったけど、なんて幸せな時間なんだろう。
でも、この幸せな時間も、あと少しで永遠に終わってしまうんだね。
そう思ったら、余計に大切な時間に思えてくる。
「ううん。わたしひとりだったら、絶対に途中で諦めてた。桜井くんとエマちゃんがいてくれたからこそ、なんとかやり遂げられたんだよ。ふたりには、本当に感謝しかないよ」
「とりあえず、これで俺の願いは叶ったな」
桜井くんが、とっても満足げな顔をする。
「うん、よかったね。これから俳優として、有馬くんに負けないくらい、どんどん活躍しなくっちゃね」
笑顔で送り出してあげなくちゃって、わかってるんだけど……どうしても笑顔がぎこちなくなってしまう。
「は? ちげーよ。ユイの笑顔をもっともっとたくさんの人に見てほしいってやつだよ」
「へ!? い、いや、それは……」
そうだ。表紙を飾るってことは、本屋さんの店頭にわたしの顔が並んじゃうわけで……。
「……どどどどうしよう!」
わたしが真っ青な顔で叫んだら、桜井くんがぷっとふき出した。
「今さらなに言ってんだよ。おまえは立派に『Honey Bee』の専属モデルとして認められたってことなんだから。自信持てって」
「そっか。それは……うれしいね」
口元がゆるんで、えへへへっとおかしな笑いがもれる。
「俺もユイに置いてかれねえように、もっとがんばらなくっちゃなー」
「桜井くんは、どんな役がやってみたいの?」
「うーん……。まずは、小さな役でももらえたものを必死にこなして、コツコツと実績作ってくしかないよなー」
桜井くんが、日没後の西の空にわずかに残る夕焼けをじっと見つめている。
「……この前、竹上通で見かけたロケがあっただろ? ほら、陸玖がいたって、女子が騒いでたやつ。あれ、多分陸玖がはじめて主演やる映画でさ。それ知ったとき……ああ、これが嫉妬ってやつかーって。気持ちは焦ってんのに、俺はなんもできなくて。俺の手の届かないとこまで行っちゃったんだなーって……。そんな気持ちになったの、正直はじめてだった」
ああ、そっか。だからこの前、あんなそっけない態度だったんだね。
「でも、桜井くんならきっと有馬くんのとこまでいけるって。わたしは、そう信じてるよ」
となりを歩く桜井くんをそっと見あげると、桜井くんも静かにわたしの方を見た。
「わ、わたしだって、桜井くんに負けないように、モデルのお仕事をもっともっとがんばって……そうだ。今度はピン表紙の仕事が取れるようにがんばるから」
……って、ちょっと大きなこと言いすぎちゃったかな!?
「ああ。売れっ子になっても、また俺ともいっしょに仕事してくれよな」
「えぇっ!? わたし、俳優はムリだよ?」
「なに言ってんだよ。もちろん『Honey Bee』での共演に決まってんだろ」
「だって桜井くん……モデルのお仕事やめちゃうんでしょ?」
改めて言葉にすると、これは現実なんだって認めざるを得なくて、視線がどんどんさがっていく。
「は? やめるなんてひと言も言ってねえだろ。俳優の仕事がしたいとは言ったけどさ」
「え……じゃあ、やめないの?」
そっと顔をあげると、桜井くんがニヤニヤしながらのぞき込んできた。
「なになに? 俺がやめちゃうと思って、寂しかった?」
「べっ……別に桜井くんなんかいなくたって……」
そう言いかけて、途中で言葉を飲みこむ。
ちがうよね?
「ああ。ユイのがんばりのおかげだよ。ほんとにありがとな」
撮影後の帰り道。
わたしんちの最寄駅で電車をおりて、桜井くんと並んでのんびり歩きながらおしゃべりする。
今まであんまり意識してなかったけど、なんて幸せな時間なんだろう。
でも、この幸せな時間も、あと少しで永遠に終わってしまうんだね。
そう思ったら、余計に大切な時間に思えてくる。
「ううん。わたしひとりだったら、絶対に途中で諦めてた。桜井くんとエマちゃんがいてくれたからこそ、なんとかやり遂げられたんだよ。ふたりには、本当に感謝しかないよ」
「とりあえず、これで俺の願いは叶ったな」
桜井くんが、とっても満足げな顔をする。
「うん、よかったね。これから俳優として、有馬くんに負けないくらい、どんどん活躍しなくっちゃね」
笑顔で送り出してあげなくちゃって、わかってるんだけど……どうしても笑顔がぎこちなくなってしまう。
「は? ちげーよ。ユイの笑顔をもっともっとたくさんの人に見てほしいってやつだよ」
「へ!? い、いや、それは……」
そうだ。表紙を飾るってことは、本屋さんの店頭にわたしの顔が並んじゃうわけで……。
「……どどどどうしよう!」
わたしが真っ青な顔で叫んだら、桜井くんがぷっとふき出した。
「今さらなに言ってんだよ。おまえは立派に『Honey Bee』の専属モデルとして認められたってことなんだから。自信持てって」
「そっか。それは……うれしいね」
口元がゆるんで、えへへへっとおかしな笑いがもれる。
「俺もユイに置いてかれねえように、もっとがんばらなくっちゃなー」
「桜井くんは、どんな役がやってみたいの?」
「うーん……。まずは、小さな役でももらえたものを必死にこなして、コツコツと実績作ってくしかないよなー」
桜井くんが、日没後の西の空にわずかに残る夕焼けをじっと見つめている。
「……この前、竹上通で見かけたロケがあっただろ? ほら、陸玖がいたって、女子が騒いでたやつ。あれ、多分陸玖がはじめて主演やる映画でさ。それ知ったとき……ああ、これが嫉妬ってやつかーって。気持ちは焦ってんのに、俺はなんもできなくて。俺の手の届かないとこまで行っちゃったんだなーって……。そんな気持ちになったの、正直はじめてだった」
ああ、そっか。だからこの前、あんなそっけない態度だったんだね。
「でも、桜井くんならきっと有馬くんのとこまでいけるって。わたしは、そう信じてるよ」
となりを歩く桜井くんをそっと見あげると、桜井くんも静かにわたしの方を見た。
「わ、わたしだって、桜井くんに負けないように、モデルのお仕事をもっともっとがんばって……そうだ。今度はピン表紙の仕事が取れるようにがんばるから」
……って、ちょっと大きなこと言いすぎちゃったかな!?
「ああ。売れっ子になっても、また俺ともいっしょに仕事してくれよな」
「えぇっ!? わたし、俳優はムリだよ?」
「なに言ってんだよ。もちろん『Honey Bee』での共演に決まってんだろ」
「だって桜井くん……モデルのお仕事やめちゃうんでしょ?」
改めて言葉にすると、これは現実なんだって認めざるを得なくて、視線がどんどんさがっていく。
「は? やめるなんてひと言も言ってねえだろ。俳優の仕事がしたいとは言ったけどさ」
「え……じゃあ、やめないの?」
そっと顔をあげると、桜井くんがニヤニヤしながらのぞき込んできた。
「なになに? 俺がやめちゃうと思って、寂しかった?」
「べっ……別に桜井くんなんかいなくたって……」
そう言いかけて、途中で言葉を飲みこむ。
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