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14.いざっ!
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「ユイ、大丈夫? めちゃくちゃ緊張してるみたいだけど」
「だだだ大丈夫。ちちちちょっと震えが止まらなくなってるだけだから」
「いや、それ大丈夫じゃないでしょ」
となりに立つエマちゃんが、あきれた顔でわたしを見てる。
えーっと、今、わたしたちがどういう状況にあるのかというと――。
「それじゃあ、エマ、ユイ、そろそろ撮影はじめるわよ」
「はーい! ――ほらっ、行くよ」
エマちゃんに腕を引かれ、ぎぎぎと油の切れたロボットみたいにぎこちなく歩いていく。
「もしピン表紙なんかだったら、ユイ気絶してるんじゃない?」
うん。その自信しかない。
そう。なんと実はわたし、エマちゃんといっしょに表紙デビューすることになったの!
今でも信じられないよ。
マネージャーさんから連絡をもらったときは、驚きすぎて、うれしすぎて、涙が止まらなくなっちゃって。
そんなわたしにつられたのか、マネージャーさんまで涙声になってたっけ。
そのとき、どんな話をしたのか正直あまりよくは覚えていないんだけど、泣きながら「ざぐらいぐんに、ざづえいのどぎにぎでもらっでもいいでずが(桜井くんに、撮影のときに来てもらってもいいですか)?」って聞いたのだけはよく覚えてる。
早く桜井くんに知らせたい。桜井くんにもわたしの晴れ舞台を見てほしいって。
頭の中にはそれしかなかった。
「おい、ユイ!」
おそるおそる振り向くと、怖い顔をした桜井くんが大股で近づいてきていた。
わわわわたしがヘタレすぎて、おおお怒られる……!
「ががががんばるからっ! ううううしろで見てて!」
わたしの言葉なんかおかまいなしに、ずんずん近づいてきた桜井くんが、わたしの目の前で立ち止まる。
「がんばったご褒美に、大好きなグッズ、毎回買ってるんだろ?」
「? う、うん……」
たしか前に、エマちゃんにはその話をした覚えがある。
けど、突然なんで?
エマちゃんの方を振り向くと、エマちゃんが桜井くんの方を指さした。
わたしが再び桜井くんの方を見ると――。
「あぁっ! それは予約限定のクマ吉アクリルフィギュア(大)! わたしが買いそびれたやつ!!」
桜井くんの方に手を伸ばそうとしたら、桜井くんが、すっとそれを頭上に掲げた。
「へぇ、そうだったんだー。偶然だなー。劇場版のプロモーションの仕事が入ったおかげで、またもらっちゃってさー。これ、どうしよっかなー」
ワザとらしく棒読みで桜井くんが言う。
「わたし、がんばってくるね! さあ行くよ、エマちゃん!」
わたしは意気揚々とエマちゃんの腕を引いて、撮影スペースへと向かった。
今回は十二月号の表紙撮影っていうことで、わたしもエマちゃんも白のフワフワニットに、耳元にはゆらゆら揺られるシルバーのイヤリングをつけている。
「季節感、マジで狂うよねー」ってエマちゃんが着替えながら言っていたのも当然で、撮影日の今日はまだ九月。
スタジオ内は、空調をガンガンに効かせているおかげで、この格好でもなんとかいられるけど、屋外は夏の名残を思わせる強い陽射しが降り注いでいて、まだまだ厳しい暑さが続いている。
順調に撮影が進みはじめたとき、入り口から誰かが入ってくるのに気がついた。
ひぇぇっ、雪乃さんだ。
「ユイ、どうした? 笑顔が固いよ」
すぐにカメラマンさんから注意が飛んでくる。
そんなわたしのことを、雪乃さんが黙ったままじーっと見つめてくる。
落ち着け、わたし。
軽く目を閉じると、深く息を吐いてから、ゆっくりと吸い込んだ。
「だだだ大丈夫。ちちちちょっと震えが止まらなくなってるだけだから」
「いや、それ大丈夫じゃないでしょ」
となりに立つエマちゃんが、あきれた顔でわたしを見てる。
えーっと、今、わたしたちがどういう状況にあるのかというと――。
「それじゃあ、エマ、ユイ、そろそろ撮影はじめるわよ」
「はーい! ――ほらっ、行くよ」
エマちゃんに腕を引かれ、ぎぎぎと油の切れたロボットみたいにぎこちなく歩いていく。
「もしピン表紙なんかだったら、ユイ気絶してるんじゃない?」
うん。その自信しかない。
そう。なんと実はわたし、エマちゃんといっしょに表紙デビューすることになったの!
今でも信じられないよ。
マネージャーさんから連絡をもらったときは、驚きすぎて、うれしすぎて、涙が止まらなくなっちゃって。
そんなわたしにつられたのか、マネージャーさんまで涙声になってたっけ。
そのとき、どんな話をしたのか正直あまりよくは覚えていないんだけど、泣きながら「ざぐらいぐんに、ざづえいのどぎにぎでもらっでもいいでずが(桜井くんに、撮影のときに来てもらってもいいですか)?」って聞いたのだけはよく覚えてる。
早く桜井くんに知らせたい。桜井くんにもわたしの晴れ舞台を見てほしいって。
頭の中にはそれしかなかった。
「おい、ユイ!」
おそるおそる振り向くと、怖い顔をした桜井くんが大股で近づいてきていた。
わわわわたしがヘタレすぎて、おおお怒られる……!
「ががががんばるからっ! ううううしろで見てて!」
わたしの言葉なんかおかまいなしに、ずんずん近づいてきた桜井くんが、わたしの目の前で立ち止まる。
「がんばったご褒美に、大好きなグッズ、毎回買ってるんだろ?」
「? う、うん……」
たしか前に、エマちゃんにはその話をした覚えがある。
けど、突然なんで?
エマちゃんの方を振り向くと、エマちゃんが桜井くんの方を指さした。
わたしが再び桜井くんの方を見ると――。
「あぁっ! それは予約限定のクマ吉アクリルフィギュア(大)! わたしが買いそびれたやつ!!」
桜井くんの方に手を伸ばそうとしたら、桜井くんが、すっとそれを頭上に掲げた。
「へぇ、そうだったんだー。偶然だなー。劇場版のプロモーションの仕事が入ったおかげで、またもらっちゃってさー。これ、どうしよっかなー」
ワザとらしく棒読みで桜井くんが言う。
「わたし、がんばってくるね! さあ行くよ、エマちゃん!」
わたしは意気揚々とエマちゃんの腕を引いて、撮影スペースへと向かった。
今回は十二月号の表紙撮影っていうことで、わたしもエマちゃんも白のフワフワニットに、耳元にはゆらゆら揺られるシルバーのイヤリングをつけている。
「季節感、マジで狂うよねー」ってエマちゃんが着替えながら言っていたのも当然で、撮影日の今日はまだ九月。
スタジオ内は、空調をガンガンに効かせているおかげで、この格好でもなんとかいられるけど、屋外は夏の名残を思わせる強い陽射しが降り注いでいて、まだまだ厳しい暑さが続いている。
順調に撮影が進みはじめたとき、入り口から誰かが入ってくるのに気がついた。
ひぇぇっ、雪乃さんだ。
「ユイ、どうした? 笑顔が固いよ」
すぐにカメラマンさんから注意が飛んでくる。
そんなわたしのことを、雪乃さんが黙ったままじーっと見つめてくる。
落ち着け、わたし。
軽く目を閉じると、深く息を吐いてから、ゆっくりと吸い込んだ。
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